画家の拾い子
いつもの時間に目が覚める。
まだ日が昇る少し前。空は夜の闇と輝く星を僅かに残しているけれど、東の空の一点から薄橙色が闇に交わっていくグラデーションが美しい。
徐々に広がっていく薄橙色の中心は、次第に濃くなり、輝きを増していく。その輝きに負けて星が消えて見えなくなっていく。
そして今日も美しい朝色が広がっていく。
窓から色の移り変わりを堪能し、さてと支度を始める。
私はヴァリエール領の街の外れにある家に住み込みで働いている。
侍女?家政婦?召使?使用人?お手伝いさん?
何が一番当てはまるのか、私にはよく分からない。
洗濯、朝食の準備、掃除…
「アズール様はまだ帰らないのかしら」
いつものことと言えばそうなのだけれど、昨夜出掛けて今日も朝帰り…朝のうちに帰ってくるかしら。
アズール様はこの家の主人。ヴァリエール伯爵領領主の三人兄弟の次男、28歳。職業、画家。朝帰りは毎度の事。夜中に酔っぱらって帰ってきて睡眠を妨害されるよりかはずっといいけれど。
一通りの仕事を終えて、アトリエに向かう。
アトリエには私の机もあり、そこで絵の具を作るのも私の仕事。
今日は顔料のバーミリオンを細かく砕く。まだ形のしっかり残っている石の状態から、金槌を使って小さく砕く。思いっきり叩くと欠片が飛んできて痛い。もう4年もやっているので、すっかり慣れて手加減はお手の物。ある程度砕いたらすり石で押し潰すように更に細かい粒子にする。
金槌もすり石も重たいし、ずっと同じ作業をするので凄く腕が痛くなって疲れるけれど、生まれてくる色鮮やかな朱色を見ていると、達成感と共に嬉しさが込み上げて顔も綻ぶ。
「今日も綺麗な色ね」
美しく存在感のある朱。女性の口紅やドレスの色。王様のマントの色。ゼラニウムの赤い花の色。生き物に流れている血の色。
時に人を魅了し、威厳や力強さを表し、また時に心を温かく陽気にし、情熱的にもなる、そして生命の色。
そんなことを考えていたらアトリエの扉がガチャと開いた。
「あー。ヴェルト帰ったぞ」
我が主人のご帰宅の様です。
「おかえりなさいませ……って、またですか!」
振り返って扉を見ると、右頬が真っ赤になった主人のアズール様が怠そうに扉の枠に寄り掛かっていた。
「喉渇いた。水」
小さなテーブルの上に置いてある水差しからコップへ水を注ぎ入れ、アズール様へ渡す。
アズール様が水を飲んでいる間に、手巾を水で濡らして軽く絞り、アズール様から飲み終わったコップを受け取り手巾を赤く腫れた頬へ当てる。これも朱色、生命の色かしらね。
「…お酒と香水と男臭い匂い…」
「そういやぁ、風呂入ってねぇからな」
アズール様が手巾を自分で当て始めたので、距離を取る。
「そんなに臭いか?」
「少し離れればアトリエの油の匂いで分からなくなるので大丈夫です。で、今日も女性から平手打ちを?」
「俺はただ癒しを求めてただけなんだけど、なんか結婚してもらえるって勘違いしちゃってたみたいで、朝起きたら彼女からいつ娼館から連れ出して貰えるのって言われて、しないよって言ったらバチンと」
「……指輪を嵌めた手で思いっきり叩いたみたいですね。一部紫色になってます。何人目ですか。期待させちゃうような台詞を言っちゃってるんじゃないですか?」
「酔ってるから覚えてない」
「……そのうち刺されますよ」
女たらしだな。
「ヴェルト、お腹空いた」
「食堂に準備してあります」
「このアトリエのテラスが良い。日が当たって気持ちいいから」
「はいはい、お持ちいたしますよ」
