ep1-5
「…………」
目の前に広がる光景に、理解が追いつかなかった。(なに、これ…)
現実に待ったをかける言葉がまた頭をよぎる。もう何度目だろう。
委員長は、……私の知ってるあのまじめな委員長は、音楽が大音量で流れるホールで、大して自分と年の変わらないだろう少年少女達と、思うままに体を揺らし、笑いあっていた。
「委員、長…………」
その笑顔が、まるで霧の向こうに霞むようで。知ってる人なのに、知らない人がいる――
呆然と、立ちすくむしかない。
そうしていれば、ごく微弱な声で誰にも届かないような呟きだったはずなのに、委員長は、何かに引き寄せられるようにこちらに振り返ろうとする。身を隠そうなど、もう力の抜け切った私の頭にひらめくわけもなく。
「……………………間堂、操…」
大音量の音楽。人の喧噪。きらびやかな照明。それらが全部、時間を止めて。
聞いたこともないような、冷たい声で、そうつぶやくのだった。
………
…
翌日の学校で。見かけるのはいつものあの人だった。
今日だって、いつもと変わらない風景。朝の通学路を行き、クラスメート達と出会って、何気ない会話をして、授業を受けて。
私の姿だって、みんなの姿だって、…………彼女の姿だって。なんら昨日と変わりなくて。…………変わらないはずで。
そう願いつつも、知ってしまった事実と、気まずさはぬぐいされず。
私は彼女を呼び出すのだった。いまだに信じられないという悪あがきな気持ちを引きづりながら。たとえそう信じていたとしたって、何の救いも与えられないであろうに。