私のエッセイ~第二弾:世界一美しいミイラ
最近、あるきっかけが元で、「シチリア語」を勉強し始めた。
100年前に亡くなった、一人の少女が使っていた言語だ。1920年12月6日に、彼女は急性肺炎でこの世を去った。年齢、わずか2歳。場所は、イタリア領のシチリア島。
これだけなら、どこにでもある記事だが、問題は彼女の死後である。『ロザリア・ロンバルド』という名のこの少女、死後に奇跡を起こし、世界中を驚かせることになるのだ。
彼女の死を嘆き悲しんだ両親が、『サラフィア』という医者に、遺体の保存を頼み、今でいうところの「エンバーミング処理」を施した。そしてロザリアは、ミイラとなって原型をとどめることになるのだが・・・そのミイラというのが、普通のミイラではなかった。
「世界一美しいミイラ」。そんな表現がふさわしい、愛らしい姿。とても100年前の遺体とは思えない、まるで眠っているようなミイラなのだ。気になる人は、ネット検索すればすぐに画像を見ることができるので、ぜひ一度は見て驚いてほしい。
この奇跡のようなミイラ、あまりにも完璧な保存状態なので、蝋人形ではないかと疑われ、過去にMRIで検査されたことがある。しかし、内臓も脳もまったく損傷無く体内に存在していた。
私がこの少女のことを「奇現象」という雑誌で知った1990年当時は、「サラフィア医師が急死してしまい、奇跡のような保存法が永久に謎になった」、というところまでしか分からなかった。
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ところが最近、サラフィアの遺したメモが発見され、「魔法の材料」が明らかになった。
・・・ホルマリンと亜鉛酸、そして、サリチル酸とグリセリン。
私見になるが、材料が分かった現在でも、彼女のような美しいミイラはもう作り出せまい。かのレーニンも、北朝鮮のキム親子もエンバーミング処理されているが、毎年莫大な金と手間をかけて、引き続きの保存処理をしなければならないのだ。
でも、ロザリアは、一度処理を施されただけ。その後は、100年間、静かに眠り続けている。
そんな彼女が生前、両親や島の人々からその耳で聞き、そして2歳ながらわずかに話したであろう「シチリア語」をぜひとも学習してみたくなった、という次第だ。