第九話 別行動
まずは、マートル先生の車の鍵を取りに行かなければ。
車の運転が出来る俺、レオと、何人かの生徒は駐車場近くの第2校舎の1階、どこかのゾンビがいない教室で待機。
相談の結果、職員室に行くのは強く申し出た眼鏡とじゃんけんで負けた金髪の男生徒2人と金髪の男生徒が行くならと、自ら申し出た緑髪女生徒1人。
残りの黒髪の男生徒1人と赤髪の女生徒1人とジュリアは待機組へ。
「…駐車場も外から来たゾンビが多いな。いない場所は…ダメだ、どの教室もゾンビがいる。」
「一番少ないのは?」
レオが訊ね、俺は眷属をもう1度、1階を周らせる。
「図書室。駐車場からちょっと遠いせいか数は少ない。窓が開いていて、そこからゾンビが入って…入った。合計4体、撃破するなら今のうちだけど。」
結果、作戦変更。図書室組はゾンビを撃破したのち、窓を閉めて職員室組の到着を待機に。
「━━━よし、それじゃ話した通りに行動しよう!」
「なぁ、あの2人に作戦とか任せて良かったのか?屋上で騎士団を待てば良かったんじゃ。」
「ケンネス、俺達は1日待った。本当だったら、今頃とっくに俺達は安全な所にいる筈だぞ。」
「そーそー、私達の素人意見なんかよりアレを知ってるクリストや、超エリート貴族のレオの意見の方が何倍もいいって。」
無音魔法とクリストが使役する眷属の誘導によりゾンビから察知されず、1階まで来たのち別行動。
職員室までゾンビを避けて、または防衛魔法で防ぎながら来た眼鏡の男生徒ジョゼフと金髪の男生徒ケンネス、1人の緑髪の女生徒エンリは、鍵を掛けられていた扉を解錠魔法で開けると素早く閉め、無音魔法を解除したのち破壊されないようエンリが強化魔法を施した。
職員室は教室2つ分程の広さに縦1列に職員の机が配置されている。
廊下側の壁には大きな棚が2つに、左右の壁には黒板が張られている質素な内装だ。
中にいたのは職員であったモノ達3体、1体は窓側に立っており、残り2体は右側に集まり死体を貪っていた。
ジョゼフ達は左側へ集まり黒板を背にしてゾンビに向かって手を前に構える。
「そんじゃ」
「よっし、頑張って2人共!」
「大丈夫だよな…」
「「『切り裂け』!!」」
全ての斬撃がゾンビ、机上の物へと当たり切断していく。
「があぁぁ!!」
魔力で編まれた刃が机に当たり威力が弱まった為か、死体に集まっていた片方のゾンビは背中が抉れただけで、活動停止には至らず尋常ではないスピードで迫ってきた。
「『切り裂け』!」
ケンネスがもう一度斬撃を放ち、ゾンビの両足を切断させ転ばせた。
その切り口から、粘り気のある赤黒い血が溢れ落ちる。
ゾンビは唸り声を上げながら、匍匐前進するように、ケンネスへと近づいていく。ケンネスはその行動に気持ち悪さを感じ眉をひそめた。
人間なら痛みを訴えたり、足を切断した相手を罵る筈だが、これはただただ目的を達成させようとする、執念のようなものを感じたのだ。
ジョゼフが近くにあったノートを持ち、その両足が無いゾンビの頭上へと放り投げる。
「『重くなれ』」
ドズン、ゴシャ
ノートが落下し、軽い筈の物が重い音を立てゾンビの頭を潰した。
ノートは赤黒く染まり、ジャムのような血が勢いよく飛び出す。
「これで終わりだな。ゾンビ討伐らっくしょーじゃんか。」
「あ、あぁ。」
ジョゼフが想像していた時間より、早く撃破が終わり落胆したのか尊大に言葉を吐いた。
「ケンネース!多分これだよね!」
エンリが大きな茶色のカバンから車の鍵と思われる、小さな鍵を掲げ、2人に見せる。
「鍵って、それだけだったか?」
「んー、他にも色々あるよ?でもこれだけ別だった。」
ジャラリと音を立て、まとめられた大きな鍵の束を見せた。
古いアンティークキーで、どれも色褪せ、所々茶色い錆がこびりついており、何の鍵かは不明だが少なくともこの学園の鍵では無い事が分かる。
「うわ、多。てか、古いタイプの物ばかりだな。」
「その小さい鍵がそうだろ、早く戻ろうか。」
ジョゼフがエンリから鍵束を奪い、茶色のカバンへと押し込む。
3人は廊下へと出ようと強化魔法を解き、自身へ無音魔法を施す。
そして、ゆっくりと少し扉を開け、隙間から廊下の様子を伺う。
「…よし、行こう!」
ジョゼフがゾンビが少なくなった事を確認し、職員室から3人は出る。
「あァ、かわイそウに…カワいソうニ…。」
「な!?」
食堂まで向かうと人によく似た3m程のモンスターがいた。体は何も着ておらず、血色の良い薄だいだい色に赤い染みが所々こびりついていた。
蜘蛛のように細長く曲がった手足には、肉食獣のような赤黒い太く鋭い爪が光を反射しており、地面に食い込んでいる。
体は妊婦のように膨らんだ腹に、胸部や背中は骨が浮き出てており、餓鬼のような姿をしていた。
顔は無表情であり、震えた口からげっ歯類のような、細く黄ばんだ歯が見え、粘り気のある涎が垂れては落ちていく。
それを目撃した3人は、驚き立ち止まっていた。そこに複数のゾンビが迫り来る。
「マートル…先生?」
ケンネスの呟きと共に、ゾンビが襲いかかって来た。