危険な出会い
勢いで書き始めてしまいましたので、更新は遅めですがよろしくお願いいたします。
宇宙からの侵略者に対し、人類は結束し戦った。
侵略者達が使う特殊な力。それに対抗するためなのか、それとも未知の何かが持ち込まれたからか、特殊な力を持った人間が現れた。それは、大きな力であったり、些細なものであったり、人によって違っていた。
その力を持った者達の団結により、侵略者は退けられた。
しかし、侵略者との戦いが終わってからも、特殊な力を持つ者は生まれた。先天的なものから、後天的なものまで。様々な能力が生まれた。
しかし、外敵がいなくなると、その能力を持つ者と持たない者、あるいはそれを利用しようとする者達の争いが始まった。同時に能力を持つ者のよる犯罪とそれを取り締まる組織が生まれた。様々な組織が生まれ、能力者の囲い込みが始まった。
『運がいいね 』
今まで何人もの人に茜はそう言われた。
『そういう能力なんじゃない?』
能力の有無やどんな能力なのかを調べてくれる機関はいくつもある。友人達に何度か誘われたが茜は全て断った。
調べる必要はなかった。彼女は自身の能力を知っていたから。
(運がいいわけじゃない。むしろ悪い方だよ)
茜の前には常に危険へと繋がる道があった。それでも彼女が18年間生きてこれたのは、生まれ持った能力のおかげだった。
彼女には分かるのだ。危険の匂いが。
強く届く匂いの先に危険がある。今までの経験から匂いでどんな危険があるのか分かるものもあるが、未知の危険の方が多い。
だから茜は匂いから離れることを選ぶ。危険を避けるために。
この日も茜は匂いを感じた。高校の卒業式。式が終わり、先生と生徒達が涙を流しながら校庭で別れを惜しんでいる。
一通り挨拶を終えた茜は一足先に帰ろうと、校門へと向かっていた。同級生達の多くから漂う、彼らがハメを外しすぎて誰かに怒られる事を予感させる匂いから逃げるために。
以前その匂いをさせていた先輩は、真夜中に花火を楽しんで騒動を起こしていた。
(卒業早々に補導されたくないわ)
校門へと続く道、校舎の横を通ろうとした茜は、思わず両手で鼻を塞いだ。
危険の匂いは、そんな事をしても防げない。そんな事は分かっていたはずなのに、思わず手が動いてしまうほど強烈な匂いだった。
(今まで嗅いだことのない匂いだ……)
どんな危険なのか分からない。茜は別のルートを選ぼうとしたがそちらからも匂いがする。
校舎の周りはどこもかしこも匂いがした。
(さっきまでしなかったのに!)
茜は匂いから逃げるように、校舎から遠い裏門へと急いだ。校舎から離れるとあっさりと消えた匂いに、ほっと安堵の息をつく。
(早く帰ろう……)
茜は裏門が目に入ると同時に、人影に気がついた。門の上に誰かが座っている。
「お前、鼻が効くな」
腹に響くような低音。サングラスをしたその男はニヤリと笑い、茜へと顔を向けた。
黒い短髪、着ている黒いシャツとデニムパンツはどこか窮屈そうで、体格の良さを表している。
男は門から降りると茜の前まで歩いてきた。
(おっきいな……190ぐらいかな)
30センチ近く上にある顔を見上げると、男はサングラスを少しずらし茜を見ていた。目が合うとすぐにサンクスをかけ直した。
「なかなか面白いな」
「あの……」
「お、悪い悪い。気を付けて帰りな」
「はぁ、ありがとうございます」
男は茜の前から退いた。
「忘れもんないか? このあとちょっと騒がしくなるから、取りには戻れねぇぞ」
「はい、大丈夫です……」
「じゃ、平気だな」
手を振る男に軽く頭を下げ、茜は足早に裏門を出て家に向かって歩きだした。
(なんだったんだろう……みんな大丈夫かな)
茜は足を止めた。振り返ればまだ裏門が見える。学校で何かが起こるなら、同級生達も巻き込まれるかもしれない。
(いや、私が戻ったところで何もできないし……)
再び歩きだそうとした時、強烈な匂いが鼻をついた。反射的に匂いから遠ざかる。
それまで茜が立っていた場所のすぐ隣に、コンクリートを砕く勢いで何かが落ちてきた。
「アレ、ズレタカ?」
機械音声のような、調子の外れた声。落ちてきたそれは、
「ロボット……?」
茜が思わず声に出す程、ロボットだった。
「オマエ、アノガッコウノセイトダナ?『セイギノウツワ』ヲシッテルカ?」
(せいぎのうつわ……?)
