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ヨウジョ FINAL WORK 中編

目的地まではそれほど遠くはなかった。

一行を乗せた車は住宅街の一角、立派な屋敷に着いた。

歴史を自ら物語る風貌で、一行はそれを前にして自然とかしこまった。

なので一度、深呼吸をしてから、主人公が呼び鈴を鳴らした。

家主はすぐに現れた。

シワの深い、それでもって彫りも深い老人だ。

しかしながら老いを感じさせないほどに姿勢がよい。

主人公は見習って胸を張った。


ミス「へのへのもへじさん。夜分遅くに失礼致します」


もへじ「へーのへーの、気にしないで。電話で要件は理解した、準備もした。さあ遠慮なさらず入って」


ミス「では、お邪魔します」


主人公と相棒も続いて礼を済まし、整った前庭へと足を進めた。


主人公「立派なお屋敷ですね」


もへじ「ご先祖様の残してくれた御殿だよ。ある程度リノベーションしたから住み心地は悪かない」


相棒「お、あれ何だっけ」


ミス「鹿威しです。し、し、お、ど、し」


相棒「それあるだけで、こう、うんとあれになりますよね」


ミス「もう頭が回っていませんね」


もへじ「そいつは、酔っているのか」


主人公「すみません。少し酔っています」


もへじ「へーのへーの、構わないよ。ワシも飲んでたから」うぃんく


玄関から廊下を通って客間へと案内された。

この屋敷の外観とは相反する洋室になっていて、小規模の牧暖炉まである。


もへじ「ワシはここでソファーに座って、ティービーを視ながらぶどう酒飲むのが好きなの。あ、そこ座っていいから」


一行は勧められて、少々窮屈でも一つのソファーに並んで座った。

そこへ、へのへのもへじがダイニングからワインとグラスを二つ持って戻ってきて絨毯へ座った。


もへじ「ほれい」すっ


相棒「飲んでいいんすか!」


もへじ「へーのへーの。男は飲まなきゃ損損」


相棒が子犬のような瞳でミスリーダーを見遣るも、ミスリーダーは目だけできちんと躾た。


相棒「ちぇ……」


もへじ「飲みなて」うぃんく


相棒「でも……」ちら


ミス「もへじさん。甘やかさないでください。明日も仕事なんです」


もへじ「そうか。ま、大変だものね。ご苦労さん」


ミス「ありがとうございます。長らく、ご不便お掛けしております」


もへじ「へーのへーの。ティービー見れないのだけ困っちょるけど」


ミス「本当にすみません。明日には解決します」


もへじ「はあーあ……干支WORLDのスペシャル番組があったのになあ……」


相棒「エトワールって最近、あちこちで話題のアイドルグループですね」


もへじ「そそ!ミニスカートのフリルを揺らして踊るのが猛烈でな!」


ミス「あの」


お菊さん「ちゅー!ちゅー!ネズミはちゅーが好き!」


もへじ「な、なんだこのドキドキする歌声は……!」ドキドキ


ミス「何でもありません」きっ!


お菊さん「ごめんちゃい」ぺろ


相棒「思い出した!ネズミ年の歌!ラブスターきみに夢ちゅーだな!」うきうき


もへじ「それ好きなの!ワシ子年だから!」きゃっきゃっ


お菊さん「みんな騒がないでください。大切なお話が進みません」いらいら


主人公「んん、あーえと。教授、このテーブルの上に広げてある資料が必要なものですか」


大理石調の長机の上に乱雑に様々な資料が置いてある。

慌てて用意したと言うよりは適当に並べたという様子だ。


もへじ「んだ。まずは、ほんの少し歴史の勉強をしよう」ぴっ


萌木城、それは今より五百年ほど前に、建築家であり寺の坊主でもあった鼻垂小僧によって築かれた立派な山城である。

その当時は、天女信仰が特に盛んな時期であった。

はじめに天女信仰とは何か。

天女信仰とは、地元で格別に可愛い女子(おなご)を天女と持て囃し、御城に住まわせて崇める文化である。

人々は、各地で御城を建てては天女を崇めた。

萌木城もまたそれであった。

そして、人々は天女をただ地元で崇めるだけでなく、全国へ広める活動も行っていた。

それが時にいさかいとなることがあった。

その主な理由として、我が天女を慕う者が増えれば、それだけ権力も土地も広く大きくなることにあった。

と言うのも当時、天女とその親族は幕府よりも高い権威を持っていた。

行政等は丸っとその土地の幕府の担当だったのだが……。

とにかくである。相手の城を攻め落とせば、それらが全て手に入ったのである。

ゆえに人々は相手の天女が住まう城へと攻め、なるだけ天女が泣かぬよう祭を模していさかい、相手が作成したグッズを処分するだけに留まらず、倉庫や仕事場までも燃やして滅却することがままあったのだ。


