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隻腕の魔王  作者: ゲレンデマン
2.5章 人攫い
15/17

14 蛮族

 ラクダに乗り、砂が風に乗り、蛇のように蛇行しながら地を這う砂漠を進む。

 次の街、ティアトルムまでの道のりは長いので、途中の村で食料や水を補給しなければならなかった。

 地図を頼りに暫く進んでいると茶色く地面が割れた生命を感じさせない荒野に出て、その向こうにボロボロだが村の看板と村が見えた。

 村に近づき、看板を見てみると消えかけの文字で「ハダバ」と村の名前が書いてあった。

 村に入り、ラクダから降りて辺りを見渡す。しかし人があまり住んでいないのか、人の気配はせず荒野に吹く風の音だけが聞こえる。


「村の人たちはどこかしら?」


 キョロキョロと周りを見渡し住人を探すレイラ。


「うーん、廃村ではないはずなんだけど」


 地図で見た限りではまだこの村は廃村ではないが、崩れた建物が見え、木の燃えカスが足元で踏まれ墨を地面に引いていた。嫌な予感がする。

 レイラと私は比較的無事な家が並んでる所に行き、村の住人に話を聞くことにした。

 家の前まで行き、ノックをしてみるが反応は無い。ドアを引いてみると鍵がかかっていた。


「もしもーし、いますかー?」


 やはり反応はない。


「……?」


 レイラは視線を感じ、後ろに目をやる。するとそこには幼い顔の男の子が一人、こちらをじっと建物の影から覗いていた。

 レイラは子供の視線に合わせるように中腰で話しかける。


「ぼく一人?お父さんお母さんは?」


 そう言うとビクッと驚いた様子で走って逃げてしまった。


「あっ!待って!」


 レイラは男の子を追いかける。それを見た私もレイラに続いた。


「待って!」


 レイラは男の子の腕を掴み、引っ張った。


「離せ!いやだ!」


「落ち着いて!何も悪い事はしないわ」


 暴れる子供をレイラは深い海色の瞳で優しく見つめた。

 子供はそれを察知したのか、怯えながら見つめる。

 恐怖で強張る子供を優しく抱きしめ、声をかけた。


「大丈夫だから。ね?」


 トクントクンと心臓の音が聞こえるように抱擁するレイラ。


「大丈夫……大丈夫……」


 背中をさすられ、落ち着いた子供はじっとレイラを見ていた。

 あんな芸当は私には出来ないと感心しつつ。子供から話を聞くことにした。


「ぼく一人?」


 レイラがそう聞くと子供は縦に顔を振った。


「お父さんお母さんは?」


 そう聞くと子供は顔を曇らせ、目に涙を溜め震えだした。


「わわ!どうしたの?」


 子供の背中をさすり、なだめようとするがどんどん涙は溢れる。


「お父さんお母さんは――」


 子供は声を震わせて答える。


「攫われちゃった」


「えっ?」


 子供はそのことを言うとはっとしたのか辺りを見渡す。


「もうすぐ悪い人たちが来るかもしれないからお家に帰らないと!」


 子供は焦りながら家の方を指さす。

 時を同じくして警報の鐘がなる。


「蛮族が来るぞ――!!」


 警報が聞こえてすぐに荒野の中を大勢が馬のひづめを鳴らし、走ってくるのが見えた。


「はやく!こっち!」


 子供はレイラの腕を引き、自分の家へと連れて行く。

 狭い家に入るとそこには老人の二人が心配そうにオロオロとしていた。


「シル!どこ行ってたんだい!?心配したわよ!」


「ほんとだぞ!バカ者が!」


「ごめんね。おばあちゃん、おじいちゃん」


 子供の頬をおばあさんはぎゅっと両手で押さえ、確認するようにあちこちを触った。

 暫くして落ち着いたのか、今度は見知らぬ自分たちを見て、驚いてる様子だった。


「あなた達は?ひょっとしてこの子を届けてくれたのか?」


 おじいさんは心配そうに聞いてきた。

 レイラは優しく答える。


「私たちは旅をしている者です。その子とはさっき道で会って避難させてくれたんです」


「そうですか。旅のお方でしたか」


 おじいさんはシルの頭をわしゃわしゃと撫でた。


「そうとわかれば、家で暫くいるといい。蛮族がすぐそこまで来ているからな」


「ありがとうございます」


 レイラは深々と頭を下げた。

 しかし談笑も束の間で蛮族がやってきた。そして大勢の蛮族の中からひと際大きいリーダーらしき蛮族が避難している住人達に大声で叫ぶ。


「今日は()()を貰いに来た!!各家の代表は一人ずつ出てこい!!」


 声とは反対に村の住人は外に出ようとはしない。


「ふん……。だんまりか、いいだろう。だが()()()は上物を希望だ!恨むならそっちを恨むんだな!やっちまえ!」


 すると蛮族の手下は斧で村の扉を破壊しだした。

 引きずり出される村人の叫びが聞こえ、こっちに来るのも時間の問題だと感じた。

 一つまた一つと破られる扉の音が近づく。そして遂に自分のいる扉に斧が突き刺さる!

