15 出場!
地面の割れた荒野を抜け、いつもの砂漠の光景が広がる。サアラは村の住人から馬を貰いティアトルムへと向かっていた。
道中は一言で言うなら酷かった。気を少しでも抜くと蛮族が現れ金銭を奪おうと襲いかかってくる。焼けた村々に襲われる旅人達、阿鼻叫喚の嵐だ。
サアラは人々を助けたいと思い、出来るだけ蛮族を倒した。しかし全てを助けるのは不可能だった上、最後には蛮族の敵意はサアラに向き、追いかけ回されてしまった。
「ヒャッハー!やっちまえ!」
「くそ!どうしたら!」
いくら戦闘に長けたサアラでも大量の蛮族相手では部が悪い。馬を全力で走らせ、どうにか逃げ回っていた。暫くすると街に待ったティアトルムの街が見えてきた。
「しめた!」
サアラは馬に鞭を打ち、門へ突撃する。そしてティアトルムの門番が守る門を飛び越え、街へと駆け込んだ。
「ちっ! くそが!」
街に入った私を見た蛮族は予想通りに街まで入って来なかった。
「ふぅ〜」
馬から降りて、辺りを見渡す。そこは鋼鉄で出来た建物が立ち並ぶ街でそこら中に拳銃や剣で武装した兵士が巡回している場所だった。
街を進み覗いてみると大体が鍛冶屋だった。大槌で赤熱した金属を交互に叩いていたり、溶けた鉄を炉から抽出している。
砂漠とは違う灼熱に思わず汗が垂れた。
コロシアムに参加する為にそれらしき建物を探す。そしてそれはすぐ見つかった。と言うより建物は既に見えていた。
鍛冶街の向こうに大きな円形の砂岩で出来た建物が見えている。
「あれだな……たぶん」
建物に向かおうとする。すると
「お〜い!そこのあんたぁ!」
右から聞き覚えのあるシワくれた声が聞こえ、トコトコと腰の曲がった男が歩いてきた。
「あんた、ケオトイコスで話した嬢ちゃんだろ?」
そこにはケオトイコスで招待状の事を聞いた露店商のミケがいた。相変わらず歳とったカエルの様な顔で広角を上げ歯並びの悪い歯を見せてぬるっと話しかけてくる。
「ミケか? どうしてこんな所に?」
「おっ!覚えてくれてたんだなぁ。あんたがどっか行った後、俺りゃ商売してたんだが、次の日にデカい騒動が起きてな。しかも街中の奴らもおかしくなった上に国王が死んだときた!そりゃもう街はもう大混乱でな!商売どころじゃ無くなったもんで、帰ってきたんだぁ」
自分のせいとは口が裂けても言えなかったが、ミケは何かを感じたのか目を細めて問いかける。
「あんたぁ…。まさかとは思うが…」
「なに?」
「そんなわけないかぁ!カッカッカ!」
「はははは!」
一瞬の間があったが笑って誤魔化せた。
「そういや、良くティアトルムまで来れたな。よっぽど強い用心棒雇ったんだなぁ」
「まあ、そんなところね」
少し得意げに答えた。
「それはそうとよぉ!うちの商品見ていってくれよ。安くしとくよ!」
「いや、私は……」
「いいから!いいから!ほれほれ」
強引に腕を引かれ、店の前に連れていかれる。
店は赤を基調とした高級感のある金属製の店だった。隣には男達が鉄を打つ工房がある。
店の看板には「雑貨屋 ミケ」と書かれていて、中に入ると様々な雑貨が吊られた場所が広がった。
「あんたみたいな女1人旅には危険がつきものだろ?そんな時はこれだ」
ミケはガラス張りの商品棚から鈍く光る変わった形の拳銃らしき物を出した。
「これは俺が研究に研究を重ねた逸品でさぁ。普通拳銃は一発こっきりだがこれは違う……。これはなんと六発連続して弾丸を撃てる!破壊力もそこらの甲冑くらいなら貫く威力よ!」
片目を瞑り、弾の入っていない拳銃の撃鉄を下ろしカチンと引き金を引いて見せた。
「ほれ、持ってみ」
断る事も間に合わず、手のひらに拳銃を置かれる。だかそれはまさに命を奪う道具だ。ズッシリと重たい拳銃だが余計重たく感じ、手が震えた。
「私は……いい」
私は拳銃を押し返した。
「そうかい」
ミケは細い目でゆっくり震える手から拳銃を受け取った。
「あんた、これから苦労するぜぇ。商人の勘だがな」
