初めての共同戦線(2)
ミラージュワールドには三つのクラスがある。
物理戦闘が得意なな『フェンサー』。
遠距離攻撃が得意な『アーチャー』。
魔術攻撃が得意な『ソーサラー』。
その中で、弓を扱えるのはアーチャーだけだ。
「でも弓を使いこなしてたじゃない! ──ってまさか」
「俺は現実世界で弓道をやっています。アーチャーではないから、弓系スキルは一つも覚えていないんです」
「それにしてもあの命中率は……」
「自分で言うのもなんですけど、割と上手いほうなんです。フェンサーは『命中率』の成長率は皆無に近い。だけど、初期値は他のクラスと変わらない。それが加われば、あれくらいの命中率にはなるってわけです」
ユウトが剣士でありながら、弓を使う理由。それは安全だからだ。剣は近づかないと攻撃できないが、弓はそうではない。雑魚モンスター相手なら、弓の本来の攻撃力だけで十分で、白兵戦よりは危険が減る。
そう説明しながら、剣を構えなおす。
「回復スキルは覚えていますか?」
ハルカに尋ねると「ファースト・エイドだけ」。
ファーストエイドは回復スキルの基本呪文で、ゲージの1割分回復できる。ちなみに、セカンド・エイドの回復量は3割程度だ。
「じゃぁもし、HPが半分以下になったら回復呪文で助けてください」
「わかった」
と、それを聞くと同時にユウトは駆け出した。
黒長亀が水弾を放ってくる。それをジャンプで避け、そのまま敵の首を剣で狙う。剣は首のど真ん中を斬り、敵のHPゲージを削った。
「強化結晶、炎。……強化結晶、炎」
ハルカは、取り出した二つの強化結晶を槍杖の前で砕いた。
その後、槍杖の刃に炎の弾が宿る。
「スキル、ブレイズ-エンド!」
弾は敵の首目掛けて一直線に跳び、爆発を引き起す。黒長亀の断末魔は、爆発音にかき消された。
HPゲージは一気に半分以下に減っている。
タートルタイプにしては防御力が高くない。おそらく攻撃力が高い分、防御力は下がっているのだろう。ユウトはそう予測した。
と、ユウトが次の攻撃に移ろうとしたときだった。
「グァッ!」
黒長亀の口から水弾が放たれた。ユウトはそれを軽々避けた。だが──。
着地した次の瞬間、ユウトは大きく吹き飛ばされた。
すぐに姿勢を立て直す。だがすぐに次攻撃。水弾は、さっきまではブランクを置いて撃たれていたいたが、HPゲージが半分以下になった途端、次から次へと放たれる。
途端に劣勢に追い込まれる。弾自体は避けれないほどではないが、それでも反撃できるほどの余裕は無かった。
次の攻撃を避けきる──だが、無理な姿勢のからジャンプしたため、着地に失敗してしまう。すぐ次の水弾が来る。
避けきれない
そう思ったユウトは、少しでもダメージを抑えようと、剣を体の前に持ってきて盾代わりにした。
水弾が後1メートルの距離に入ったとき、
「ブレイズ-ブレイド!」
ハルカの放った炎剣が水弾を相殺した。
このままではまずい。
そう直感したユウトは、叫んだ。
「秘奥義! 新星の射手『レディアント-アーチャー』!」
…
5秒後。
ダンジョンのボスは、少しの泣き声も上げず消滅した。
「……どうなってんのよ」
ハルカはなにが起きたのか、理解できなかった。
「秘奥義!? 何で!? 有り得ない!」
「多分、先輩のお兄さんが俺をギルドに誘った理由はこれでしょう。レベル20で秘奥義。確かに有り得ないです」
秘奥義。
一撃で勝負を決する、最終奥義。
「説明書に由れば、秘奥義を覚えるのは速くて40、普通は50になるまでは覚えられない。でも俺は違った。最初から使えたんです」
「最初から? そんな馬鹿な。反則も良いところよ」
「ええ。俺もそう思います」
「あの技は何?」
「レディアント-アーチャー。光りの矢を放つ秘奥義。敵の防御力に関係なく貫通ダメージを与える」
「──発動条件は?」
「ありません」
「ない!? 馬鹿な! そんな桁外れな技が条件無しなん──」
ハルカがあることに気がついて、口を閉じた。
目線はユウトの頭上。
「HPが残り1?」
そう。ユウトのHPゲージはレッドカラーに変わり、そこには1という数字が刻まれていた。
「はい。発動条件は無い。でも発動には代償が必要なんです。発動すると、HPを1だけ残し、残り全てを消費してしまう。消費したHPの分だけ威力は高くなる」
「1だけ残すって……」
「そうです。迂闊には使えない。もしすこしでも攻撃されればそれで死んでしまう。そんな自爆技なんです。さっきは後先考えずに使ってしまいましたけどね」
「それにしても最初から秘奥義を覚えているなんて。兄さんはコレを知ってて──」
「多分そういうことでしょう。だって俺よりレベルが高い奴だっているわけだし」
そういいながら、ユウトは回復結晶を取り出した。HPが3割回復する。
「HP1でモンスターに襲われたらシャレにならない──じゃぁ帰りましょうか」
転移ポイントから、ダンジョン入り口に戻る。
すると、そこにはアリスが立っていた。
「アリス? どうし──」
声を掛けたハルカがすぐに異変に気がつく。
そこに立っている少女の体は半透明だった。