2.大切なもの(1)
翌日。
帰りは部活で遅くなるので、朝のうちにコンビニに寄るってから登校した。
「よぉ、優斗」
そう声を掛けて来たのは級友であり旧友の長谷川真人だ。
「おはよう」
優斗は、返事をしてから、席に着いた。
「……そのビニール袋……また『土産』か?」
机の横に掛けたビニール袋を指差す真人。
「まぁな」
「お前も家族思いだね……」
しみじみとそういう真人。
「真人……言い方がオジサン臭い」
「悪かったな!」
真人が席に勢い良く座りながら言った。
それからすぐ、授業開始を告げるチャイムが鳴り響く。
優斗はそれを聞いて、教科書を机の上に広げた。
…
教室に戻ると、真人が慌てて近寄ってきた。
「ど、どうしたんだよ?」
「お前! てっきりブラコンかと思ってたのに!」
「……は?」
「今さっき中北先輩が来て、『中庭で待ってるって』って!」
「中北?」
中北先輩。優斗も名前だけは聞いたことがあった。3年生のアイドル的存在で、2年生の間でも有名な先輩だった。
アイドルと言われるだけ合って、かなり可愛いらしい──といっても優斗は実際に見たことが無かったが。
「そうだよ。あの中北先輩だ」
「それ本当に俺への伝言?」
「勿論だ! はっきりそう言ったぞ。とにかく早く行けよ。そしてちゃんと俺に報告しろ、いいな」
そんな真人に押されて、優斗は訳も分からず教室を後にした。
…
中庭を見ると、そこに一人の女子生徒を発見した。
その女子生徒は、腕を組み、壁に寄りかかって、右足のつま先を地面に着けたり降ろしたりしている。
その顔には見覚えがある。
──間違いなく、昨日優斗をギルドに勧誘した晴佳だった。
と、晴佳が優斗に気がつき、歩み寄ってくる。
「……あ」
すると──中北先輩ってのはコイツのことだったのか。
確かに、昨日見たときも可愛いとは思ったが、まさか3年のアイドルだとは思わなかった。
「言いたいことは分かるよね? あたし達の仲間になって」
「……用はそれだけですか?」
優斗は冷たくそう言い放った。
晴佳はその細い眉毛を寄せ、それからグイっと一歩足を踏み出した。
「何で!? C地区でレベル20越えしてるのは、あたなだけなのよ!」
「……それがどうしたんですか?」
「どうって! あなたは強い。だったら世界のために戦おうって気は起こらないの?」
ますます声を荒らげる晴佳。
「いいえ。自分の命が大切ですから」
「なっ……」
「それじゃぁ、失礼します先輩」
そう言って優斗はその場を後にした。