聞き覚えの無い言葉に、茜は一瞬思考を奪われる。
「シラナイカ? マア、ドチラニシロゼンイントラエルノハカワラナイガナ」
ロボットが突き出した右手から銃口が現れた。
「オトナシクシタラコロサナイ、イマハ」
後ろに下がろうとしたが、背後からも匂いが漂ってきた。それとほぼ同時に、爆発音が響いた。
「ハジマッタカ」
表情のない顔と音声なのに、茜はロボットが笑っていると思った。
(ああ、ほんと私は……)
「ツイてない!」
「ツイてねぇな!」
腹に響く低い声に叫びがかき消されると同時に、茜の背中に何かがぶつかる。
「え?」
「あ?」
学校の裏門で出会った男が、茜に背を向け顔だけで振り向いていた。
「んだ、逃げんの間に合わなかったのか? いや、俺が引き留めたからか」
「え……うひゃあ!」
男は茜の腰に太い腕を回すと、そのまま片手で抱き上げた。
「責任とって逃がしてやるから大人しく掴まってろ!」
「チッ、ジャマガハイッテルノカ」
ロボットが男に銃声を向ける。
「その女もターゲットか?」
学校の方から現れたもう一人、顔をフルフェイスのヘルメットで隠した女が、同じように男に銃口を向けながらロボットへと尋ねた。
「アア、ソウダ」
「そうか。さっさとそれを渡せ」
後半の言葉は男に向けたものだった。
「その必要はないと思うぜ? あんたらの本命はあっちにいるらしいからな」
女とロボットの両方を警戒しながら、男は笑いながら言った。
「それなら、お前にも必要ないだろう? 目的は一緒なんだからな。お荷物は手離したらどうだ?」
「お前らが手を出さねぇなら、離すぜ?」
「ソレハムリダナ。モクテキノモノデハナイノナラ、ショブンスル」
「なら、離せねぇな」
じりじりと少しづつ三人の距離が縮まる。
誰が仕掛けるか緊迫した空気の中、茜は匂いを嗅ぎとった。
「後ろ右斜め上!」
茜の声に男は迷わず振り返り、いつの間にか手にしていた拳銃で、迫っていたドローンを撃った。大きな爆発音を合図に、女とロボットが走り出した。
「二対一はキツいな!」
男は茜を抱えたまま二人に背を向けると、近くにあった学校の壁に向かって走り出した。
「逃がすか!」
男の腕に女の撃った弾が掠り血が出る。そんなことを気にした様子もなく、男は壁に軽々と飛び乗り校庭へと降りる。
「腕……!」
「気にすんな!」
後ろを振り向き、追って壁を乗り越えたロボットを確認する。
「アイツ嫌いなんだよなー」
「っ……下!」
茜の声とほぼ同時に男が横に飛ぶ。男がいた場所の地面から金属の手のような物が飛び出した。
「あぶね! 何だよ、あれ!」
「グラウンドの下、何か這ってる!」
「新しい武器か!」
何度か同じように地面から飛び出してくるが、その度に茜が察知し男が避ける。
「イイカゲンニツカマレ!」
「嫌なこった!」
痺れを切らしたロボットが、マシンガンのようになんぱつも撃ってくる。しかし、その弾の全てが 何かに当たり下に落ちた。
「お! サンキュ!」
男は足を止めた。そのとなりに小さな人影が立つ。
「おつかれー!」
場にそぐわない明るい挨拶をしたのは少女だった。結んだ金髪を揺らしている。
「ジャマガフエタカ」
「待て」
攻撃をしようとするロボットを背後に追いついた女が、スマホを片手に制止する。
「もういい。目的は達成した」
「……ソウカ」
ロボットはあっさりと腕を下ろした。
「あ? おい?」
男は隣の少女を睨み付けた。
「ごめん! 負けちった!」
「あのなぁ……あ! 待ちやがれ!」
男が少女に文句を言おうとしている間に、女とロボットは背後に現れた扉を潜り姿を消した。消えていく扉に男が向けてナイフを投げたが、すり抜けた地面に落ちた。
「くそっ! またやられた!」
「最近連敗だねー……ね、ところでさ」
「あ? んだよ?」
「その子、誰?」
少女は男に抱えられたままの茜を覗き込んだ。
「あ、どうも、こんにちは……」
「こんにちはー。どうしたの? 誘拐?」
「んなわけあるか! 怪我ねぇか?」
「あ、はい」
男は茜を下ろした。
「巻き込んで悪かったな。んで、助かったわ」
「いえいえ、こちらこそ?」
「え、なになに? どういうこと?」
「おかげで怪我少なくてすんだ」
「あ! ほんとだー! いつももっとボロボロなのにねー」
どうすればいいのか分からず立ち尽くす茜に、男は彼女の肩に腕を回した。
「で、責任とって逃がすとは言ったが、ちょっと厄介な事になりそうだから、とりあえず一緒に来てくれねぇ?」
「……はぁ、分かりました」
「え、いいの? こんな怪しいオッサン信じて?」
「誰がオッサンだ!」
仲間のはずの少女からの言葉に、茜は男を見て言った。
「臭くないから大丈夫かと」
「え、加齢臭が?」
お読みいただきありがとうございます。
現在ストックなどがありませんのでら気長にお付き合いいただけたらと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。