第六話 新たな脅威
廊下は暗く、ゾンビの黒い影がユラユラと動いているのがようやく分かる程度。
俺はトイレの出入口にて待機&警戒中である。無音魔法のお陰でトイレ内部の音は聞こえないものの、2分くらい経ってジュリアが出てきた。
「お待たせ。」
「おう、手ちゃんと洗ったか?」
「洗ったわよ、バカ!」
「うがぁぁ!」
ジュリアが大声を出したせいで、ゾンビが走って来た!急いでトイレの個室に入り、扉を閉める。
「『強化』!」
扉を強く叩く音がするものの、しばらくすれば諦める…が、出ていかずそこを彷徨いているようだ。
どーしよ、ここの階は少ない…ダメだ、俺はゾンビにあまり有効ではない炎系魔法のみ、ジュリアは攻撃魔法を取得していない。
ジュリアは無音魔法を個室内に展開し、壁に凭れた。
「ごめん、大声出しちゃって。ちょっとこの状況に慣れてなくて、イライラが溜まってたみたい。」
「いや、俺が悪い。…いつものクセが出た。」
「…ネガティブな程、変な事を話そうとするクセ?」
「無神経過ぎた。ごめん。」
悪いクセ…更に『ロータス』の精神を落ち着かせる薬のお陰で、日常的な会話が出てしまった。
しばらく黙っているが、また悪い妄想をしてしまいそうだ…
「えっと、あまり遅いとみんな心配させちゃうな、早く出ていかないかな。」
「うん。ねえ、クリスト。お父さんも第2校舎にいる人達もどうなったのかな?」
「こっちに来ないから、多分大丈夫だよ。明日位には合流すると思うよ。」
そう思いたい。そうでなければ俺は…いや、悪い考えは止めておこう。しかし、何でこうも長くいるんだ?…こうなったら、強化で足の素早さを上げて屋上まで行くか。…ん?
遠くで何かの音か声が聞こえた。俺が耳をすませても扉の前にいるゾンビの唸り声と足音しかきこえない。
「どうしたの?クリスト。」
俺の警戒する雰囲気を察したのか、ジュリアが声を掛けてきた。
気のせいだと彼女へ伝えないと━━━
「ぎゃぎ!」
「!?」
ジュリアから小さな悲鳴が漏れたが、無音魔法で個室の外には聞こえていない。
ドチャ、グチャ…
何か柔らかいモノを叩きつける音が聞こえ、俺は下の隙間から覗く。
あるのは赤い血溜まりしかなく、ゾンビが…いない?
ドチャッ
ゾンビの白く濁った目と俺の目が合う。上から落ちてきた?と思いきや、すぐに上へ消える。
上に何かいるのかと、顔を上げても扉の上は見えないようになっている。
ドガァ!
「きゃあああ!!!」
「くっ!?」
強化したはずの扉が張り出し、ヒビがはいる。下からゾンビの血が流れ、天井辺りに固いものがぶつかる音がした。
「う…ぐぅぅ。」
怨みがこもった、地の底から響くような低い声が遠ざかり、静かになる。
ジュリアは俺にしがみつき、涙目で何が起きているのか訴える。
それは俺が知りたい…だが、救助に来た騎士団ではないだろう。ジュリアを安心させるため、抱き寄せる。
何も聞こえない。不気味な程静かになった外を確かめるべく、俺はノートをちぎり眷属作成魔法と共有魔法を使い、外を覗く。
うっ、何だ…モンスターでも紛れ込んだのか?
廊下のゾンビは、頭や体の一部がプレス機にでも潰されたかのように肉片が散らばり、血が池を作り出していた。
「ジュリア、目を閉じてろ…外はかなりヤバイ状態だ。」
「え、分かった。」
「そんじゃ、失礼!」
「ええ!?」
俺はジュリアをお姫様抱っこして、トイレから脱出する。屋上に戻れば俺達の帰りが遅い為、どうするかの相談をしていた。
お姫様抱っこされたジュリアとしている俺を見て、事情を知らない生徒達が囃し立てる。
「うっせー!こっちは大変だったんだぞ!」
「イチャコラにか?」
「ちげーよ!」