第二話 屋上への避難
俺は目を疑った。人を食おうなんて、常人には出来ない所業だ。
侵入者は狂っているか、或いは…。
「リーン先生、マートル先生を!」
「分かりました!」
ジュリアのお父さん、マリスさんが侵入者に対して防衛魔法のシールドを全方位に展開させ、動きを止めさせた。
その間に女性の先生、リーン先生がマートル先生を回復魔法で傷を癒していく。俺は侵入者を観察した。
顔色は青白く死人のようで、ケンカでもしたのか所々服に破れている。
そこから噛み傷のような抉れて赤黒い皮下組織が覗けた。
侵入者はマリスさんに襲いかかろうと口を開き、シールドを破ろうと体当たりしたり、腕を叩きつける。
「まるでゾンビじゃんか。」
俺は思わず呟く。この世界にアンデッドモンスターは存在しないはず…。
しかも、その侵入者は海外映画やシューティングゲームに出てくるような、ゾンビだ。
「『爆ぜよ』!」
詠唱と共に、侵入者の胸部が内側から爆発した。シールドのおかげで、マリスさんや周囲に肉片や血液が飛び散らず、侵入者だったものは崩れ落ちた。
その光景に堪えられなかった同級生達は窓から離れる。
どうやら回復したマートル先生が侵入者に対して攻撃魔法である爆砕魔法を放ったようだ。
「な、何をしているんですか!マートル先生!」
「コイツは私を食おうとしたイカれ者だ!ここで殺さなければ被害が拡大するところだったのだぞ!」
「拘束魔法で十分ではないですか!ここは私に任せてマリス先生は騎士団へ連絡を、マートル先生は他の先生へ報告を。君たちは窓から離れて先生の指示に従って!」
リーン先生の声に答えるように、俺達は窓から離れる。
「何か、大変な事になっちゃったね。」
「そうだな。」
ジュリアが俺に近づき耳打ちをした。俺はその間にノートを千切って眷属作成魔法を掛ける。
すると折り紙の鶴に形を変え、窓から飛び立つ。更に視界共有の魔法を使用、片目を眷属と同じ見ている世界と共有した。
リーン先生が侵入者だった死体に近づき、手を向けて蘇生魔法を掛ける。
すると傷は塞ぎ、侵入者が目を開け、素早くリーン先生の腕に噛みついた。
「あ!」
「ああぁぁぁ!!」
俺は思わず声を上げると、直後にリーン先生の悲鳴が校内に響き渡った。
彼女は侵入者を押し退け、拘束魔法を使用する。光の帯が侵入者の体に巻き付き、動けなくした。
コイツ一体だけだろうか…
そんな嫌な思考が頭に浮かび、眷属を別の場所へ移す。
何でだよ…
学園の外、地獄であった。ゾンビから逃げる人、喰われる人、死体からゾンビになる奴…。
逃げないと!
「ジュリア!」
「え、何!?」
「逃げるぞ!お前らもここから離れた方がいい!」
複数の悲鳴が1階から聞こえてきた。地鳴りのように階段を駆け上がる音がし、何人ものの生徒が廊下を走り去る。
下はダメなようだ。逃げるなら屋上しかない。
「屋上へ行くぞ、早く!」
「ちょ、ちょっとどうして!?説明して!」
「後でするから!」
もたついているジュリアの腕を引っ張り、教室を出る。
屋上へ向かう階段、その下から物が壊れる音、魔法を放つ音…
「ぎゃぁぁぁ!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、許しぃぃい゛だいいだい!やめ゛でぇ!」
「離せ!離せぇえ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
人が喰われる音、悲鳴、見ていないのにグロテスクな妄想が頭に広がってしまう。俺達は急いで階段を上がる。
扉のノブに手を掛け
「開かない!?」
「何で。」
屋上は昼間常に解放されている筈だが、誰かが鍵を掛けたのか!下を覗くと、生徒が何人か上がってきた。ゾンビ共も素早く階段を上がって来る。
「おい!開けてくれ!まだ人がいるんだ!」
「誰か、誰かいますか!開けてください!」
俺達は扉を叩いて生存を知らせる。すると、扉が勢い良く開かれ俺達は前に倒れこんでしまう。
「悪い!早く入れ!」
俺達は立ち上がり、ゾンビが入る前に扉を閉める。扉が複数のゾンビによる体当たりにより強い衝撃が伝わった。
「『強化』!」
俺はすぐに扉の強化を施し、壊れないようにした。
衝撃は弱まっていき、何も聞こえなくなった。俺達は、しばらくの休息を得る事が出来るようだ。