16 予選
「それでは次の選手の入場です!!エントリーナンバー34!サァァァアラァァァ!!」
扉の向こうはだだっ広い円形の闘技場だった。天井は吹き抜けで闘技場の周りは観客で埋め尽くされ歓声が木霊している。
「殺せぇ!!いけーー!!」
「こんなところに子供かぁ!やる気起きねぇんだよ!死ね!」
「脳天ぶちまけろぉ!!」
罵詈雑言の嵐の中、大きな声がそれを遮る。
「さあ!今回の試合は|殺戮のドラス 対 謎の怪力少女サアラの対決です!!」
巨大なメガホンの前で喋る肌の黒い大きなアフロの男。
「さて改めて解説はこの私、カリムがお送りします!そして!!」
カリムは会場の上を指をさす。その先には良くは見えないが地図がガラスケースの中に入っていて、隣に檻が有った。
「……!?」
その中にはレイラが閉じ込められていた。
「優勝した方にはオーナーよりこちらの景品を贈呈いたします!!改めて説明させていただきます!こちらの地図はあの楽園と名高い(魔法都市 ブリオテーク)への道を記した地図となっております!価値は計り知れません!そして更にこちらの美女を奴隷として贈呈します!愛でるもよし!お供にもよし!なんでもござれ!」
レイラは手首に手錠と鎖で拘束されぐったりとしていた。
「レイラ!!」
大声で呼ぶと、レイラは反応した。
「……?……ッ!サアラ!?」
檻に飛びつき、手を伸ばす。しかしレイラは腕の鎖を引かれ檻にぶつけられてしまう。
「きゃあ!!」
「死にたくなければ、大人しくしているんだな」
その鎖の先には金で出来た草冠の髪留めを付けた赤いマントの堀の深いいかにも筋肉馬鹿っぽい奴がいた。そしてその男は高らかに宣言する。
「コロシアムに集いし者どもよ!名誉が欲しいか!!ならば戦え!!己で勝ちを貪りとれ!!」
歓声は大きくなり、いよいよ試合がはじまる予感がした。
「オーナーからお言葉を頂いたのでそろそろ試合を始めていきたいと思います!!」
目の前の敵は大きなこん棒を片手に構える。それを見た私も左腕を出し構えた。
「それでは!殺戮のドラス 対 怪力少女サアラ 対戦はじめ!!」
ゴングが鳴る。すると鶏頭のドラスは舌舐めずりをして話しかけてくる。
「ケッケッケ!初戦はこんなガキが相手か!こりゃ楽勝だなぁ!」
「……」
「それに女だ!ケッケッケ!これは楽しめそうだ!」
その発言はもはやサアラの地雷だった。
「ヒャッハー!くらえぇ!!」
ドラスはこん棒でサアラの頭めがけて殴りかかる!しかしサアラはすっと身を逸らし攻撃を避けた。
「シャアッ!」
すかさずこん棒を振りまわすドラスをため息をつき躱す。
「お~っと!これはどういう事だぁ?」
解説のカリムが身を乗り出す。
「サアラ選手!ドラス選手の攻撃を余裕の表情で避けている!!」
観客はどよどよとして、展開を見つめる
「おいおいドラスさんよぉ。そんなんじゃ一生当たらねぇぜ?」
息の上がったドラスを見下した顔で手を叩き挑発する。
「はぁ、はぁ、くそっ!!なめやがって……!」
その言葉を言ったその時、ドラスは大振りの攻撃をサアラに放つ。
「オラァ!!」
瞬間サアラは待っていたとばかりそれをよけて懐に潜り込む。
「出直しな!糞野郎!」
サアラは思いきり左腕でドラスの顔面を叩いた。
「ぎゃぁぁぁ!!」
ドラスは吹き飛び、観客席の前の壁へめり込んだ!
