第八話 脱出方法
マリスは校舎内に入ると無音魔法をかけ、急いで下に降りる。
残りの見ていない階を捜索し、もう一度全ての校舎を駆け回ったものの生きた人間は見つけられず、彼は訓練所へと向かった。
訓練所は校舎から遠く、外からしか入れず安全の為鍵は掛けている。
その鍵はゾンビの多い1階の職員室から取りに行かなければならない。
「…モンスターの足跡か。…見たこともない、どこぞの貴族が余所から連れてきたものが逃げたのか?」
その道中、人の手足に良く似た足跡を見つけた。マリスは恐らくクリスト達が言っていたモンスターだと予測し、警戒しながら進んでいく。
「…鍵は掛かっているか。」
訓練所に着き、扉を開けようとする。だが、鍵は掛かっており開かない。
訓練所を見上げれば2階の窓が壊されており、その下には少々のガラスの欠片と、モンスターの足跡が残されていた。
跳んで入ったのか?…ここなら校舎から遠い。無理に倒す必要は…いや、ゾンビはいない。安全の為に倒すなら今か。
扉の錠周辺を攻撃魔法の弾丸により穴を空け、中に入る。
「… …、 …」
生存者か!?
マリスは声のした2階へと向かう。2階は窓が無く、日の光が無く薄暗い。
「『火よ灯れ』」
マリスの目の前に炎の玉が出現し、オレンジ色の明かりが周囲を照らす。
「誰か、いるのか!」
カタン、ガタ
声に反応するかのように、『練習具倉庫』とプレートのついた部屋で何か硬い物が落ちる音がした。
マリスは扉の横に着き、壁を背にして扉を開ける。そして開いた隙間から覗き込む。
まず、風を感じた。そこは窓が壊れた部屋であり、日の光によって周囲を照らされている。
棚が設置されており、その中には武器の代替品が掛けられていた。
床には棚から落ちたのだろうバケツが転がっているのみで、誰もいない。
部屋へ入り、隠れる場所が無い事を確認してから窓から外を覗く。人も、モンスターも見つけられず、それらしい足跡も無い。
「…いない、風で落ちたのか?」
呆気ない結果に、ふぅ、と安堵のため息をつき振り返る。
逆さまに、こちらを、無表情のマートルが鼻先に触れられる程の距離にいた。
「ジュリアさん、1時間経った。ここから脱出する方法を考えよう。」
「レオ君…。そうだね、ごめんなさい。」
ジュリアは目に溜めた涙を拭き、俺達の方を向く。彼女はずっと屋上の扉を眺め、マリスさんを待ち続けていた。
戻らないとなれば、多分殺されたのだろう…。今はここから全員脱出しなければならない。
マリスさんが戻らないとなれば、俺達が束になっても敵わないモンスターだろう。
「脱出するといってもどうやって。」
眼鏡の男生徒が訊ねる。ここにいる8人、全員無事に脱出できる方法は何だろうか。
「裏門、駐車場の車で、何とか…なるかな?」
赤髪の女生徒がおずおずと提案した。全員、それだ!と興奮してその提案に賛成の雰囲気を出す。
「車、そうだ!2台あったな!白いの黒いの!」
「確かにあるな。で、誰が運転する?」
興奮気味の黒髪の男生徒に、レオが水を差す。彼や周りは水を掛けられたように興奮が冷めていった。
この世界の規則は俺のいた世界よりユルい。免許が無くとも運転ができ、法廷速度も決まっていない、誰でも買える。が、物凄く高い。それで、運転出来る者は少ない。
「俺が出来る!」
ここで前世の運転技術が役に立つ。前にレオの屋敷へ遊びに行った時に借りた車のカタログを見たが構造や外観等は前世と変わらなかった。
あと1人、運転出来る人がいれば。
「十分、ここから出られるな。」
レオが車のキーを見せる。それは高い車の中でも更に高ランク、所謂高級車のロゴだ。
「持っていたの、黙ってたのか?」
「俺の車は乗車定員が4人まで。ここにいる人を無理矢理入れても、1人は置いていかなければならない。車の事を話せば奪われてしまう恐れがあるし、俺1人逃げても、胸糞悪いからな。」
ドヤ顔でちょっとムカつく。つか持っているんなら運転させろや、このイケメン貴族坊っちゃまめ!…あと1つは誰のだ?
「もう1つはマートル先生のだ。恐らく職員室に鍵があると思う。」
「へー、教員って儲かるのか。俺騎士団になろうと思ってたけど、教員になろっかな。」
俺のジョークに怒ったジュリアが俺の頬をつねる。
「クリスト、ちょっと時と場所を考えましょ。」
「ごめん、ごめんなさい!ちょっと空気読めなかった!」
脱出方法は決まった。後は安全に車まで向かう方法を考えないと。