相棒「これは、なかなかどうして興味深い番組です」


主人公「それにしても意外と過激だ……」


さて時は流れ、人々は我が天女を「姫」と名を改めて愛していた。

残された歴史的資料の中で、かつて萌木城で最も愛された者がいる。

長い亜麻色の髪が特徴のカラメリーゼ姫である。

唯一現存する彼女の肖像画を見てもらおう。


相棒「外国の幼女か」


もへじ「幼女?まさか姫は幼女だったというのか」


相棒「これは紅白のトップシークレットなんですが確かです」


もへじ「ほへえ!それは歴史的スクープだ!ありがたい!ありがたいありがたい!!」


相棒「内緒にしてね」うぃんく


もへじ「むり」うぃんく


主人公「どの肖像画を見ても、やはり外国の幼女で間違いなさそうですね」


もへじ「いんや、彼女は両方の良いとこ取りらしい」


主人公「そりゃ、魅力も増して抜群だ。特に、長い髪がとにかく美しい」


お菊さん「大きくなるまで、ずっと切ることなかったね」


主人公「知っているの?」


もへじ「ほえ?」


主人公「あ、ごめんなさい。違うんです」


お菊さん「何度か遊びに行った。ま、会うことはなかったのじゃが。現在みたいに、うん、本当は人前に出ちゃならぬからね」


相棒「毎日寂しいよな、そりゃ」


もへじ「へけ?」


相棒「気にしないで、さ、飲んで飲んで」


ここで話を萌木城へと戻す。

この御城も例に漏れず、何度も攻めいられた。

しかし、決して落城することはなかった。

次に、その秘密に迫ろう。


もへじ「これも見な。萌木城内総御絵図だ」ぱさ


主人公「お城とその周囲を見下ろした形の絵図ですね」


ミス「とても細かく描かれています」


淡慈島で唯一の御城、萌木城。

山頂近くに悠々とそびえ立ち、町から見上げても風雅な佇まいで目立つ。

その巨大な城郭は意匠に富み、城壁は名の通り新緑のように美しい萌木色をしている。

標高三百九㍍の蕪山の山頂近くに建てられており、湧水が豊富なために人が居住できた。


もへじ「実はな、お城に住むことはとても珍しいことなんだよ」


相棒「じゃあ、普通はどこで暮らすんですか?」


もへじ「出来るだけお城の近くに屋敷を構えるんだ。お城はね、最後の砦なの」


相棒「そうなの」


初めに城外に注目する。

城郭までの道程は、自然の地形を生かした土塁が盛り上がって起伏が激しい。

そして御城を守る石垣の前の急斜面には、深い空堀と竪堀が巡らせてあり、城郭へ行くには木の根のように複雑に広がっている道路の一つを利用するしかない。


主人公「うーん。早く攻めるために傾斜を構わず直進するのがいいか」


もへじ「堀は想像以上に深い。それに、冬の時期は雪が積もったり傾斜が凍ったりで特に危険だよ」


ミス「万が一に輸送する幼女達の身に何かあっては困ります。急く気持ちは分かりますが慎重に行きましょう」


城郭を守る石垣には反り返った形の扇の勾配を多用している。

それでも登って侵入しようとする者を阻むために、石垣の頂点に板状の切石を飛び出させた工夫がある。


相棒「徹底しているな」


主人公「幼女を必ず守る。どの時代だって何より熱心だったんだ」


城門は、土橋の先に一つしかない。

一の門をくぐれば石垣に囲まれた広場となっていて、多方向から攻撃されることになる。

主に、春は固くなった鏡餅を落とし、夏はウニの殻を落とし、秋には栗のイガを落とし、冬には雪玉を落としていた。

左に二の門があるので、突破が急がれる。


相棒「雪玉がくるな……」ぞぞっ


ミス「入り口はここ一つ。何とか突破する他ありません」


二の門をくぐると、城郭を左に巡る螺旋式の道が続く。

当然、攻撃が絶えることはない。

こうして、萌木城は全国でも類を見ない鉄壁の防御を誇る。

が、険しい山の上に建っているのもあって、守る側にも逃げ場がないのが唯一の弱点だ。


主人公「これは助かる」


相棒「逃がすことがないなら、とことん攻めるまでだ」


