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1.ミラージュワールド(1)



 月光が矢を照らした。だがそれも一瞬。次の瞬間には矢は狼の目を貫いていた。

「──ッ!

 狼は悲鳴を上げながら、消滅した。

「ふぅ……」

 ユウトは弓を下ろし、一息ついた。

 ウルフタイプのモンスターは、その素早さ故厄介なモンスターだが、落ち着いて正確な攻撃を繰り出せば楽に倒せる。

 事実、ユウトはスキルを使わず、三本の矢のみで倒した。頭上にあるHPゲージは1ミリたりとも減少していない。

 ユウトが空中を指差すと、指先に縦20センチ横30センチ程の半透明なウィンドウが出現した。

「経験値は……10……か」

 ウィンドウにはウルフを倒したことで得られた経験地と獲得ディルが表示されている。

 ディルというのはこの世界の通貨単位のことで、1ディルを1円に換金することが出来る。

 獲得ディルは65。円に換金してもチョコボールを買うには10程足りない。値上げ前なら買えたなと、不況な世の中を再認識する。

 ウィンドウを閉じ、次の獲物を探そうと歩き出したとき、突然悲鳴が鳴り響いた。

 モンスターのものではない。人、それも女の子のものだ。

「何だ!?」

 悲鳴はおそらく校舎裏の中庭の方から聞こえた。

 ユウトは全速力で走り出す。

 5秒ほどで裏庭に辿り着く。まず目にはいったのは、地面に倒れこむ少女。そして、その数メートル前に立つヒト型モンスター、狼男ウルフマン

 ウルフマンは手に持ったこん棒を今にも倒れている少女に振り下ろそうとしている。

「させるかっ!」

 ユウトは半秒で弓を構え、矢を放った。

 矢は狼男に向かってまっすぐ飛び、その腹に命中する。狼男の頭上に一瞬HPゲージが見え、全体の10分の1ほど減少する。

 狼男は、目下の敵を認識し、少女を飛び越え、ユウトに向かって跳んできた。

「強化結晶、炎!」

 ユウトがそう叫ぶと、弓が一瞬ほのかに赤く光った。

 弓を引き、飛び出した矢は半秒後、炎に包まれた。

「──!!!!」

 狼男は、顔に炎の矢を喰らい、声にならない悲鳴をあげる。ユウトはさらに連続で2本の矢を放った。

 2本の矢は立ち止まっている狼男に命中し、HPゲージの残りを奪い去る。

「──!」

 一瞬の叫びとともに狼男は消滅した。

 ユウトが「武装解除」と言うと、その手から弓が消えた。

 ユウトは倒れている少女に歩み寄り、手を差し伸べた。

「──」

 瞬きもせず、ただ視線をユウトに向ける少女。

 中学生だろうか。中学二年生くらいと思われる幼い容姿。長い髪は細く真っ直ぐで、肌は真っ白。例えるなら、雛人形のような髪にフランス人形のような肌と言ったところだろう。

 それから数秒後、無言のまま、ユウトの手を握る少女。ユウトはその小さな手をしっかりと握って引っ張りあげた。

「あの……ありがとうございます」

 少女が小さな声で言った。

「うん。いいけど、君『プレーヤー』?」

 最悪、モンスターということもあるとユウトは考えた。ここまで可愛い子だと逆にモンスターの罠ということも考えられたからだ。

「……」

 黙り込む少女。

 と、突然後ろから、足音がした。

「アリス!」

 すこし茶色かかったロングヘアを揺らしながら、走り寄って来る一人の少女。

「ハルカ」

 と、ユウトが助けた少女が、呟いた。

「アリス大丈夫?!」

 ユウトが助けた少女──アリスと呼ばれた少女は、こくんと頷いた。

 それを聞いて、安心したのか、一息つく少女。と、その少女はユウトに視線を移した。

「あなたが……助けてくれたの?」

 少女の問い。それにユウトが答える前に、アリスが「そうだよ」と言った。

 少女は一瞬の後、「ありがとう」と礼の言葉を口にした。

「わたしはハルカ。ギルド『月姫の剣』のメンバーよ」

「……ユウト、ギルドには所属していない」 

 この世界の挨拶を交わすユウト。

「良かった。探してたの」

 と、ハルカが無言のまま言った

「……俺を?」

「そうよ。C地区で唯一レベル20以上のプレーヤーである貴方を」

「どういうこと?」

「そのままよ。単刀直入に言うわ。わたし達『月姫の剣』のメンバーになって欲しい」 


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