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girls  作者: かっくん
2/11

episode 1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係ありません。また、決して作品中で行われている行為を推奨するものでもありません。絶対に真似しないでください。閲覧した上で起こったトラブル・不快感に関しては責任を負いかねます。



   episode 1


 うぅ、うぅ……、苦しい……。

 この虚無感、たまらない。

 苦しい、苦しいよ……。

 這いつくばるように、私の体はある場所へ向かっていく。

頭と心と体が切り離されたかのように、私の理性はどこかへ飛び、勝手に踏み出す足は

8ミリカメラの映像のように自分とは関係ないような事実として映る。

 あそこに、行かなくちゃ……。

『バンッ』

 突如大きな鈍い音が耳に響く。私は咄嗟に身を竦める。

 私の手が、腕が、前に投げ出され、砂嵐みたいな映像の向こうで『私』がドアを開け放っていた。それを知って理性のどこかでなんてバカなのかと囁く。

 あれ、もうついたの……。

 早く、早く行かなきゃ……。

 不審な私にその建物にいる人間が何かと一瞬振り向くけど、それはすぐに元の興味に戻される。慣れきってしまっているのだ。

 私の足は、そのまま階段を求めて進む。自分の足なのに、しっかりしない。まるで地震の最中にどこかに行こうとしてるみたいで、視界さえもぐらぐら揺れてる。

 薄暗い部屋。煙たい空気。ぼやける照明。耳鳴りのようなBGM。

 無骨な鉄筋コンクリート。私は、いつのまにか風の吹く夜の屋上にいた。

「はぁ、はぁ……」

 体力不足の体には、ちょっときつい運動だ。

 さぁ、早く……。

 震える手で、手のひらサイズのビニール袋を慌てて取り出す。

 普通なら何でもない動作なのに、このときばかりはまるで跳ねる魚でも捕まえているかのように袋は跳ね、上手く自分の体を動かせない。

 袋の中には、白い粉。

 ようやく開いた袋を、手の平に落とそうとする。少なくない量の粉が、風に飛んでいった。

 あとは、あとはこれを、口元に……。

 当てれば終わり。

「う、ぐぅ……」

 怖い。

 怖いよ……。

「っ……」

 粉を掴んでいた私の右手が口元を通り過ぎ、空を横切る。

 一瞬で、手のひらの中の白い粉は空へと舞った。りんぷんのように。

「ばか、……ばかっ……」

 なんでいつも、どうしていつも済んでのところで思いとどまるのよ……!

 僅かに残された理性が私のおろかな行為を押しとどめる。いつも。

 それは何より私が理性的な人間であることの証拠。一時の感情と欲望に押し流されない、ただのへたれ。

「うぅ……」

 いつも、いつも、私の胸ポケットにはこの小さいビニール袋が忍ばされてる。

 それはお守りのように。それ自体が安定剤のように。

 今まで、何度か使用しようとしたことはある。けれどいつも踏みとどまっていた。

 勢いに任せて全てを投げ出してみたい衝動。それを押しとどめる理性と本能。

 原因不明のこの虚無感。焦燥感。言い知れない不安。

 怖い……、助けて、誰か、助けてよ……。

 手すりの向こう、おそらく地上で、救急車が走り去っていったんだろう。

 嫌に響く、空しい特徴的なサイレン――

 霞んでいた視界が、徐々に鮮明に戻ってくる。私の中で意識と現在の状況が重なってくる。

「いくじなし……」

 何度目かの、後悔――


 やがて朝日が昇る。気づくと私は屋上のベンチにもたれかかるように眠っていた。

 ふと自分を見れば、制服姿だから驚く。いつ、着たのだろうか。それとも、着換えないで

ここまで来たんだっけ? わからない、わからない……。

 オレンジ色の光が、そんな私の視界をいっていた。まだ昇りきってない太陽。

 今日も、日常がやってくる。

「また、学校か……」

 鞄はどこだっけ? シャワーは? 朝食は?

 こんな時間に開いてる店は、……店なんて、ある?

 わからない、わからないけど……。

 行かなくちゃ。『いつも』の中に……。


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