次に城郭を説明する。

大天守は三重になっている。

最上の屋根には最も品位のある唐破風の装飾が用いられている。


相棒「大天守は城の大きい部分か」


主人公「聞きなれない名称ばかりだ」


ミス「唐破風とは、この曲線状の装飾のことですか」


もへじ「そう。そこそこ」


そして、隣り合う小天守と渡櫓(わたりやぐら)で結ばれている連立式で、最上に大きなベランダのある望楼型である。

その屋根裏には姫の私室を設けて上四階、地下には幅広い穴蔵が三階まである。


へもじ「大天守の穴蔵には、特に貴重な米や穀物類を保存していたんだよ」


ミス「篭城の際に困るためですね」


へもじ「そゆこと」


小天守は二重になっていて五基。

他に櫓が七基ある。


主人公「小天守が付属する控えめな御城で、櫓は周辺にある長い建物ですか」


もへじ「正解」


幕府の所有する櫓は天守規模の二重多門櫓で上二階、それは螺旋式の道に合わせて、城郭を囲み擁護する配置となっている。

なお櫓としては珍しく、格式高い華頭窓が用いられている。


もへじ「あの形の窓をそう言うの」


天守の屋根瓦には最高位を示す金箔の菊紋瓦があしらわれている。


お菊さん「これはお菊さんに由来する」えへん


もへじ「甘菊神社の神様に由来か。へえなるほど」ドキドキ


幕府の所有する櫓の屋根瓦には配下の大名達の家紋がそれぞれにある。


もへじ「高貴な身分だという印だね」


主人公「さぞ重要なことだろう」


相棒「ふん。わざわざ他人に偉く見せるなんて、俺は好きじゃないな」


もへじ「ひゅーかっこいい」このこの


続けて居住地の分布を説明する。

大天守に姫と両親、小天守に親族が居住していた。

御城の周囲にある櫓は、番所に公務や政務等を行う仕事場とを兼用しており、その他に厳重に作られた蔵があり、十二頭の馬を飼育していた馬屋も一棟だけある。


もへじ「御城はその土地の政治の要でもあったのだよ」


相棒「いわゆる欲張りセットってやつか」


主人公「いや、その例えはどうだろう」


幕府の人間が居住する御殿は、山麓辺りに建っていた。

これは警備と外敵への威圧、両方の効果を持っていた。

現在その御殿は、昔に居住区を広げるための工事で取り壊されて現存は一つしかない。


もへじ「それがここ」


主人公「凄いじゃないですか!」


ミス「そんなに歴史的価値のあるところだったなんて」


相棒「で、いくらくらいします?」


もへじ「ないしょ」うぃんく


城下町には大名、そして平民が居住しており、大名は必ず個人の庭園を所有していた。


もへじ「とまあ、こんな感じだね」


ミス「大変に勉強になりました」


主人公「素晴らしい教養になりました」


相棒「よく分かりませんでした」


最後に、彼らの暮らしはどうだったかを話そう。

彼らは、いつだって姫の為に一丸となって生活を営んでいた。

城下町で姫のグッズを作り、城郭の穴蔵で保管、そして全国へと普及していた。

それこそ、まさに、姫の為に一生涯を捧げていたのである。

そんな彼らの暮らし、人生そのものはとても豊かであったに違いない。


もへじ「おしまい」ぴっ


相棒「ふうー。あとは、どう攻めるかの作戦会議ですね」


ミス「城郭は螺旋を描いた一本道になっています。攻め方より防衛手段に重きを置きましょう」


もへじ「それがいい。過去の人達は攻めることばかりで守りが手薄だった。大天守へと攻め入るためには、自身が生き延びねばならぬ」


ミス「もへじさん。ここにある資料をお借りしてもよろしいでしょうか」


もへじ「いいよ。私用の模造品ばかりだから問題ない」


ミス「ありがとうございます。今夜はお世話になりました」


もへじ「ん、がんばれよ若人達!」


主人公と相棒「アニメイツ!」敬礼


ミス「約束は必ず果たします。では、これで失礼します」


屋敷から出て、ふと宵の彼方を見上げると、月に磨かれた萌木色の城が淡く輝いていた。