「あがっ……がっ……」
ドラスは歯がボロボロと抜け、白目になり気を失った。それを確認したカリムはゴングを鳴らす。
「勝負ありぃ!!勝者!サアラァァァ!!」
歓声が上がる。賭けに負けた者はくしゃくしゃと札を丸めて捨てたり、奇跡的にサアラにかけた者はエールを出していた。
「勝者のサアラ選手は控室にお戻りください!それでは――」
私は兵士に促され控室へと戻った。控室は予選を終えた猛者たちで賑わっていた。自身の武勇伝を自慢する者、すでに満身創痍で床に寝そべっている者など様々だ。そんな中、一人女性が水差しを持ち、水を配りに来た。
一人ずつ水を飲ましていて、暫くするとサアラの番になった。しかし飲もうとした時、ワザとだろう、屈強な選手が女性にぶつかり水を零させた。水は私の顔にかかり、びしゃびしゃになった。
「申し訳ございません!すぐ拭くものを!」
「大丈夫!……?」
私はその女性の顔を見て気が付いた。彼女はハダバで攫われたというシルの母親にそっくりだということを。なぜ顔を知っているかというと村を出る前に特徴をシルの祖父母から聞いていたからだ。
「シル……?」
試しにシルの名前を呟く。すると彼女は血相を変えて必死な感じで聞いてきた。
「え……?シル!?シルをご存じなのですか!?」
両腕でがっしりとサアラを掴み問いただす。まさに母親の反応だ。
「シルを知ってる。あなたの事をずっと待ってる」
「シルは無事なんですね!?」
「うん、無事だよ」
「ああ!神様!なんということ……!」
母親は涙を流し、その場にへたり込む。
「よかった……よかった……!」
サアラは母親にシル達の事を話した。
「レイラさんと私たちを探しにわざわざこんな危険なところまで……」
「レイラはさっき見つけたけど、あんたの夫はどこ?」
「それが――」
母親は困った様子で答える。
「私の夫リナルドは私を助けにこのコロシアムに参加しました。試合は順調で更には優勝したんです。ですがリナルドは迎えに来ず、そのまま姿をくらましてしまったのです」
「優勝したなら死んではないだろうし、こんなところまで追いかけてくるんだから姿を消す理由が無いよね?」
「ええ。なので私は解放された後もティアトルムに残りずっとリナルドを探しているんです」
「何か手掛かりは?」
「ありません……。どこにも手掛かりが見つからないんです。ですが――」
「34番サアラ! 出番だ!」
話の腰を折るように兵士が私を呼び出す。
「ちっ。出番か」
私は兵士に促されるまま闘技場へ向かおうとする。
「どうか!ご武運を!」
母親は去り際にそう言ってくれた。
「ああ、まかせて」
手を振り、次の試合に向かった。
歓声の中、次の試合の扉が開き、まず私は驚いた。そこにはある大きな動物がいた。しっぽに黄色と黒の危険色のストライプ、そしてネコ科のいかつい顔と鋭い牙を持った奴。そう虎だ。そして、その横には爪痕だらけの男が鞭を持って、待ち構えている。
グルグルと威嚇しながらこちらを見る虎に警戒しているとメガホンからカリムの声が響く。
「さーて!次の試合は虎使いバイパー 対 怪力少女サアラ です!」
私はカリムに声をかける。
「おい!カリム!!」
「はい?サアラ選手が何か言っています!」
「虎はルール的にいいのかよ!!」
「えーと、確かにどうなんだ?えーと」
ガザゴソと資料を漁るカリム。そして大きな辞書を出し読みだす。
「闘技の心得第六条、魔獣の使用は禁ず……あとは無いですね!えーとそれとなになに?バイパー選手からの手紙が来てます!読み上げますね!えー、俺の猫ちゃんは図体はデカいけど噛みつくどころかひっかくこともしない可愛い猫ちゃんです。傍にいないと俺が死ぬので一緒に参加させてください……だそうです!まあ、死んじゃうんなら仕方ない!面白……もとい仕方ないので参加を許可しましょう!ハハハ!」
「はあ!?どんだけガバガバルールなんだよ!」
「それでは――」
「おい!ちょっと、待て!」
「第二試合はじめ!」
試合のゴングが会話を遮るように鳴る。




