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隻腕の魔王  作者: ゲレンデマン
神風の刃
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13 予知

  心臓の鼓動のような音とともに鎖からは黒い煙と叫びが噴き出す。

 煙は渦を巻き、空中へと舞い上がる。そして一瞬、髑髏のような形を見せたかと思うと霧のように消え去った。私が意識を取り戻した時にはレイラは化け物を見るような目でこちらを見ていた。


「……?」


  記憶が曖昧でよく状況が理解できない。わかる事といえば、レイラはどうやら無事なようだ。よかった。

 ほっと胸を撫でおろしていると感覚の無いはずの左腕がやけに熱く感じる。何事かと目をやるとそこには大きく赤黒く脈打つ、かぎ爪状になっている腕があった。


「うわっ! なんだこれ!」


 やけに気持ち悪く感じたので思いきり腕を振る。すると察知したのか腕は軋みながらみるみる小さくなり、いつもの黄金の義手に戻った。

そこから不思議なことに手を握りしめ感覚を確かめると、左腕はまるで血が通っているかのように感覚があった。風が通る冷たさや肌の温もりがわかるし、手も前より精巧に動かせる。

 感覚に戸惑いつつ腕を眺めていると、後ろから凄まじい殺気を感じる。とっさに左腕でガードするとそこにはラトローが義足の刃で斬りかかってきていた。


 激しい鍔迫り合いになり、金属同士が擦れる音が響く。

ラトローは再び距離を空け、凄まじいスピードで撹乱する。しかし私も驚いたが、なんと私の目はラトローの姿を視認できるようになっていた。そして攻撃はまだ当てられないが、ガードは確実にできるようになっていた。


「チッ! 糞が!!」


 痺れを切らしたラトローはその圧倒的な脚力で砂埃を巻き上げ、煙幕を張るように眼前を曇らせた。

獣人族には優秀な耳と鼻がある。ラトローはそれを利用して一方的に攻撃を繰り出してきた。

 劣勢なのは変わらず、どうしたものかと考えてると突如左目が熱くなる。そして目を見開くとあの国王が死んだときに見た、目を模った幻影が眼前に姿を現した。

 こんな状況でこんなの見てられるかと目を一瞬瞑るが消えない。仕方ない!その場で消すのは諦めてラトローに集中することにした。

 相変わらず幻影のその先では訳のわからない残像が動いている。そして残像はどんどんはっきりとした映像になり、その中にラトローを映し出した。

映像のラトローは刃を放ってきた。私はびっくりして幻影に向かって拳を繰り出した。


「ぐはぁ!!」


 幻影に放った拳はその先から走ってきたラトローに直撃した。どういう事か理解が出来なかったがラトローに一発お見舞いできた!しかし流石獣人なのか拳をもらってもまだ起き上がり、今度はより一層スピードを上げ、残像すら残らない速度に達っしていた。

 もはや目で視認するのは不可能に近かったがその左目の幻影は常にラトローの映像を映し続ける。

そして映像の敵が攻撃してくるのに合わせて半信半疑で拳を放つとラトローに拳が当たった。更にレイラが何か叫んでいるような映像が見えたと思うとレイラは2秒後私の名前を叫んだ。

 それを見てようやく理解した。


「そういうことか!!」


 渾身の力を溜め、集中し、目が移すそのラトローが攻撃してこようとする映像に向かって、必殺の拳を放った!


「ぐわあああ!!」


 拳はラトローの鳩尾に直撃し、壁画のある壁に激突しめり込んだ。


「どう……して……」


 自分が負けると思っていなかったのだろう。そう呟くと壁画から剥がれ、宝の山に崩れ落ちた。

ラトローは完全に気を失い、勝利することが出来た。


「いっててて……」


 緊張が解けて傷が痛みだした。疲れもあってその場で座り込む。


「サアラ!」


 レイラが駆け寄ってきて、私に抱き着いた。


「無事でよかった」


 スンスンと鼻を鳴らすレイラをなだめていると、階段の方から沢山の足音が聞こえてきた。


「今の音は!?」


 駆け下りてきたのはククと道でラトローの居場所を聞いた獣人達だった。

宝の山とそれに埋まっているラトローに驚いている様子だった。そしてレイラに気が付いたククは話しかけてくる。


「レイラちゃん!ここにいたのか!」


ククは心配そうにレイラを見つめる。


「街の皆に聞いたら、レイラちゃん達がラトロー探して祠に行ったって聞いたから、心配になって来てみたんだ。それにレイラちゃん怪我してるじゃん!いったい何があったんだ?」


 レイラはクク達に真相を話した。宝の山に埋もれるラトローと私たちの傷を見て、クク達は間違いないと確信したのか、警備隊を呼びに行った。


その後、ラトローの義足に変化があった。義眼の時と同じく義足は砂へと変化し私の左腕へと吸収されていった。取り込んだと思うと足が熱くなってきた。そして突如足には黄金の骨のような幻影が現れ、その瞬間とても足が軽く感じられた。今なら二階建てくらいの建物なら飛び越えれそうだ。

 その感覚に浸っていると幻影は消え、再度出そうと集中しても出てこなかった。


 暫くして警備隊に運ばれていくラトローを確認して。立ちさろうとした時だった。ラトローが激突した壁画が少し崩れた。気になった私は壁画を見上げた。

そこには4人の剣士が炎の中、黄金で出来た鬼だろうか?何か異形な物と戦っているのがわかった。

その黄金の鬼を見た時、腕がうずいたような気がした。恐怖に似た感情と寒気を感じた私は足ばやにその場を後にした。




 その後の聞いた話だが逮捕されたラトローは白状して、足も失った奴は今は牢屋で静かにしてるんだとか。


「信じてやれなくてごめん!!」


 ククは手を合掌させ深々と謝った。


「いいのよ、クク。それに最後には来てくれたじゃない」


「レイラちゃん……」


 ククは大きな瞳を潤わせ、耳を素早く動かし、視線はレイラの腕の傷に向いた。


「レイラちゃぁぁん!!」


「わわ、どうしたの?」


 ククはレイラに抱き着き、おんおんと泣いた。

レイラは困惑した様子で私にまるで「どうしよう」と言っているかのように見つめてきた。


「はいはい!しつこい男は嫌われるよ」


 ククをレイラから引きはがし、頭を小突いてやった。


「そういえば、賭けの話覚えてる?」


「賭け?」


 ククは暫く考えて、思い出したのか顔が一気に青ざめた。


「いやっ……その――えっと」


 しどろもどろのククに私はニヤニヤしながら問いただす。


「100ギルでも200ギルでも賭けてやる!って言った奴がいたな~?」


「言ったけど、それはラトローのせいで――」


「逃げるの?」


 無慈悲に言葉がククに突き刺さる。助けを求めるようにレイラの方を向くと彼女は他の獣人達と話していた。


「さあ!さあ!さあ!」


「ひえええぇぇ!!」


 あの時の心底怯えたククの顔は不謹慎だが愉快だった。




 ククから150ギルという大金を譲り受け、重くなった懐ににんまりしつつ。荷物をまとめていた。


「次はどこ行くの?」


レイラは心配そうに聞いてきた。


「次行くところは――」


 行くところは決まっていた。何故ならククから聞いた話によるとラトローにあの義足をつけた医者の特徴があの男に似ていたからだ。白髪で胸に大きな火傷がある男。その男が向かうと言っていたのが次の街 「ティアトルム」――

























 
















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