愛を乗せた、鉄の塊
俺には愛する者がいる。
俺は轟音が轟き、身体が溶けそうなほどの熱気の中にいた。
前部座席に座る男、セファンが叫ぶ。
「うぉぉぉおおおお!!」
悲鳴にも似た叫びとともに鉄の塊は速度上げる。
俺たちはユン連合国の第十三師団に所属する兵隊だ。
王国との戦争は劣勢、この国はあと数ヶ月も経たずに壊滅し王国の領土いや植民地に成り果てるだろう。
そんなこと全兵が分かっていた。
そんな状況で上は愚策を打ち出した。
作戦名《突豪機》これを聞いただけじゃ分からないだろう。
そうだな、俺が銃弾となり相手の敵基地に突っ込むそう言えば分かりやすいだろうか。
お国のために銃弾となりて死んでくれということだ。
そんな馬鹿げた作戦が先ほど我が第十三師団にも通達された。
ふと窓の外をみると、隣にも鉄の塊は飛んでいた。
同じ師団兵だろうか。
名前も知らないが俺たちは顔見合わせると敬礼をした。
これから死にゆくお互いに、最期の挨拶を交わした。そこに名前などは必要なかった。
「なぁ、ジェイク。なんでお前兵隊なんかになったんだ?」
セファンが尋ねる。
「守りたかったからだ」
「……なるほどな」
これが、俺とセファン。親友同士の最期の会話である。
塊内に通信兵からの無線が鳴り響く。
「八号機、突撃着火点まで残り4レクター。これが最後の通信である。なにか言っておくことはあるか」
「第十三師団所属、セファン=ガルダだ。妻と子供に伝えてくれ……「ずっと愛している」と」
セファンの振り絞るような声は轟音の中でもはっきりと聞こえた。
「……了解した。ジェイク=ネクソンは何かあるか」
「俺は……彼女に「また会おう」と伝えてくれないか」
「……了解した。私は第十三師団所属、セファン=ガルダとジェイク=ネクソンに敬を表する」
無線の向こう側には、英雄を送り出す名もなき通信兵がいた。
「ありがとよ」
「感謝する」
「……作戦名《突豪機》の命のもと、迅速に作戦を実行せよ。それが我がユン連合国の総意である。ユン連合国のために!!!」
通信兵は感情を押し殺し、今だけは機械となる。
「了解」
無線が切れる。
空前からは無数の銃弾が鉄の塊向けて飛んでくる。
「さて……行きますか」
塊はゆっくりと速度を上げ、高度を落とす。
「うぉぉぉおおおお!!」
ーー俺には愛する者がいる。
この数ヶ月後、ユン連合国は王国に白旗をあげた。
ふと1話完結の短編を書きたくなり、練習がてら書きました。