ミラージュワールド(2)
月姫の剣。
噂を耳にしたことはある。
メンバーは四人の少人数ギルドで、リーダーはレベル25、他三人も20以上。メンバーの平均レベルは間違いなくトップクラスだろう。
「……」
黙りこむユウト。
他のほとんどプレーヤーなら、入るかどうかは別として喜ぶはずだ。月姫の剣に誘われたと他人に自慢できるだろう。
だが、ユウトの場合は違った。
まずその名誉にはあまり興味が無い。
そして、なにより大事なこと。
「月姫の剣の目的はゲームクリア。そう聞いたけど、どうなの?」
「そうよ」
即答するハルカ。
「悪いが、俺は遠慮する」
「──何で?」
ハルカはすこし声を荒らげて言った。
「ダンジョンの攻略に参加する気は無い」
ユウトは、それだけ言って立ち去ろうとした。
「ちょっと!」
ユウトの腕を掴む少女。
「……離してくれ」
「何で!? あなたは強い。なのに何で協力してくれないのよ!」
ハルカの声はだんだんと大きくなっていった。
「悪いけど、死ぬ危険は冒せない」
ユウトはハルカの手を無理やり振り払って、走り出した。
…
ミラージュワールド。
多人数同時参加型オンラインRPGのことを『MMO』と言うが、ミラージュワールドはそれに似ている。
あえてジャンルわけするなら、MMAWRPG──多人数参加型異世界ロールプレイングゲーム。
そう。
ミラージュワールドの舞台は、インターネットという仮想空間ではなく、現実に存在する異世界なのだ。
プレーヤーは『ログイン』して、『ミラージュワールド』という異世界に飛び、そこで剣や魔法を駆使して戦う。
各プレーヤーには『ステータス』というものがあり、それがミラージュワールドにおける能力となる。
そのステータスの中には『HP』というものがあるが、それは普通のRPGのそれとは少し異なる。普通のRPGではHPが無くなった時点でゲームオーバーだが、ミラージュワールドの中では、そうではない。HPとは、体を覆うバリアの耐久値のことで、HPがゼロになるということはバリアがなくなるということを意味する。
バリアがあるうちは、首を斬られても、爆発を浴びたとしても、体は一切傷つかない。だが、HPが無くなってしまえば、バリアは消え、斬られれば血が出て、爆発を受ければ大火傷する。
当然、死という概念が存在する。
HPがゼロになった後攻撃を受け、心臓が止まれば、ゲームオーバーである。
このゲームオーバーが一体何を意味しているかはわかっていない。故にこれがゲームオーバー=現実世界での死という可能性も考えられるのだ。
これが、優斗が積極的にゲームに参加することを拒む理由だった。
死ぬ危険を冒してまで、強いモンスターと戦うなど論外だ。
あくまで、弱いモンスターを倒してお小遣いを稼ぐだけが目的なのだ。
だが、積極的にモンスターを倒す人が必要なのも事実だ。
ガイドによれば、ミラージュワールド内でモンスターが増えると、現実世界にもモンスターが現われ、人を襲うらしいのだ。
そして、定期的に『ダンジョン』というものが現われる。各ダンジョンはにボスが居て、これを倒すと、そのダンジョンは攻略されたことになる。。
そして問題は、ダンジョンがある間はモンスターが増殖することだ。つまり、長期間ダンジョンを放置すれば、現実世界が危険にさらされるということだ。
そして、全ダンジョンを攻略すると、ゲームクリアとなるらしい。
月姫の剣が目指すのはこれだ。
だが、ダンジョンがいくつあるのかは分かっておらず、一体何時最後のダンジョンが現われるのか分からない。
つまり片っ端からダンジョン攻略をしていくしかないのだ。
現在確認されているダンジョンは、レベル1と2。どれも大部屋にレベル10〜20のボスが居るだけのシンプルなものだ。
今後、レベルはどんどん上がっていくだろう。