アトリエのテラスは私も大好きな場所。花やハーブ、果実の木、常緑樹、落葉樹等が植えられてあって、季節ごとに変化する素敵な庭を見られる。
今は秋。
大きなマロニエの木の葉が少し赤みを帯びてきた。もっと冷え込むようになれば、色が濃くなり、葉が落ちるようになる。
ブラックベリーは実を増やし初めた。そろそろ収穫しようかな。
檸檬はまだ緑に少し黄色が染まり始めたところ。ハッキリとした緑色の檸檬も私は好き。
秋色の少しくすんだコスモスがあちらこちらで日の光を浴びながら、風が吹くと花を揺らしている。茎の下の方の葉が少し黄色や茶色になっている。もう、コスモスの鑑賞は終わりが近づいているのかな。
「ヴェルト、明日買い物に行くからそのつもりで」
「画材道具ですか?」
「お前の服」
「私ですか?」
「夏に背も伸びたようだし、昨年来ていた冬服も小さくないか?それにもう16になるんだし、お嫁に行けるように小綺麗な服もないとな」
「…小綺麗な服は別に要らないです。汚れてもいい服じゃないと仕事できません」
「買い出しとか御使いで街に行くときに可愛い服着てた方が、どこぞの男に見初められるかもしれないぞ?」
「……本当に16かどうかも分からない私を嫁にしたい人なんていないと思いますけど」
私はアズール様に拾われたので、本当の歳も名前も分からない。
ある晩秋の寒いどんよりとした曇り空の朝、アズール様のこの家の前に倒れているところを、朝帰りのアズール様に発見された。とても衰弱して熱もあったので、家の中に運んで医者を呼んでくれたそうだ。そこで、医者に恐らく11歳くらいと言われたらしい。
二週間程看病してくださり熱が下がってご飯も少しずつ食べられるようになった頃、話もポツポツと出来るようになったが、記憶が全く無く名前も歳も何も覚えていなかった。私の捜索願が出されていないか確認もしてくださったが特に無く、孤児院に預けようかとした時、私が酷く取り乱し拒否をしたそうだ。
アズール様以外の大人も酷く怖がり、じゃあ仕方ないとアズール様がそのまま引き取り、雇い主兼保護者となってくれた。
そして拾われたその日が私の誕生日になった。
ヴェルトと言う名前もアズール様がつけてくださった。私の瞳の色が緑色だったから。アズール様も生まれたときに瞳の色がコバルトブルーだったので、ご両親にアズールと名付けられたらしい。
テラスで食事をして食後の紅茶を飲んでいたアズール様はカップを置いて立ち上がり、俯いている私の目の前に立ち、腰を屈めた。
何だろうと顔を上げると……
がしっと胸を掴まれた。両手で。
「っ!!!!!」
いきなりの行動に吃驚して声も出ず固まってしまった。痴漢にあったらきっとこんな風に体が動かなくなり恐怖を感じるのだろうか…。いや、今痴漢にあっている。
「結構胸もでかくなったし、16くらいだろ?大丈夫、嫁に行けるぞ」
人の胸をモミモミしながらそんなことを言うアズール様。
「16の記念に裸体でも描いてやろうか?」
羞恥と怒りで両手の拳をギュッと握りしめ、真っ直ぐ伸ばした腕がワナワナとする。恐らく顔は真っ赤になっていることだろう。だって耳まで熱いのだから。
「……最っ低!!!!!」
バチーーーン!
と、アズール様の赤くなっていた右頬とは反対の左頬に平手打ちをおみまいした。
◇◇◇
本当に信じられない!
なんて変態!
ほんとに変人!
一応あの人は私の保護者じゃなかったっけ!
あの人は女性の裸体をただの芸術品としか見ていないのか!?
芸術家って皆あんななの!
ああー!イライラがおさまらない!
胸で人の歳を判断するな!