パンと手を叩きミケは笑顔に再びなり、話を続ける。
「さて!うちは武器以外にも食べ物に雑貨なんて物も扱ってるからよぉ。まっ、ゆっくり見てってくれや」
そういえば、ミケならコロシアムに出場する為の方法を知ってるかもしれない。
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど」
「んん?またかい?」
「コロシアムに出場したいんだけど参加の仕方知らない?」
ミケは意味がわからないと言う表情で暫く固まった後、爆発したかの様に笑った。
「ガハハハ!!あんたぁ!今度こそ頭おかしくなったんじゃねぇのか?女1人でコロシアム……ガハハハ!」
「そんな笑わなくてもいいだろ!」
「ひーひー!ああ、すまねぇ。つぼっちまった」
「たくっ!」
「コロシアムなら今、丁度景品が入ったらしくて参加者を募ってるところらしいぜぇ。そこから見えてる円形の建物に行けば参加出来るぜ」
「やっぱりあそこか。ん、ありがと」
「待った!」
出ていこうとするとミケに止められる。
「やっぱこれ持っていけ!」
そう言い弾の入った拳銃をベルトの間に無理矢理押し込まれた。
「いや、私はいらないって!」
「いいから!いいから!サービスしとくよ」
「そう言う意味じゃなくて!」
「いいから持ってけ!」
返そうとする私を両手で押さえ、真剣な目つきで見つめてきた。それはミケなりに自分のことを思っての行動だろう。
そう感じた私はため息をつき拳銃を貰う事にした。
「そうそう。親切は聞くもんだ」
「まあ……その、ありがと」
「いいってことよ」
私はミケの店を後にし、コロシアムへと向かった。
コロシアム周辺は人で賑わっていた。貴族らしき人物から明かに堅気じゃなさそうな人物など様々だ。
会場に入ると巨大なカウンターの受付があり、そこで出場する選手に皆金銭を賭けていた。
「こっちじゃないか」
見渡すとゴロツキが集まる所が目に入った。
そこに進むと「出場者受付」と書かれた場所があった。私はその列に並び、待った。
そして自分の番になると、受付から目に傷のあるゴツいポニーテールの男が出てきて、目が合うと言い放った。
「あんたみたいな子供が来る所じゃねぇよ。帰んな」
「いいや、帰らない」
「……死にたいのか?」
煙草をふかし、死んだサカナの様な目で見つめる。
「たくっ仕方ないな」
私は左腕で思い切り砂岩のカウンターを叩いた。
ドンッ!!カウンターは大きく割れ、床にまでヒビを入れてやった。
「これでも子ども扱いする?」
「へぇ。やるじゃねぇか」
男は少し驚いた様子で興味ありげに態勢を変える。
「いいだろう。選手登録するぜ。名前は?」
「サアラ」
「サアラね。それじゃ34番で受け付けたぞ」
「ありがと」
「おっと」
「まだ何か?」
「拳銃は使えないんだ。それは預かる」
「あっそう」
拳銃を預けると受付先の兵士が守るゲートは開き、奥へと誘導される。
「ご武運を」
男は煙草を吸いながら見送った。
通路の奥は選手が待機する待合室だった。刃を研ぐ者や神に祈りを捧げる者、フライングして喧嘩を売る者など、いかにも戦闘前と言ったところだ。そして出場者は兵士に個々に呼ばれてどこかへ行っている。
「34番!サアラはいるか!」
「わたしよ」
「こっちへ来い」
兵士に呼ばれ、行きついた先は檻のような籠がある場所だった。
「ここに入れって?」
「そうだ」
「やなこった」
「いいから入れ! 出場停止にするぞ!」
背中を押され檻の中へ入るとガコンと床が少し沈み、両側にある歯車が回りだし、檻は上へと上がっていった。
「おおお」
珍しさに上っていく様を見ていると大きなゲートの前に着いた。
外からは歓声と大きな独特な声が聞こえる。
「それでは次の選手の入場です!!エントリーナンバー34!サァァァアラァァァ!!」
ゲートは大きな音と共に開く。そしてコロシアムの戦いが今まさに始まろうとしていた!




