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隻腕の魔王  作者: ゲレンデマン
神風の刃
13/17

12 綻び

 砂利を踏む靴の音が大きく感じるほどの静寂の中、蝋燭の僅かな光を頼りに地下へと続く階段を下りていく。

 一段また一段と降りていくにつれ、奥から聞こえてくる擦れるような金属音は大きくなる。

 そろそろ階段が終わる。私は腕で先へ進もうとするレイラを静止して、壁に張り付き、その先を覗き込んだ。

そこは燭台の炎が辺りを照らしていた。 洞窟とは違う砂岩で作られた何かの部屋だった。だだっ広い空間にはあまり良くは見えないが壁画があり、床一面に金銀財宝が山のように積まれ、その上にラトローらしき男が寝そべって宝を漁っていた。

 私はレイラにひそひそと言う。


「レイラ」


「なに?」


「ラトローいたから話つけてくる。レイラはここにいて」


「でも! サアラだけじゃ、危ないよ!」


「大丈夫。ちょっと会って話すだけだから」


「サアラ……」


「待ってて」


 私はそう言い物陰から飛び出し、ラトローの前に立った。


「ラトロー!! 話がある!」


「来たか……」


ラトローはけだるそうに体を起こした。


「よくこの場所がわかったな」


「へっ!あんたの行動なんて手に取るようにわかるわ!」


「……それで何の用だ? 俺は今忙しい」


太々しく金の器で自分の顔を映して遊ぶラトロー。完全に開き直ってやがる。本来なら即殴りかかるが怒りを抑え続ける。


「その宝は人から盗ったものか?」


「――そうだ」


「なぜそんなことを?」


「……」


「金欲しさか? それとも盗った時の優越感か?」


「……」


「どのみちろくな考えじゃねぇな」


「何がわかる……」


「?」


「お前に何がわかる!!」


突如ラトローは毛を逆立て、牙をむき、激昂した。


「俺はただ人の喜ぶ姿が見たくて! 幸せを届けたくて荷運び屋に誇りを持ってやっていたのに! それなのに……」


ラトローは拳を握りしめ、歯を食いしばった。


「やつらはそれを利用して、荷物を奪い、そして命と同じくらい大事な足を奪いやがった!!」


「やつら?」


「コロッセオの薄汚い蛮族どもだ!」


噂に聞いたことがあった。更に西に行った先にコロッセオを経営している軍事国家があると、そしてその周辺には人から物や命を奪う蛮族がいる。


「全てを奪われて、俺は一つの考えに行きついた。取られる側になるくらいなら取る側になると」


ラトローは不敵な笑みを浮かべ続ける。


「そうしたら、ハハ! 気持ちいい気持ちいい! 取る側はこんな気持ちだったとは!」


 もはや善良な荷運び屋はおらず、私の前にいたのは「悪」そのものだった。

 しかし私はレイラと決めていた事を最後の望みとばかり口にする。


「ラトロー」


「なんだ?」


「レイラに謝れ、そして自首しろ」


 それはレイラと決めたラトローへの最後の慈悲だった。


「そうすれば、許してやる」


 キョトンとした表情をするラトロー。


「ぷっ!」


「?」


「あはははは!なんだそれ! わざわざそれを言いに来たのかよ!」


「てめぇ!!」


「嫌だね! ここまで来たんだ。引き返すにはもう遅い!」


ラトローは腰からナイフを抜き構えた。


「それにあんたらを消してさえしまえば俺はまた日常に戻れるんだ」


 ラトローは足に巻いていた包帯を解く。すると鈍く光る黄金の刃が付いた義足が露わになる。

 その瞬間左腕が義足と共鳴するかのように鼓動する。

 高鳴りが頂点に達した時、お互いに戦わねばならないと確信した。


「いくぞ!!」


 ラトローのスピードはまさに神速だ。目で追えるのはラトローの残像だけで、捕まえるなんてとてもじゃないが無理だ。翻弄しながらラトローは皮を削ぐように斬撃を出してくる。


「ッ!!」


 足や腕には血がにじむ。幸い辺りはラトローの財宝のおかげでラトローが踏み込む瞬間の音が聞こえた。殺気とその音を頼りに致命傷は何とか避けていた。

 堪らず距離を空けようにも早すぎて空けようがない。傷もいつ致命傷になるか時間の問題だ。

ラトローは怯む私を見て渾身の蹴りを私めがけて放った。大振りだったので左腕でガードする。しかし反動は凄まじく私は後ろに吹き飛ぶ。


「ぐわっ!! っ!!」


壁へと叩きつけられた私はすぐに立てろうとしたが、痛みは激しく立ち上がれない。


「じゃあな!!」


ラトローは私の首めがけ蹴りを放つ。その時だった。

 ラトローは横に吹き飛び、宝の山へ落ちた。


訳がわからず辺りを見渡すとそこには半泣きで物を投げてるレイラの姿があった。


「サアラ!!私――!!」


「へへ……ナイス」


親指を立てて、立ち上がる。

終わったかと思ったが影もゆらりと起き上がる。


「サアラ! 危ない!」


瞬間ラトローの拳が私に直撃する。頭をうち、混濁する意識の中、レイラの掛け声をたよりにどうにか意識を手放さずにいた。


「このくそアマが!!」


鼻血をかみ、ラトローは一気に速度を上げ、レイラへと襲い掛かる! ラトローの蹴りに思わず後ろに下がりガードするがその腕には流血が見えた。

 鋭くギラギラと輝く目で睨みつけられたレイラは腰が抜け、後ろに這いずることしかできなかった。


「死ね!!」


「きゃああ! サアラ!」


意識を手放しそうになっていると私を呼ぶ声がしたのだけははっきりとしていた。そして刃を向けられているレイラを見て、あの日の事がフラッシュバックする。瞬間とてつもない憎悪と怒りがこみ上げてきた。果てしなくどす黒いその感情は一気に体を支配した!


激しく鳴る金属音、そこにはレイラに向けられた刃をはじき返すサアラの姿があった。


「グルルル!!」




サアラは私を守り、攻撃をはじき返した。それだけでも驚いたがその時のサアラはまるで獣のようだった。綺麗な緑だった瞳は真っ赤に染まった月のようになり、筋肉は見たことないくらい隆起し、そして左腕の義手はなにか別の生き物のように血管を浮かばせ、赤黒い化け物のようになり脈打っていた。

 ラトローは起きた事が理解できずにいたようだった。即座にサアラに向け蹴りを繰り出す。しかしその刃を軽々と受け止め、足を握りしめる。


「なっ!?」


ラトローは人形のように投げられる。

 凄まじい勢いで飛ばされたラトローは受け身が出来ず壁に激突した。


「ぐわっ!」


 その時サアラの義手の鎖が一本切れた。そこから亡者の叫びのような悲鳴と共に黒い煙が噴出した。

































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― 新着の感想 ―
[良い点] この時代にきっちりハイファンタジーを書こう!という意思が、ちゃんと文章表現力や世界観の作り込みに反映していると思います。 主人公の義手、王の義眼など、造られたパーツに漂う謎がまた良いです…
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