prologue
この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係ありません。また、決して作品中で行われている行為を推奨するものでもありません。絶対に真似しないでください。
閲覧した上で起こったトラブル・不快感に関しては責任を負いかねます。
どうしてこう、人は分かり合えないのでしょうか。
人間は退屈なことが嫌い。
だから様々な娯楽を造りだす。
退屈に心が蝕まれないように、つまらないに心が向かないように。
だから夢中になれるものを作り出す。
生きている限り付きまとうこの虚無と空虚を一瞬とその連続忘れさせるために。
人工物を造る。投与物を造る。
そうして弱い心をコントロールする。
人間は、とても弱いものだから。
生と生きることそのものを否定しないように。
prologue
そこは東京のある有名な繁華街。
若者が集まるその街に、埋もれてしまうほどの細い鉄筋ビル。
夜な夜なそこは、どこからともなく羽のもげた若者たちが集まってくる。
這い蹲るように、救いを求めるように。
僅かに地下に差し掛かる古びた鉄扉を押し開くと、そこは照明は僅かの薄暗い空間。
ただし、すぐそこにも人は溢れ返っており部屋全体を確認することはできない。
それでいてどことなく煙たい。喉に沁みるような、張り付くような白い煙。
目に付くのは、ホールにかかる音楽に体を揺らす若者たちだけではないということ。
至る所に壁際には気だるそうにもたれかかる姿もあれば、それ以上に力が抜けたように
座り込んでしまっている姿もあった。
その顔は照明のせいか垂れかかる前髪のせいか、はたまた本人の顔色のせいなのか影をさしていてよくわからない。
そしてまた、一つの影が扉から抜け出てくる。部屋全体に扉の隙間から長い影が伸びる。
その姿は一見普通の女子高生。街で目にするような特徴のないデザインの制服。その割には髪は目立つ手を加えていない黒色。
その分艶があり、滑らかな動きをまとっている。
顔つきはひどく整っており、間違いなく美人。やたらに細く白い足が嫌が応にも人の視線を引く。
ありふれた少女のようで、そうでない。どことなく引っかかるような違和感をぬぐい去れない、そんなアンバランスな印象を受ける少女。
……わかるものがもし至近距離で確認できたなら理解できただろう。その纏う制服は量産品ではない。まぎれもなく学校指定の制服。
高級布地によって仕立てられたものだ。履く靴も持つ鞄も本革。金額は、見た印象よりもずっと高い。
「私は、……私」
切れ込むような、不適な笑みが口元を飾る。
彼女に対して何か言うものは誰もいなかった。
***
同じ頃――
風の吹く夜の屋上。風が強く、服と髪が何もない闇夜の空間へと棚引く。
「私も、まだまだね…」
手放したい感覚、感情。世情と浮世。
なのにどこかでまだ怯えている、私の、人間としての理性、本能。
本当はもう、さっさと楽になってしまいたいのに。
手の中の小さいビニールの袋をぎゅっと握り締める。その中には白い粉。
「ダメダメね。私」
夜の帳に落ちた深い墨色の空を仰ぐ。
風が一陣、横に薙いだ。
ごめんなさい――
百合を書こう、と思って書いてはいません。ただ作中に百合的描写は出てきます。百合小説を書こうとするとどうしても自分で表現に制限を課してしまうためです。なので百合小説を期待されると肩透かしを食らうかもしれません。