ミス「様子が気になるでしょうが帰りますよ」


主人公「どうやって寝泊まりするのでしょう。それに、明朝の食事は?」


ミス「管理人達が交代で見張りをしてくれているのですが、その方々によりますと、魅了された特務員がオイルヒーターを運んだり、広場でテントを張ったりしているそうです」


相棒「テント……朝飯は炊き出しだな」


主人公「酔いはすっかり覚めたか」


相棒「ああ、この寒さだからな」さぶさぶ


主人公「僕も目を覚まさなきゃな」


相棒「またどうした。やけに深刻そうな顔だ。旅館に帰ったら背中を流し合うか」


主人公「いい。それより聞いてくれ。大事な話がある」


相棒「ここじゃなきゃ駄目か」


主人公「すぐに終わる」


ミス「YOUJO-Xのことでしょうか」


主人公「そうです。彼女の正体について。それは……」


相棒「それは……」


主人公「僕の娘です」


相棒「マジで!」


お菊さん「ほほう。面白くなってきた」わくわく


相棒「マジで?」


主人公「多分。わざわざここに来る理由と東の本部から来た事実、そして車中で聞いたYOUJO-Xの服装。この三つから考えて娘だとしか思えない」


ミス「やはりそうでしたか」


主人公「もしかして気付いていたんですか」


ミス「実は私、あなたの娘さんをサプライズでこちらへ招待していました」


主人公「ミスリーダー……!」


ミス「だからもしかしたらって、ずっと、心のどこかで思ってはいました。でも確信はなく、確認も出来なくて」


主人公「繋がるかどうか分かりませんが、後で電話してみて、本当に娘かどうかそれとなく確かめてみます」


ミス「あの!」


主人公「はい」びくっ


ミス「余計なお世話かも知れませんが、説教とかしちゃあダメですよ」


主人公「はは、もちろん。刺激するようなことはしません」


お菊さん「娘さんには優しく……ね」ぎゅ


主人公「そうするつもりだ。だって明日はメリーナイトなんだから楽しくなくちゃ」


お菊さん「あたしも手伝うから。必ずパーティーしよね」


主人公「神様が手伝ってくれるなんて光栄です」


お菊さん「ふふ、まだ見習いじゃて」てれ


主人公「いや、君はもう立派な神様だよ」


お菊さん「ありがとう。じゃ、また明日ね。もみあげ、髭、美人」


主人公「うん。また明日」


ミス「おやすみなさい」


相棒「寝坊するなよ」


お菊さん「せぬ!」


相棒「にこげっ!」


謎の力によって池に頭から落ちた相棒を仕方なく引っ張り出した後に、お菊さんと別れた一行は、例の旅館へと帰還した。

そこは彼らの緊急特別作戦本部として現在は貸しきりになっている。

彼らの他には僅かな特務員だけを残して、幼女とその家族しかいない。

なので幼女達の部屋から離れれば、冬の夜の静けさを改めて知ることになる。


主人公「静かだ」


主人公は炬燵に一人座り、何度も電話のタイミングを逃していた。

いざ掛けようとするも指がするりと避けてしまう。

まだ、心の準備が出来ていないようだ。

しかし、窓向こうの粉雪のように悠長にしている時間はない。

十時を回った、子供はおやすみの時間。

一秒でも惜しまれる。


主人公「あーだめだ」


何を話せばいいか分からなかった。

そして、もし、この騒動を起こした張本人が娘と確定すれば、大人としてご迷惑をおかけした人々へ、親として娘へ、両者へのケジメのつけかたが問われる。

考えれば考えるほど、余計な心配や不安が窓向こうの粉雪のように積もってゆく。


主人公「……!」


その時、なんと向こうから電話が掛かってきた。

登録外の番号からの着信でも娘と察して、主人公はおずおずと電話に出た。


主人公「申し申し」ドギマギ


ウメ「お父さん。うめだよ。寝てた?」


主人公「ううん、起きてるよ。うめこそ起きてたの?」


ウメ「うん。でも、もうすぐ寝るよ」


主人公「寒くない?」


ウメ「うん」