怒りをぶつけるように顔料を細かく砕いていたのに、顔料だけサラサラになり怒りはちっとも形も大きさも変わらない。
はぁ。
腕も疲れたけど、怒り疲れて全身が怠い。特に頭がチリチリとした痛みを感じる。
それもこれも全部アズール様のせいだ。
ん?何か匂いが…
そして白いもくもくとした煙が…
「……アズール様?私が居る前でタバコはやめて欲しいです」
「ん?ああ、勝手に手が動いた。外出るわ」
何故か苦手なタバコの煙。
テラスに出て椅子に腰掛けタバコを吸っているアズール様を見る。
長い足を組んで、長い指の大きな手でパイプを持っている。
黒く癖のある髪はちょっとボサボサ。髪を切るのが面倒で伸びた前髪がコバルトブルーの目を隠している。肩より少し長い後ろ髪は雑に一つに纏めて縛っている。
日中アトリエで絵を描くから肌は白い。手だけは絵の具の油がしみてくすんでいる。
逞しい体つきではないけど、背が高く、色気がある。前髪からチラッと覗くコバルトブルーの瞳が鋭く綺麗で、この人はモテるのだ。
しかも貴族様。次男だけど。
王立絵画アカデミーで学んだ本人の腕もあるが、貴族の伝も多くあり、絵の制作依頼は絶えることがない為、収入は結構安定している。
夢を見てしまう女性がたくさん居ても仕方がない。
でもこの人は女性に本気になることが無い。5年近く一緒に暮らしていたけど、これまで一度だって無かった。いつも怪我をして帰ってくる。
でも遊びをやめることはない。朝帰りの日はだいたい女の人のところに行っているのだ。
そして私に手を出したことは無い。胸を触られたのは今日が初めてだ。だから驚いた。
まぁ、これまでは身体が子どもだったからかもしれないけど。
◇◇◇
次の日、アズール様と買い物に出掛けた。
「ヴェルトはやっぱり緑がよく似合う」
商人の娘が着るような綺麗な緑色のワンピース。着ていくような用事なんて何にもないのに。
「髪がクリーム色だからな。黄色や橙色も良いけどな」
何着か手に取り次々に私に服を当ててみるアズール様。
これもこれもって言ってるけど、何故こんなにも買い与えるのか…さっさと結婚させて家から追い払うため……?
女の子ならこんな可愛い服を売っているお店に連れてこられて試着させて貰ったら喜ぶ筈なのに、何だか少し気持ちが沈んでしまう。
俯きがちにぼーっとしていると、一つに結んでいた髪に触れられた気配を感じて顔を上げると、アズール様が私の後ろに立っていた。
「この黄緑のリボンも買おう」
いつの間にかリボンが縛られていた。
「可愛いね」
とても曲線が綺麗な口の形をした顔でさらりとそんなことを言う。
今日も前髪で顔はハッキリとは見えないけれど、その口と、隙間から見える目が細められて穏やかな瞳をしているのがチラリと見えた。
耳が熱い。
洋服をどっさり買って、買ったばかりの緑のワンピースと黄緑のリボンを身に付けたまま店を出た。他のものは家に届けてくれるらしい。貴族の発想だな……
「ちょっとそこのベンチで座って待ってて。どこぞやの男に声を掛けられたら、ついて行かずに俺が戻るまで待ってろよ。俺が良い男か見極めてやるから」
「私に声を掛ける男の人なんて居ませんよ」
「わかってねぇな、男を。女が一人で居たら、声を掛けずにはいられない男も居るんだよ」
「……」
貴方みたいな人ですか?
