偽者と別れ(2)
部活が終わり電車通学の友達達と別れ、一人遊歩道を歩いていると、突然声を掛けられた。
「ユウト君」
「え?」
振り向くと、そこには若い男の姿があった。年齢は20代前後だろうか。茶色の髪と整った顔が特徴的だ。アイドルといわれてもなんら違和感は無い、今時にかっこいい男だった。
「──誰ですか?」
「創也だ。苗字は中北」
「中北……中北晴佳の兄?」
「その通り」
「あなたが月姫の剣の」
「まぁな。一応挨拶をしておこうと思ってな」
「……二つ聞きたいことがあります」
「何だ?」
「何故、俺たちだけをC地区のダンジョンに送ったんですか? 自分の妹を危険に晒したんです? せめてあなたが付いてくきてくれれば楽勝でしょう」
「愚問だな。それを甘やかしというのだ。それに倒せない敵ではなかっただろう?」
「……もう一つ。何故、貴方はダンジョンの攻略を──ゲームクリアを目指しているんですか?」
「はは。理由、か。そうだな理由という理由はない。あえて言えばこれが『ゲーム』だからだから」
「遊び感覚……なんですか?」
もしそうだとしたら。ユウトは絶対にギルドになど入らないし、協力もしない。「まぁそんなものだ。別に人助けを使用と思ってやるわけじゃない。ゲームをクリアすることが結果的に人助けになる、というだけのことだ」
「……」
「俺は攻略できないものなどないと思っている。何故か。攻略できなければそれはゲームではないからだ。君も説明書は読んだだろう? 明確に書かれている。『ミラージュワールドはゲーム』だと」
「君は、そんな軽い気持ちで命を賭けるのかと思っているかもしれないが……」
優斗は心の中で動揺した。考えていることを読まれたからだ。
「命を賭けるという行為は等しくすばらしいことだ。その対象が何であるかは関係ない。まぁ君には理解できないかもしれないが」
「そうですね。理解できません」
「だが、優斗君には私達の力が必要ではないかな? 弟さんを守りたいのだろ? 一人でこの先も戦っていくというのなら止めはしないが、オススメはしない。一人にできることなど限られている。だから人間は協力するのだ」
「……」
「ではまたな。晴佳のことだが、気にかけてやってくれると助かる」
そう言ってから創也は優斗に背中を向けた。
…
優斗は、晴佳に以前から気になっていたことを聞いてみた。
「何故、エンディング(ゲームクリア)を目指すんですか」
彼女はその問いに、すこし答えにくそうにしていた。
「単に私は正義の味方、ヒーローになりたかっただけなの。小さい頃にね、私両親が居ないからって、虐められてたことがあったの。そのときにね、ある男の子が助けてくれたのよ。『自分は正義の味方だ!』ってね。それから、自分も正義の味方になりたいなって思い出しのたの」
それを聞いて優斗は、両親が死ぬ前までは、そんなことを思っていたことを思い出した。
「私思うんだけど、優斗も小さい頃そう思ってたんじゃない?」
「え?」
「正義の味方になりたいって思ってなかった?」
「……そんな時期もあったかも知れませんね」
「絶対あったでしょ。私分かるもん。優斗は小さい頃正義の味方に憧れていた。そして正義の味方だった」
「何でです? 何でそう思うんですか?」
「さぁー。それは秘密」
「……」
「そうね。でも答えは優斗の中にあるかもよ? あなたが覚えていないだけで」
晴佳は、にっこりと笑っていった。
思えばそれが、優斗が初めて見た彼女の笑顔だったのかもしれない。