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girls  作者: かっくん
11/11

ep1-epilogue

この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係ありません。また、決して作品中で行われている行為を推奨するものでもありません。絶対に真似しないでください。閲覧した上で起こったトラブル・不快感に関しては責任を負いかねます。


「…………ハァッ…」

 一瞬の閃光の後に、突き抜ける青空が目の前に広がる。

 屋上にやってきて私は……。

 体調は最悪、加えて頭を悩ますような日々が連日続いたせいで私は、正常な判断を下せなくなっていた。

 制服のポケットに手を突っ込み、いつもの私なら考えられない行動をとる。

 ビニールパックを取り出すと、慌てながら中の白い粉を掌に落とす。それをぎゅっと握りしめる。粉が、僅かに空に飛んだ。

「はぁ、…………はぁ…」

 苦しい…。

 コンナコトシテモなんの救いにもならない。ソンナコトハわかっていた。

 握りこぶしのままの手を口元に近づけ、手が震える。

(ちょっとちょっと)

 ここは学校だよ。なんだよこの震えは、タメライ傷かよ――

 やめなよそんなことしても、なにもならない。――もう楽になりたい

「う、うぁ…………!」

 ばっと空に飛ばした。今までにも見たような光景。白い粉が真昼の屋上に飛ぶ。

「はぁはぁ…………もうダメ……。私…………」


「前言撤回。大いに踏み込ませてもらうわ」

「!」

 突然聞こえた声に、私は体を震わせ顔を覆った態勢のままそちらに振り向く。


「秘密は共有するものよ」

「牧瀬莉緒……」

 つかつかと、後ろからやってくるのは委員長の姿だった。

「それ、…………使う時は私も一緒だわ」

「な、何………バカな事……!」

 表情が見えなかった委員長が、顔を上げ同時に私の手首を掴んだ。

「……!」

「わかった? 秘密を共有するというものは、そういうことなのよ」

「っ……! 馬鹿なこと言わないで!!」

 近い! 数センチしかないほど近づいた互いの鼻先に、私は勢いよく体を翻し手首から逃れる。そしていい加減、私の中にわだかまっていた不満が……爆発した。

「あなた、わかってるの?! これが何か!! あなたが思ってるような……。いえ、思ってるよりもずっと……ッっ!!!」

「わかってるわよ。馬鹿じゃない。それよりもあなた、それ使ったことあるの?」

「え? ………………」

「…ならいいわ。それならなおのこと。使うならその時は私も一緒。わかったわね」

「…………わかるわけ」

「わかったわね」

「っ」

 命令口調に変わった言葉と、上から睨み据えるような視線に、私は思わずたじろいでしまう。

「…………、なんで、……なんでそんなに私に関係してくるのよ!!! お互いの秘密だって、こうして……。こうしてたまたま知ってしまっただけのことじゃないっ!!!!!」

「別に私の秘密は、ばれたって構わないわ。でも、あなたのそれは…………どうでしょうね?」

「っ……、なんて、奴なの……」

「あぁ、誤解しないで。私は何かを知ったって知らないのと同じよ。私の中では」

「でも。…………一人でそれを使ったら、許さない」

「わかったわね」


「くっ……」

 幼い子供が本気で母親に叱られた時のように。背中に冷汗が伝う。『怖い』

「…………あなた、わかってるの?! あなたもこれ、使うことになるかもしれないって。そう言ってるのよ」

「えぇ」

「知ってて知らないふりをするということを、…………わかってるの?!」

「えぇっ」

「じゃあなんでそんなにかかわってくるのよ?!」

「あなたの望む答えは?」

「っ…!」

 離れていた距離が一瞬で縮められ、そして顎を掴まれた。そうしてまた数センチの距離に顔を近づけさせられる。

「『あなたのことが心配だから』」

「っ」

「そうよね?」

「……私を馬鹿にするのも、いい加減にっ…!」

「いいこと。私はあなたとの関係が愉快なの。おもしろいのよ。興味深い。それ以上でもそれ以下でもないわ」

「……」

「望む答えを用意してあげる。でも私の口から出る言葉はほとんど真実とは限らな。…………呪うなら私に気に入られた事を呪うことね」

「…………えぇ、本当に」

 吐き捨てた。

 ちょっといいかと思ったらこれだ。なんて食えない奴…!!


 その会話を最後に、屋上には沈黙が戻った。下では、今日も教師が講釈を垂れている……。

 長く感じた沈黙に、私の中の意気はすっかり消沈していた。何だかいきなり情けなくなって、悲しくなって、力が抜けていく。 

「お願いだから……。…………これ以上、関わらないで」

「……」

「あなたの気まぐれに付き合わされるなんて、そんなの……っ」

 私の視界に、足が踏み込む。「え……」

 唇に触れた何かに、驚いて顔をあげると、そこには離れていく委員長の顔があって。

「また一つ、秘密、できたね」

「………な」

 状況が把握できず、呆然としていたがようやく事実を理解する。途端に顔が熱くなった。

 ……そうして、何か緊張のようなものが、体から抜け落ちた。

「あはっ………。あははは、ははははは……」

「……」

 委員長はいきなり笑い出した私を、静かに見守っている。私はひとしきり笑った後、彼女に向き直った。

「…………あーあ。もう…………わかったわよ。…………あなたのこと、……わかったわよ」

「なにが?」

「もう…………真面目に向き合わないことにする。肩の力、抜くわ」

「…えぇ。それがいいでしょうね。きっと」

「全く。…………ふ…ふふ…」

 なんか突然どうでもいいような気がしてきて。私は屋上の真っ青な空を仰いだ。

 気まぐれな猫に、全力で付き合っていたらただ思いっきり振り回されるだけだ。

「はぁ。…………いいわ。秘密を、共有する」

「OK」

「ただそれだけの、関係よ」

「もちろん」

 そう言って笑う委員長が、あまりにも爽快な笑い方をしていたから。

 私もつられて笑う。友情だとか別になんでもいい。言葉で表現できない何かで、この人とつながりあったのは確かだった。

 それだけで、……もういいや。

 

……


「キス、返してよ」

「それ無理。どうやって返すの。もう一度するの?」

「結構です。……私の唇を奪った対価は、大きいよ」

「それは光栄だわ」



ep1 end


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