という台詞は飲み込んだ。目では訴えていたかもしれないけれど。私の目を気にせずアズール様は行ってしまった。
思わずふぅと溜め息が出た。慣れないことをして疲れたのもあるけれど、アズール様が私を追い出そうとしているのではないかという考えに、気持ちが沈んでしまっているからだろう。
結婚なんて、しなくていい。
今のままがいい。
「お嬢さん、一人なの?」
ふと誰かが目の前に立ち暗くなったので、私が声を掛けられたのかと思い顔を上げると、若い男の人が居た。
アズール様が言っていた通り、声を掛けずにはいられない男は居るのだな。
「隣に座ってもいい?」
とても軽そうな雰囲気。慣れていらっしゃいますね。
「連れがおります。すぐ戻ってくると思います」
「侍女とか?」
アズール様はどういう間柄になるのだろう。主人か?でも主人が居なくて使用人の様な私がここで座って待っているのも、傍目から見たら可笑しいから信じて貰えないかな。
家族?兄?父?さすがに父という程歳は離れていないか。
「もしかして恋人?」
恋人ではないけど、そう言った方がどっか行ってくれるかな。
何て答えたら良いのか分からず、首を傾げる。それに合わせて目の前の男の人も同じように首を傾げてる。
「……兄…のような、人、ですかね?」
「疑問系なんだね」
だって本当に疑問なんだもん。
「そっか。男の人と一緒なんだね。残念。でも恋人ではないんでしょ?今度デートしようよ」
初めましての数分でもうデートのお誘い!軽い!
「デートはお断りし…」
「ヴェルト!ナンパされてる!」
ああ、戻って参りましたよ、連れが…
勝手に連れの女に声を掛けたことに怒られると思ったのか、男の人はビクッとした。
「可愛いでしょ、この子。デートに連れていってくれるって?俺の大切な子なんだけど、ちゃんと大事にしてくれる?」
いつも下ろしている前髪を額からかきあげながら男の人に話し掛けるので、顔立ちがハッキリと見えた。その綺麗な顔立ちを。
男の人はアズール様の顔を見てヒッなんて声を出して驚いてしまっている。
「ごめんなさい!失礼します!」
走って去っていってしまった。
どっか行ってくれるかな、なんて思ってた筈なのに、何だか振られたような気分なのは何故?アズール様の美貌に負けた感じがする。
「なんだ。大したこと無い男だったな」
「…わざと顔を出したんですか?」
「顔で負けたと思う男や、俺の身分を知って逃げる男は大したこと無いからな」
自分の美貌に自信がないと出来ないことですよ。さすが領主の息子。
「追い払ってくださってありがとうございました」
「どういたしまして。言っただろ?女が一人で居たら声を掛けずにはいられない男も居るって」
「…居ましたね」
「それに、ヴェルトは可愛いからな」
大きな手で頭をポンとされながら可愛いなんて言われたら、恥ずかしくてアズール様の顔が見られなくなって目を逸らすしかない。
「はい、これ」
目を逸らした視界の中に見覚えのある小さな容器が映る。
「これは…薬?」
「これからの季節、手が酷く荒れるだろ?荒れないようにするには難しいが、傷が出来たらちゃんと塗り込むんだぞ」
「ありがとう、ございます」
そうなのだ。
この人は優しいのだ。
変人の変態で女たらしだけど、本当に優しい人なのだ。
私を拾ったときも、無理矢理にでも孤児院に引き渡したって良かったのに、私の面倒を見て育ててくれた。
タバコが嫌だと言っても怒ることもなくアズール様が席を外してくれる。居候させてもらって使用人のような私が本来なら席を外すべきで、そもそも主人に嫌だと言うことすら可笑しいのに。
私の成長に合わせて服も新調してくれる。私から欲しいと言ったことは一度もない。遠慮してしまって言えないのを分かっているからだ。
この手荒れの薬だってそうだ。毎年買ってくれるのだ。昔はよくアズール様が私の手に塗ってくださった。いつも水仕事をしてくれてありがとうと言って。まだ拾って貰ったばかりの頃。
優しくてお人好しで気遣いの出来る人。
