ep1-2
「眠い……」
一人の女子高生が、まぶしい朝日の中いつもの見慣れた通学路を歩いていた。
通学路といっても、典型的な住宅街を行くわけでもなく、商店街の中を抜けていくわけでもなく、はたまたちょっとした規模の並木道の中をいくわけでもない。
通学路と聞いて想像するようなイメージとは間逆の、彼女の年齢からしたら数年後先通うことになるであろうオフィス街を思わせる町並みをただ行くだけ。
所々に景観を意識した緑が植えられてはいるが、実際は大半をコンクリートに囲まれた街並みを、特徴のないデザインの制服が抜けていく。
そこは東京にある名だたる歴史ある学校と比べたらあまりにも歴史も伝統も浅い、新設の女子高校。
校舎さえも従来の学校からイメージする建物ではなく、まさに都心にある大学のキャンパス風である。
歴史は浅いが、その分古い体制、しきたりに縛られることなくあくまで生徒の自主性を重んじ、校風は自由。生徒の幅広い才能、個性に合わせた専門的な学習、フォローを行うことで有名であり特色だった。
逆にしっかりしていないと何をしていいのか目的も決められないまま生活を送りかねない校風のため、志願者、在校生共にどことなく
大人っぽく自律心のあるしっかりした子が集まっていた。偏差値は、新規参入校にしては、間違いなく高い。今、新しいタイプの学校として内外に注目されている。
彼女間堂操は、私立律奏学校の生徒だった。身を包む制服も鞄も靴も、デザインは特徴がないながらその作りは間違いなく精巧でまぎれもなく高級品。
「ふぁー」
彼女が欠伸を億面もなくすれば、徐々に作られ始めた流れの後ろの方から一つ影が飛び出し、その肩を叩く手がある。
「おはよう」
「あ、おはよう…」
「今日朝から古典だねー」
「そうだね」
あの先生はろくに生徒をささないから、睡魔との闘いだだの。それでも授業の端端でテストに出るところを指摘するため
寝てもいられない。そんなたわいのない話をしながら同じ教室へと向かう。
彼女たち二人を見ても、周りを見ても。何の曇りなく何の特徴もなく、皆一様に軽やかな笑みと共に登校している。
実際、どんなに眠かろうとよっぽどでなければ授業中眠る生徒などいないのだ。寝ていたとしても周りの迷惑にならなければ基本的に教師も周りの生徒も放置。その代わり授業に遅れたとしても、あくまで自己責任。
「おーい、二人ともー。今日の化学レポート書いてきたぁー?」
少しおまぬけな声がして二人は後ろを振り向く。こうして朝の通学路は賑わいを増していく。
それなりの人数の集団ができて、特別会話に参加せずとも支障のないグループが一時的にできあがる。
間堂操はさりげなく口を閉ざし、自然と沈黙に身を置いていた。
横目で彼女たちを見る。一様に皆大人っぽい。しっかりしていて、わからない人が見れば、制服からいって自分達はただの都立高の生徒に見えるだろう。
でも実際は違う。実際は、結構なお嬢様もいるはずなのだ。
「……」
彼女は冷ややかとも取れる視線で数瞬の間同じクラスメートを見た後、前に視線を戻した。教室はすぐそこだった。
教室のドアを開き、
「…あ、おはよう!」
隣にいたはずのクラスメートの声がわずかに高く、心持き弾むように元気になる。表情を見れば、実際笑顔だ。誰かを発見したようである。
「おはよう」
数人の生徒たちが、前を見て同じような表情をしていたから彼女も前を向く。そこにはまさにお嬢様の筆頭たる、生徒。自身のクラスの委員長がいた。