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第五話 帰還

 第2校舎2階のとある教室、戦闘経験のない生徒達とマートルが避難していた。


 人を食らう()()()になった親友、同級生、先生が来ない事を祈りながらマリスの帰りを待っていた。


「…また、増えてる。」


 1人の生徒が呟く。制服を着た生徒に混じり、学園関係者ではない一般人のナニカがグラウンドを彷徨(うろつ)いていた。


「裏門が開いてるんだろ。表の校門は閉まっているし。」

「ね、ねぇ。『じどうしゃ』だっけ、あれでどこかに逃げられないかな。」

「ここから駐車場まで距離があるし、その間にアレが襲ってくるかもしれない、自動車には鍵が必要で誰が持っているのか分からない。それに大体、自動車を操れる奴、いるのか?」


 誰も反応はしなかった。自動車、転移者の知識と技術によって魔石という魔力が(こも)った鉱石を加工したエネルギーを動力源に動く機械である。


 生産数が少なく、一部の金持ちや貴族しか所有を許されない高級品であった。


 このレーゲンシルム魔法学園は、自動車で通う者を想定させて駐車場を(もう)けたようである。


 静かになった教室、外からは不気味な唸り声しか聞こえない。


「何故、なぜアレが…」


 教室内に響く男性の小さな声。生徒達は驚きその声の主を見る。


「まさか、あり得ん…いや、魔法で浄化…」


 噛まれた首元を(さす)って小さく(うずく)っているマートルであった。


 1人の生徒がマートルに近づき、顔を(うかが)う。


「大丈夫…ですか?」

「大丈夫だ…ごほっ…大丈夫……」


 首を()きながら、狂ったように呟く。徐々に搔く力が強くなっているのか血がにじみ出てきた。


 生徒が他の生徒達に助けを求めるかのように後ろを振り向く。


「う、うううぅぅぅ…」


 そのせいで、その生徒はマートルの変異に気づくのが遅くなってしまう。





 マリスさんに、俺の前世の奴ら、ゾンビについての知識を話した。


 リーン先生…だった死体は防衛魔法のシールドをドーム状に(おお)い被せ、血の臭いを防いでいる。


 赤髪の女生徒が流し台でゲロを吐いたお陰で、その臭いも籠らず調理室から出ずに説明出来た。


 先程リーン先生の状況で分かった事、噛まれたらお仕舞いだという事だ。


 勿論(もちろん)俺は、ゾンビに噛まれ対処しなければゾンビに変わる事は知っていた。


 だが、回復魔法は、傷だけは無く体に悪いモノも浄化出来るという便利さに先入観を持っていた。


 例え、噛まれても回復魔法で何とかなるだろうと。どうやらゾンビ化の原因はこの世界に無かったモノだったようだ。


「すいません。先に話しておけば良かった…ゾンビに噛まれたら、その人もゾンビになるって。」

「クリスト…誰だってそう思うわ、回復魔法ってかなり便利な魔法だから、きっとゾンビになった原因のモノも浄化されるって。」

「マリスさん、ありがとうございました。」

「いや、流石に生徒が人…だったゾンビを殺すのはな。…しまった!俺のいた教室にマートル先生が!」

「俺も行きます!」

「いや、いいクリスト。お前にしか眷属は作れないだろ。」

「…分かりました。」


 マリスさんは急いで、だが音を立てずに扉を開けると、無音魔法で足音を消して素早く奴らの間を()い潜り、第2校舎まで走っていった。


 すげぇ、流石元·騎士団にしてほぼ全ての魔法を取得した魔法使い(ソーサラー)


「俺達も行くぞ。」


 レオが俺の肩を叩き、第1校舎へ促す。俺はマリスさんを心配しながらも、屋上へ戻る事にした。


 つっかれたー。


 俺は食堂へ向かった方法と同じ事をやり、全員怪我なく戻れた。全員に水とパンを配り、俺達に起きた事や分かった情報を伝える。


「…1度でも噛まれたら終わりか。」


 眼鏡の男生徒がまたスマホのような機械を(いじ)り始めた。


「それは何?」

「タブレット。色々な機能あるけど、今はメモ代わりに使ってる。」


 何だ、スマホかよ。


 と、俺も覗く。俺達が話した知識が書かれていた。眼鏡の男生徒がまた弄り始めた。


「…お母さん、今は王宮に避難しているよね。」

「多分な…。そう信じよう。」


 2人の生徒が外にいる自分達の家族を心配していた。確認する(すべ)は、今の所無い。


 今は安全でいる事を信じる事しか出来ないようだ。俺は変わり果てた景色を眺めたり、眷属を使って遠くの状況を確認している内に、空を見れば薄暗くなってきた。


 寒い時期じゃなくて助かった、毛布とか学園(ここ)に無いからな。相変わらず、騎士団が来る様子は無い。


「大丈夫だよな。騎士団は強い人達がいるし、鎧とかの防具があるから。」


 心臓の鼓動が早くなり、不安や焦燥(しょうそう)感が押し寄せてきた…。『ロータス』の効果が切れたんだな。


「クリスト。」

「んええ!?ジュリア?何!?驚かせんなよ!」


 クソダサい声が出て、全員がこっちを見た。恥ずかしい、多分顔が真っ赤だ。


「ご、ごめんね!ちょっとトイレに行きたくて、着いてきて欲しいの。」

「え、あ、うん。ほ、他にトイレ行きたい人いる?」


 俺達だけのようだ。近いし、『ロータス』はいいよな。


 扉を開けると、暗くゾンビ共の唸り声と引きずるような足音が聞こえる。


 明るかった時とは違い見えない分、悪い妄想がいくつも思い浮かんでしまう。


 やっぱり、『ロータス』使わせて貰います。

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