4.初めての共同戦線(1)
ダンジョンは、体育館のようだった。長方形で、外壁はコンクリートのような場所に囲まれた完全な密室。
その中央にソイツは居た。
「あれが……ボス」
ボスはタートルタイプのモンスターだった。
ただ今までに見たことの無い大きさ。タートルモンスターは一番小さいものでも数メートルの大きさがあるが、コイツはそんなモンじゃない。
パッと見たところ、縦10メートル、横5メートル、高さ3メートルぐらいだろうか。甲羅は黒い色で、本体は濃い灰色。目は黒み掛かった赤色。二人とも、こんなタートルモンスターは見たことが無かった。
ユウトはメニューからアイテム『スペクタクル』を使う。
「ブラック-リーダ-タートル──黒長亀。レベル20」
「レベル20……」
今まで倒してきた雑魚モンスターとは格が違う。
安全に戦うには、戦うモンスターのレベルを5以上は上回っているのが理想だ。だが、ユウトもハルカも共にレベル20。相手と同格。それはつまりどっちが勝つか分からないということだ。
救いなのは、相手がタートルタイプだったことだ。タートルタイプの攻撃はあまり脅威ではない。油断しなければ攻撃を喰らうことが無いからだ。いくら防御力が高くても、少しずつダメージを与えれば何時かは倒せる。
「──さて、行きますか」
ハルカが槍杖を構えた。
「ああ」
ハルカが走り出すと同時に、彼女の槍杖が光りだす。黒長亀の数メートル前まで近づくと、飛び上がった。
「スキル、ブレイズ-ブレイド」
ブレイズブレイド──杖から剣の形をした炎を飛ばす、炎系の中距離攻撃スキル。
それは黒長亀の頭を狙って放たれたが、黒長亀は咄嗟に首を引っ込た。
ユウトは弓を構え、背中の甲羅の中心に向かって矢を放った。バキッと、矢が折れる音。HPゲージは少しも減っていない。
「強化結晶、炎」
ユウトは強化結晶を取り出して、弓矢の前で砕いた。一瞬赤色に光る弓。そして炎の矢を亀の足に撃った。
「──足を狙っても、ダメージこんだけ?」
ハルカが悪態をつく。
黒長亀も黙っている気は無いらしく、こちらに向かって歩き出した。そのスピードは予想に反して速い。ただし普通の亀に比べれば。
だが──そんなことを問題ではなかった。
「先輩! 攻撃来ます!」
亀が頭を出す──遠距離攻撃の合図だろうと察したユウトは、その口に向かって矢を撃った。
だが矢が届く前に、青い塊が黒長亀の口から放たれる。それは矢を飲み込み、ハルカに向かって跳ぶ。
ハルカは至近距離に居たため、完全に避けることが出来なかった。
その腕に水弾が命中する。
「あぁっ!!!」
悲鳴を上げるハルカ。HPを4分の1程削り取られていた。
普通の水弾は喰らってもほとんどダメージを受けない。水など生身で当たっても痛くないのだから当たり前だろう。
だが上位の敵になると、その水の中では水が校則で流動し、ドリルのようになる。結果ダメージは、氷弾よりも大きくなるのだ。
ユウトは、他のプレーヤーが、そんなことを言っていたのを思い出した。
「先輩! 下がって回復してください!」
そう言うと先輩が後退し始めた。それと入れ替わるように黒長亀に駆け寄るユウト。
「武装解除、弓。武装、クレイモア」
弓を仕舞って、代わりに剣を出す。
「スキル、炎牙剣-朱咲!」
そう叫ぶと、手に持った剣が赤く光る。ユウトは剣を敵に右足に突き刺した。
「グァ!!!」
短い叫び声。敵のHPゲージが10分の1程減少した。
さっき当たった矢がほとんどダメージを与えられなかったのは、相手の防御力のせいではない。単にあれがただの矢だったからだ。
ユウトは、攻撃を終えると、すぐに後ろに後退した。
「あなた──アーチャーじゃなかったの?」
ハルカの顔は驚きに満ちていた。
「ええ──フェンサーです」