すべての元凶は女神の像
「しかし魔王様、勇者だけが魔物と戦わなくなっても、他の人間どもが魔物を殺すのは続くでしょう。武闘家や魔法使いや吟遊詩人とか……」
「……」
小ワープで教会から出た二人は早朝の城下町を散歩していた。人の姿は見当たらない。店は宿屋以外すべて閉まっている。
まだ眠いのだが魔王様と二人で宿屋に入るのは……なんかいやだ。
「勇者はどちらかというと国王に言われ仕方なく魔物を討伐しているんですよ、きっと。それか、褒美や名誉のため……」
「褒美や名誉のために命を奪うだと?」
「はい。っていうか、スライムがお金を持ち歩くのも問題です。やっつけたくなってしまう」
「お金といっても、わずか数円しか持っていないのだぞよ? それなら城下町内にいる小さな幼女の方が、よほど沢山のお金を持っていることだろう」
五十円玉くらい、ポケットに入っているだろう――!
「勇者が幼女からお金を奪ったら……勇者じゃないですね。犯罪者だ」
「スライムなら殺して奪っても良いと申すのか!」
両の拳を握りしめる魔王様から怒りを感じる。なんか、どす黒いオーラのようなものが見える。
「……勇者にとってスライムなど、初期のレベルアップの道具に過ぎないのでしょう」
「――スライムは道具ではないー! ポカッ!」
「いたい!」
――また頭を叩かれた! 魔王様とはいえ、ホンマハラ立つわ~!
「ハア、ハア、ハア……こうなったら、予が自ら人間の国王と話す!」
「え、国王と魔王様がご対面するのですか? また得意の呪いですか? インチキがいつかはバレてしまいます!」
「いや、予はそのようなコソコソ作戦ばかりはせぬ。ちょっと耳を貸せ」
小声で話そうとする魔王様。耳を近づけるのって……嫌だなあ……顔が近すぎて。まあ、顔から上は無いんだけれど……。
「この国の国王が『女神の像』を保管しているそうだ」
「……女神の像?」
「ああ。大昔、世界を統一した者に女神が与えた神具だ」
どこかで聞いた事がある。
「――あー、我ら魔族が大昔から探しているやつですね。おとぎ話かと思っていました」
「そうだ。その像こそが慈悲の力の源であり、人間に蘇生の力を授けた元凶だ。それを……」
「破壊する。もしくはネコババするのですね?」
さすが魔王様。それでこそ悪者――。
「いや、それはしちゃ駄目だ。予が人間から嫌われてしまう」
「もお~! いいじゃないですか。魔王様はいったいどっちの味方なんですか!」
――これ以上スライムを殺されたくないんでしょ!
「――どっちもだ。命ある者すべてが予の物であり、すべてが予の味方なのだ――! そうでなくてはいつまで経ってもこの戦いに終止符が打てないではないか! デュラハンのバカ! 脳なし!」
戦いを終わらせることが……魔王様の目的だったのか……。
いや、そんなことより、いくら顔から上がないからって、「脳なし」は酷い……。戦いがなくなったら、次はこの言葉の暴力をなくして欲しいと進言しよう……。
「とにかくだ、女神の像があるところへ行き、それを調べる必要がある。全ての元凶であれば……仕方ない。……破壊する」
「かしこまりました」
ご安心下さい。魔王様が躊躇するのであれば……代わりに私が破壊して差し上げます……。
全ての魔王軍のため……そして……。
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