ep1-3
肩につくぐらいの、黒く艶やかな髪。背筋が綺麗で、スタイルがよくて。何より美人。なのに人当たりはよく、物腰は柔らかい。
近づきにくいようで親しみさえ感じやすく、しかし馴れなれしくは付き合えない。そんな下級生のみならず同年代の少女にとっても憧れ的な存在である、クラス委員長牧瀬莉緒。仕事はできて人望もあって。それを鼻にかけることなく、いわゆる完璧な人である。
(私とは違うな…)
胸の内にそっと浮かんだ言葉は、私自身にさえ無意識のもので。
「間堂さん?」
「あ」
ドアの付近でまだ佇んでいた私を、心配そうに覗き込むその顔があり。
「大丈夫?」
「あ、…えぇ。ごめんなさい」
いつのまにかこんな距離を許したのかとドキドキしながら、自然と振る舞う。
「ならいいんだけど」
最後まで完璧なその人の姿に、深く追及されなかったことにほっと安堵しながら。
「……」
向けられた背中にそっと瞳を細める。
「全く違う…」
誰にも留まらない言葉を、また意識下でそっと呟いた。
***
「それじゃまたねー」
「うん、また明日」
放課後。数人のクラスメートと別れて、間堂操は帰路を一人になる。といっても学校の最寄りの駅にてホームを別にしただけのことであり大概の生徒達はその駅にて友人達と別れることになっていた。彼女の使うホームは、生徒達の使用する線としては少数のものだった。
「……」
都心を一周回るだけのこの路線は、自宅と学校を繋ぐ通学路として使う生徒は、そんなにいない。
騒がしい電車内に乗り込み、彼女は吊革に捕まる。そうやって数駅を通り過ぎて、彼女は本来自分の降りるべき駅が来ても何食わぬ顔をして反応すらしなかった。
彼女が次に足を踏み出したのは、若者が日夜たむろすることで有名な繁華街。
何をするわけでもなくどこか目的地があるわけでもなく。街を適当にぶらつき、暇を潰していればすぐに夕方になり夜になる。
この制服は私立校のものにしてはデザインに特徴がない。ぱっと見では良質の布を使っていることさえわかりはしない。だから大変便利だった。よく見れば、その割には崩した着方をしておらず髪さえ必要最低限いじられてない姿は、制服に反してどこか違和感を感じるかもしれない。
しかしそんなぎくしゃくした違和感も通り過ぎる人にとってはどうでもいいこと。彼女は何食わぬ顔で街を闊歩する。
「ん……?」
きっと彼女だからこそ気づいたのだろう。他の人間ならば気にも留めることなく歩き去るだろう。一瞬、目に着いたシルエット。
「あの制服は……」
自分の来ている制服だからこそ、しょっちゅう集団のその姿を目のあたりにしているからこそ、遠目にしても気づくことができる。
「うちの制服……」
どんなに特徴がなくたって、うちの生徒達は改造したりアレンジしたりはしない。
そして何より来ている服の上についている顔、
「委員長…………?」
美人な委員長。その人だった。