 瞬間的に私は扉を拳で吹きとばし、レイラ達に叫ぶ!


「今だ!逃げろ!!」


「こっちよ!」


 レイラはシル達を引っ張り、外へ飛び出す。

 外は逃げ出した村人達とそれを追いかける蛮族でごちゃごちゃになっていた。

 私は迫りくる蛮族を義手で殴りつけ、レイラ達が襲われないようにする。しかし流石に数が多すぎて、私とレイラ達は分断されてしまう。


「サアラ!」


「私の事はいいから、逃げろ!」


 レイラは決心した面持ちで頷き、シル達を逃がした。

 そうしている内に私は蛮族に囲まれてしまった。


「へへへ。こんなところで何してるのかなぁ?お嬢ちゃん?」


 こん棒を肩に乗せ、鶏みたいな髪型で裸に肩パットとかいう、へんてこな恰好の蛮族が挑発してくる。


「ヒャッハー!!捕まえた後で楽しんでやるぜ!女ぁ!!」


 蛮族の一人がこん棒で殴ってくる。私はその攻撃を避け、顔面に拳をめり込ませてやる。


「ほげぇ!?」


 私は正直キレていた。弱い奴をいたぶるその腐った性根があの男と重なったからだ。


「来いよ!外道!!」


 蛮族は吹き飛ばされた仲間を見向きもせずに襲い掛かる。




 混乱の中、レイラ達は蛮族から逃げていた。


「サアラ……!」


 心配だったがサアラなら大丈夫と心に言い聞かせシルの手を引き、走る。しかしあちこちに蛮族がいた為、老人と子供を守りながらは到底無理だった。そして遂には途中で老人たちとはぐれてしまった。

 仕方なくレイラはシルと一緒に崩れた建物の影に身を潜めていた。


「おばあちゃん…おじいちゃん…」


「大丈夫だからね。おばあちゃん達もきっと逃げきれてるわ」


 互いの震える手をぎゅっと握りしめ、嵐が過ぎるのを待つ。しかしそんな希望を打ち砕くように蛮族は捕まえた老人たちに暴力をふるっていた。


「言え!お前の家から出てきた金髪の小娘はどこだ?!」


「金髪の娘? そんな奴知らん!」


「このクソジジイが!」


 どつかれるおじいさんを見て、シルは我慢できずレイラの腕をすり抜け影から飛び出した。


「行っちゃダメ!」


「おじいちゃん!おばあちゃん!」


 飛び出した横から大きな馬に跨った蛮族がシルを捕まえようと腕を広げる。


「シル! 危ない!」


 レイラは条件反射で飛び出し、シルを突き飛ばした!


「きゃあ!!」


「ひゃひゃひゃ!こいつは上玉だぁ!()()にはもってこいだ!」


 シルの代わりに捕まってしまったレイラは暴れて抵抗する。しかし蛮族の腕力の前では無意味だった。


「お姉ちゃん!!」


 走り去っていく蛮族を追いかけるシルだが追いつくことはできなかった。



 私はその頃、大勢の蛮族を倒し、後はレイラ達を追いかけるだけだった。だがそこにひと際大きい馬に跨った蛮族のリーダーらしき男が気絶したレイラを抱えて去っていく。


「レイラ!!」


 蛮族のリーダーは手下に向かって叫ぶ!


()()は手に入れた!!」


 それを聞くと手下どもは馬に跨り走り去る。

 レイラが攫われた!それだけでも頭の整理が追い付かない、そして後から起きうる出来事の想像がよぎり、私は絶望した。

 暫く途方に暮れていると泣きじゃくるシルを宥めるおじいさんが話しかけてきた。


「話は聞きました。彼女が身を挺してこの子を守ってくれた事を」


「……」


「蛮族は景品を探していると言っていました」


「……」


「私達はその景品の行きつく先を知っています」


「なんだって!?」


「ここから更に西にいった()()()()()()という街のコロシアムに景品として売られるはずです」


 難しそうな顔で続ける。


「彼らは景品を傷つけるようなことはしないので、そこは安心してほしい。しかしそこは厳重に守られた場所でその場所自体知る者はいません。なので一度景品となった人間を救い出すにはコロシアムに出て優勝して景品を勝ち取るしかないのです。このシルの父親も攫われた嫁を救いだす為コロシアムへと向かったのですが帰ってきません……」


 悔しそうに涙を溜めるおじいさん。

 私と同じような境遇の人達を見て、私は意志を固めた。


「私が行ってくる」


「え?」


「私が行って、優勝すればいいんでしょ?」


 老人たちは焦りながら聞き直す。


「しかし、あなたのような方が行っても死にに行くようなものです!」


「まあ見てて」


 私は地面を左腕で思いきり叩く。地面は割れ、大量の砂ぼこりを上げた。それを見た老人たちは腰を抜かし少し怯えた様子で見つめていた。


「大丈夫!!必ず取り返してみせるから!」


 そうして私は「ティアトルム」へと向かうのであった。

















































































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