だから女性にモテるのだろう。
大人になってしまったら、アズール様の傍には居られないの?それならまだ子どもでいたい。
◇◇◇
夜、薄雲のせいでぼんやりとした輪郭の月を眺めていたら寝つけれなかった。ぼんやりしているから、満月なのか欠けている月なのかが分からない。
曖昧な月。
私の歳も曖昧。
私の気持ちも曖昧。
寂しくて布団から抜け出す。
枕を抱えて廊下をヒタヒタと歩く。
アズール様の部屋をノックする。
「どうぞ」
部屋の中から穏やかな声がする。そっと扉を開けて部屋を覗く。
「どうした?」
窓辺に座り、ぼんやりとした月明かりの下で、お酒をのみながら本を読んでいるアズール様が居た。
「寝られないのか?」
枕をギュッと抱いてアズール様に近づいた。
「ヴェルトも胸がおっきくなって女の体になったからな。一緒に寝られないぞ」
「大人になったらここに居てはいけないの?」
「お前もいつかお嫁に行く。それまではここに居ていい」
「大人になりたくない。子どものままでここに居たい」
「時間は止まらないからな」
「もう、私は子どもじゃないの?」
「見た目は可愛くなったし綺麗にもなって、これからどんどん大人の女性になっていく。もう幼い子どもではないな」
大人への転換期。
早く大人になりたい人もいれば、私みたいにまだ子どもでいたい人もいる。
「…じゃあ、今日で最後にするから、今晩だけ一緒に寝たい」
昔は夜が怖くて泣いてしまうこともあった。そんな日はアズール様がギュッと抱き締めて頭を撫でたり背を撫でたりして一緒に添い寝してくれた。アズール様の体温が温かくて、優しい手のお陰で涙が止まってくれ穏やかに眠ることが出来た。
「仕方ないな。おいで」
溜め息をつきながらも、ちょっと困った笑顔を見せてくれた。
アズール様の優しさにつけこんで、狡いな、私。
布団の中で横になり、正面に向き合って抱き締めてくれた。温かくてあっという間に眠気が襲ってくる。あんなに眠れなかったのに。
いつもより少し早い自分の鼓動を感じながら、ゆっくりと意識を手放した。
◇◇◇
朝、何か違和感を感じて意識が浮上してきた。背中が温かい。いつもと少し違う匂い。同じ石鹸で体を洗うし、シーツの洗濯もしているのに、違う匂い。アズール様の体臭と、昨夜のお酒の香りと、少しタバコの匂いが混ざっているのかな。
昨夜アズール様に我が儘を言って一緒に寝て貰ったんだ。
にしても、このフニフニとした違和感…
胸揉まれてるし!!!
フニフニとされてる違和感だった!
し、しかも!お尻に何か当たって……!
「ア…アズール様!!!」
飛び起きてベッドの端で縮こまる。
「ん……あ?……」
「なっ、何するんですか!胸、触って…!」
「ん……あぁ、わりぃ。そこに胸があったから。無意識だわ。ふぁ…」
欠伸するな!
「しかも、何か、お尻に…!」
「んー…男の朝は仕方ない、本能だ。しかも胸揉んでたし……」
言い訳しながら全然目は開かないし!相変わらず目覚めが悪い人…と、思ったら、乱れた髪からコバルトブルーの瞳がこちらを見ていて目が合った。
「だから言っただろ?一緒には寝られないよって」
「……」
沈黙していたら腕をぐっと引っ張られて体を引き寄せられ、再び温かい布団の中に戻った。
「まだ日が昇る前で、今朝は寒いから、もうちょっと寝よう」
そしてギュッと抱き締めてくれた。
「大丈夫、多分、もう胸揉まない。…あぁ、ヴェルトあったけぇ…」
「多分…なんだ…」
「無意識までは責任取れない」
正直な人。
あっという間に寝息をたて始める。
アズール様の肩越しに窓の外を見る。日が昇る少し前。
朝日に侵食され始める、真っ暗な黒色の闇から次第にコバルトブルーに変化していく時間。
アズール様の髪と瞳の色。
私の大好きな色。
私の気持ちは曖昧なままでいい。
そうでないと辛くなるから。
アズール様の寝間着にギュッとしがみついて、瞳を閉じる。
寝られないけど、最後の添い寝の時間を少しでも長引かせたい。
やっぱり私は狡い。
END