参列するようなお通夜ではなかった
辺りは暗く、魔王様と私は誰にも気付れなかなかった。
てっきりどこか魔物の巣の近くでお通夜が執り行われていると思っていたのだが、辺りには草原が広っているだけだ。
少し遠くに人間どもが建てた城の城壁が見える。魔王城から遠く離れた地とはいえ、あれほどまでに大きな城を築いていたとは。
魔王様が何かに気付いて立ち止まっている。頭を振りつつ瞬間移動の時差ボケを取りながら近づいていくと……そこにはクチャッと青色のスライムが死んでいた。
確認をしなくても死んでいるのが分かる。目が「✕✕」になっているから……。レベルは1だろう。持っていたお金を勇者にしっかり奪わている。
土で汚れ力尽きクチャッとなった姿にフツフツと怒りが込み上げてくる。魔王様は袖で涙をゴシゴシ拭うと、紫色の指先で地面の土を掘り始めた。
……魔王様が自ら掘ることない……。
「……スコップを持ってこればよかったですね。手伝います」
デュラハンのガントレットは固い土に食い込み、すぐにドンブリくらいの大きさの穴を掘ることができた。
「……ずまない」
魔王様は……鼻水まで垂らしていた……。
「このスライムは道に迷ったのでしょう。こんなに人間どもの近くまで来てしまったら仕方がありません」
「果たして本当にそうか? それだけの理由か?」
「……と、申しますと」
魔王様は両手でそっと青色のスライムを持ち上げると、堀った穴にそっと置いて優しく土をかぶせ始めた。
「ここは、言わば最前線なのだ。なのにこんなところにレベル1のスライムを配備している戦略に大きな誤算があるのだ」
――!
「今、我が魔王城では精鋭部隊がなにをしている? 決起集会だと? 人間の地から一番遠い安全な場所で「エイエイ、オー」と叫んでいるだけではないか」
ポンポンと被せた土を叩くと、魔王様は土の上に大きめの石を乗せた。犬や猫やイタチなどに死骸を荒らされないようにするためだろう。
ゆっくり立ち上がると、魔王様の膝からはピキっと音がした。
「二度とこのような悲劇を繰り返さないよう、全てのスライムを魔王城内へと移動させよ。さらに、最前線へ配置するモンスターは四天王が自ら選任を行い、直接指揮するのだ」
「ええ! スライムと交代――!」
こんなところに配置されては……熱中症で倒れてしまう!
「おっしゃることは分かりますが……」
「なんだ、卿には他に名案があるというのか?」
「ええ~と……」
考えろ、考えろ! このままじゃ毎日最前線で炎天下の中こき使われてしまう!
「はっ! 最前線に最強のモンスターを配置し、一気に城へと総攻撃をすればどうでしょうか。今はまだ勇者もチョロいしチャラいので楽勝です。さらには城の城壁も低く、警備も手薄。狂乱竜クレージードラゴ―ンを召喚すれば、口から吐くマグマで一夜にしてすべてを灰にできましょう」
今からでもできる。魔王様なら狂乱竜の召喚くらい容易いはずだ。
「アホたれ!」
――アホたれ? さらには頭を叩かれた。頭がないのにもかかわらず……。
「いたい! なにするんですか! 魔王様とはいえ暴力反対……」
「予はただ人間どもを支配したいのではない! できる限り、穏便に支配したいのだ」
「はあ?」
穏便に支配って……いい言葉なのだろうか。
「つまり、予は悪者としての支配者ではなく、人間どもの国王に変わる良き存在として支配したいのだ」
……それを世間の者は「贅沢」と呼ぶのだろう……。「絵に描いた餅」とか……。
「たとえ人間どもを我らが力で支配したとしても、その反乱分子はいずれ長い年月をかけて力をつけ反乱を起こす。つまり絶対の支配になどなりえない」
「絶対の支配……」
俺達はそれなの? ひょっとして。
「予は人間の国王や勇者などとは違うのだ。自分達だけが良ければ戦う相手が死んでも放ったらかしにするような者とは違うのだ」
魔王様が……「良い格好しい」なのだけは……よく分かった……。
「……しかし、どうやってそんな平和的支配をするのですか?」
「それを考えろ――!」
ああ……今日は帰れそうにない……。
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