第四話 食料確保2
先に結果を言っておこう。俺達は食堂まで全員無事に着くことが出来た。それから奴ら、ゾンビ共について分かった事も。
屋上で掛けた無音魔法、あれはやって正解だ。ゾンビは目が悪いのか俺が試しに目の前に立ったが、スルー。他のゾンビ共も俺に気付かずウロウロしていた。
眷属を使って階段からゾンビ共を遠ざけるよう、離れた場所で大きな音を立たてれば全員そっちに走って行った。
更に奴らは血の臭いがお好きなようで、血溜まりや死体の近くに奴らは群がって、楽に1階まで行く事が出来たのは良かった。
俺も俺が知っているタイプのゾンビで良かったと思っている。…うん、1階に行くまでは。
1階は他の階よりも多くのゾンビが彷徨いており、攻撃魔法を使用すればこちらが不利になるのは明白だ。
殆どの1年生は外の運動場にいたからここはゾンビが多くいるんだろうな。
俺は側に近くにあった死体の残骸から眷属を多く作り、外に出るよう誘ったり、室内に閉じ込めたり、大活躍。
魔力を大量に消費してしまい、現在食堂の調理室で休ませて貰っている。
追い出したり閉じ込めたりしても、それでもゾンビは多いわ、壊れた窓からゾロゾロと校内へ入ってくるわで…
どうすりゃいいんだ、これから。
思わず、心の中で呟いた。ジュリアが大型冷蔵庫からリンゴやオレンジを取り出しながら流し台へと並べていく。
調理室はかなり広い。大型の冷蔵庫や食材の入っている棚がいくつかあり、俺以外は分かれて食べられる物を探していた。
ジュリアは大型の冷蔵庫を探し、レオと2人の生徒は奥の方を探している。
屋上…というより、この学園にいた生徒は1年と2年だけで、3年と4年とほとんどの先生は実施訓練で遠くに行って、学園にはいないし…。
この魔法学園は下級生である1年と2年が主に魔法の基礎や使い方、座学を学ぶ事に対して、上級生の3年と4年は魔法を使用した実施訓練や戦術学を学ぶ。
運悪く、その上級生達や、多くの戦闘に優れた先生達の不在中にこの事態となった。
「パンと水があったぞ。…パンは長くは持ちそうにないな。」
「明日まで持てばいいさ、レオ。あ、誰か保存魔法とか時間魔法使える人は…」
残念、誰も反応はしなかった。屋上、或いはマリスさんの所にいる誰かが使えるかも知れない。ジュリアが俺に近づき、リンゴを渡してきた。
「かなり魔力減ったでしょ、食べる?」
「ありがとう。」
魔力が大幅に減ると、補充しようと体が勝手に体力を消費させて、空腹になったり疲れてしまう。
特に眷属作成魔法など、魔力で動く物を操作するタイプの魔法は眷属を保つだけでもかなり持っていかれる。
「食堂にいた奴ら、俺達に気付かず…食ってたよな、人。あれって、魔力がかなり減ってあぁなってるのかな。」
「ちょっと、止めて。グロいのダメだから!」
黒髪の男生徒が食堂のゾンビ共の事を話して、グロい物が苦手という赤髪の女生徒が止めに入る。
そうだよな、もしかして魔力を喪失させる呪いとかでゾンビ化したのか…素人の俺には分からないな。
ガチャン…カチン
今のは閉めた筈の扉の錠が解錠された音か?
周りを見れば全員固まっていた。幻聴とかではないようだ。
ここにいるゾンビは、ホラー系の死体から甦った肉を食らう奴らばかりだと思ってたが、もしかして…ファンタジー系の魔法とかが使えるアンデッドモンスターがいるのか…?
ジュリアを俺の後ろに隠して扉に対して警戒をする。レオや2人の生徒達も俺と同じく扉へ警戒をすると、勢いよく開かれた!
「マリス先生!?」
「え?お父さん!?」
入ってきたのはマリスさんだった。その後からリーン先生も入って扉をすぐに閉める…がゾンビ共の腕や足が隙間に入り閉まらない。
俺は急いで、ゾンビの腕や足に向かい攻撃魔法を放つ。
「『燃えよ』!」
俺は攻撃魔法では炎系しか使えず、痛覚のない動く死体達に大したダメージは出ないようだ、ちくしょう!
「『切り裂け』!」
とっさにレオが物理攻撃魔法の斬撃で奴らの手足を切り離していく。
助かった、ナイスフォロー!
扉は閉められたが、しばらくは外に出れそうもないな。
「リーン先生、傷が…。」
「え?あぁ、またアレにやられたようね。」
「私が治します、先生は休んでください。」
ジュリアが彼女の腕に出来た引っ掻き傷を指摘し、回復魔法で癒していく。疲れているのか彼女の顔色が悪い。
「お前達も、食料探しか。」
「はい、すぐに食べられる物は少ないですが。でも1日待てば騎士団は助けに来てくれますよね。」
レオの質問にマリスさんは難しい顔をする。その表情を察して俺達のすがっていた希望は打ち砕かれた。
「治安維持部隊である騎士団でもこの事態は初めてだからな。最悪、何日も待たなければいけないかもしれん。」
やっぱり…か。
ここの食料は限りがあるし、自力で脱出した方がいいかもしれない。
「お父さん、リーン先生が!」
「はぁ…はぁ…だ、大丈夫です。少し疲れたようで…。」
リーン先生の顔色が徐々に悪くなっている。回復魔法は傷を治すだけでは無く、毒素や呪いなどは浄化される筈…。
「ジュリア!離れるんだ!」
「な、何!?」
もしや…と思い、俺はジュリアをリーン先生から引き離す。
「ちょっと、早く何とかしないと!リーン先生が、死んじゃうよ!」
「もうダメだ!」
「な、何で…」
リーン先生はゆっくりと立ち上がった。その目は虚ろで、口からは異常な程の涎が流れ落ち、肌の色は青白いものへと変わる。
「あ、がぁああああ!」
「『阻め』!」
歯を剥き出し、俺に襲いかかる。俺は防衛魔法のシールドを発動し、そのまま壁まで押し出す。
「マリス先生、レオ!誰でもいいから首を切断してくれ!」
だが、戸惑っているのか誰も動いてくれない。
先程まで生きていた、親しい人間が化け物へ変わった。
躊躇するのは当然…だが、徐々に押し返される、このままじゃ…!
「『切り裂け』!」
マリスさんの魔法により、リーン先生の首が落ち、血が噴水のように溢れ出す。鉄の臭いが徐々に強くなっていき
「う、うぇぇ。」
誰かの嘔吐する声がした。