飲み友達
飲み友達
※語彙力はないです。
何処かも分からない路地裏にひっそりとある酒場が私達三人の馴染みの店だ。いつもの様に駅前で10時に集合して満月を見て、適当に話をしながらその店に向かう。
「いらっしゃい」
店主の挨拶に片手を上げて私達は三角形に席につく。私の他に客は居るが、相変わらず賑わっては居ないようだ。私的には騒がしいよりかは静かな方が良いのでこの店の雰囲気はとてもいい。
「いつものを出しときますね」
店主はそう言って私の前に赤ワイン。向かいに左斜め前に座るジョンにウオッカ。右斜め前に座るコジマにビールを置く。
「ありがとよ。…っとそうだなぁ…今日はフライドポテトを頼むぜ」
サイドメニューを見ながらジョンは店主に言う。すかさず店主はメモ帳にFポテトと書く。
「私は枝豆でお願いします。…ディックさんはどうします?」
コジマが注文し、私へ問いかけてくる。人をよく気遣っている。そこの所をジョンにも見習って欲しいものだ。呑気に楽しそうに料理の写真を眺めているジョンからサイドメニューを取り上げて一つ一つを吟味する。いつもの様にチーズの盛り合わせにするか…趣向を変えてサラダにするか…はたまたジューシーな果物にしてみるか…うーむ悩ましい。
「ゴホン」
店主が1つ咳払い。おっと…またいつもの様に長考してしまっていたようだ。大人しくチーズの盛り合わせを注文すると、店主はキッチンへと入っていった。
「相変わらずだな!」
「そうですね」
ジョンがガハハと、コジマが柔らかく笑いながらそう言ってくる。
「五月蝿いな。自分でもどうにかしなければと思うんだが…どうもな?」
私も苦笑しながらそう言う。だがこの友人達ならこんな悪癖も寛容に受け止めてくれる。わざわざ治す必要もないだろう。
乾杯をして、お互いの話をする。いつもの流れだ。ジョンはあんまり変わっていないようだ。普段通り山で鹿を撃って生活しているらしい。そして最近家にリスが住み着いたとの事だ。平和でなによりだ。
コジマも特段変わったこともないが、最近課長へ昇進したらしい。これはめでたい事だ。私が店主に高級なワインを注文しようとすると、ジョンがもっと強い酒の方がいいと言ってきた。
「君はあんなガサツで危険な飲み物を昇進祝いに使う気か?」
「何が危険だ!強い酒は上手いんだぞぉ!?」
大分酔いが回っているようだ。これは説得に苦労するぞ。
「君の言う強い酒は普通の人間にとっては毒に近いぞ。その内肝臓がやられて酒が飲めなくなるんだぞ」
「あぁ…?」
全く。もう難しい話は理解できなくなっているようだ。
「あー、昇進祝いはまた来月でいいですよ。まだ新米ですしね」
コジマの気の利いた発言。今回はその厚意にあやかることにした。各々自分の注文した分代金を払う。酔い過ぎたジョンは自分では払えそうにないので懐から財布を抜き取って代金を払う。
店を後にして今回の飲み会を振り返る。2時間程話をしていたらしく、腕時計は12時を回っている。今回も楽しかった。
「大丈夫ですか?」
大柄のジョンの身体を支える私を気遣ってコジマが声をかけてくる。
「大丈夫だ。これは幸せな悩みってやつだ」
ニコリと表情を作ってコジマへそう返す。するとコジマも嬉しそうに笑った。
「どういう事だぁ?」
ジョンが酒臭い口を開いて聞いてくる。
「…君たちとの話は楽しすぎるんだよ。この位しないと何かバチが当たりそうだ」
「言ってくれるなぁ!もう一軒行こうぜ!」
「終電逃すぞ」
そんなことを話しているうちに、駅についてしまった。コジマとはここで別れることになる。
「じゃあまた」
コジマがペコリと頭を下げて、別れの挨拶をする。
「あぁ、また満月の夜にここで会おう」
「じゃあなー」
私とジョンはそう言ってコジマの後ろ姿を見送ると改札をくぐった。
普通の人は見つけられない古ぼけたホームに立つと、レトロな雰囲気を漂わせる列車がやってきた。投げ込む様にしてジョンをその列車に乗せて手を振る。その衝撃で少しは酔いが覚めたのか同じように手を振ってくる。
その列車を見送ると、今度は私が乗る無骨な列車がやってきた。それに乗り込むと兵隊姿の同士達がたくさん乗っていた。その中にはもう死んでいるものも居る。
私は次の満月の夜を待ち望みながら、列車に揺られた。
ディックにはモデルが居たりします。