主人公「良かった。雪が降ってるから風邪ひかないようにね」


ウメ「お父さんもね。明日もお仕事でしょう」


主人公「お仕事だよ。でも、今年最後のお仕事だから、明日がんばれば、また一緒に過ごせる」


ウメ「やった!約束よ!」


主人公「約束する」


ウメ「そうだ私ね。お父さんにメリープレゼントを用意したの」


主人公「本当に!それは楽しみだ!」


ウメ「でしょ!もしかしたら明日渡せるかも知れないから、あ、ううん、なんでもない」


主人公「ん?よく聞こえなかった」


ウメ「ううん。なんでもないよ。私眠いからそろそろ寝るね」


主人公「そうか。温かくして寝なさい」


ウメ「はあい。おやすみなさい、お父さん」ちゅ


主人公「おやすみなさい、うめ」


主人公の娘は何かをはぐらかすように慌てて電話を切った。

これで、主人公は確信した。


主人公「雪が降っていることを肯定した。明日のメリープレゼントについて、つい口を滑らせた。そしてこの電話番号……いよいよ意図が分かってきたぞ」


ただサプライズで呼ばれて来ただけではない。

父親と再会するだけでなく、贈り物までしてさらに驚かせるという相手の意図が理解出来れば心の整理も簡単に済む。

はずが、何か物足りなさを感じた。

もっと深い思い、例えば雪の下に隠れ、萌える時を待っている芽があるはずだと考えた。

娘の想い。

なぜ、わざわざ強硬手段に踏み込んだのか。

単純な愛情でも悲哀でもない。

もっと複雑な感情に突き動かされたに違いない。

そうだ。それが娘を覚醒させた。


主人公「やっぱり分からない……」


主人公は横になって、娘と別れたあの日を、そしてここ淡慈へと単身赴任することを決めたあの日へと思いを馳せる。

娘と別れたのは一年以上も前になる。

東の紅白本部で嫁は冷蔵保存され、娘は預かりの身となった。


ウメ「お父さん。バイバイなの?」


主人公「バイバイじゃない。毎日会いに来る」


ウメは不安な表情で今にも泣きそうだった。

いや、さめざめと泣いていた。

母親を失って間もないのに父親まで失おうとしている。

その心境を考えるだけで心が痛んだ。

これは目の前の娘にトキメキしているためではなく、純粋な罪悪感のトゲによる仕業だ。


ウメ「いや。一緒に帰る」ぎゅ


主人公の体にしがみついて離れようとしない。

力一杯の抵抗、娘の全身は震えていた。

主人公は強く抱き締めたあと、なるだけ無理なく引き離した。


主人公「ごめん」


一言、その言葉しか出なかった。


ウメ「私が悪いのよね」


主人公「そうじゃない。誰も悪くない」


思い返して気付く。

娘も、しあやちゃんのように罪悪感に苛まれていた。

永遠に感じられる苦痛に悩んでいたのだろう。

このような娘が、きっと世界中にたくさんいるはずだ。

傷付いた彼女達に対して大人は一言、ごめん、と言って、誰も悪くない、そう諭してみるのだが。


ウメ「じゃあ、どうしてこんなことになったの?」


その言葉には返す言葉が見当たらない。

そこで己の無力さを思い知らされる。


主人公「とにかく。何も気にしなくていい。そのうち何もかも良くなる」


ウメ「ほんとう?」


主人公「うん。だから、いい子にしててくれ」


娘は納得のいかない表情で、それでも力なく頷いた。

もう諦めてしまったようだ。

今度は主人公が泣きたくなった。

娘の涙を拭いて気持ちを誤魔化す。


主人公「お父さんも頑張るから、一緒に頑張ろう」


ウメ「うん!」


そこへ、一つ咳払いをして美しい茶髪の老婆が現れた。


クレソン「はじめまして。本部長代理の浜名胡クレソンです」


主人公「娘のこと、よろしくお願いします」


クレソン「御主人、安心して我々に任せてください。何も不自由させません」


主人公「約束ですよ。もし何かあれば僕は……」


クレソン「私を殴りますか」


主人公「いやいや!そこまではしませんけど、そう、訴えてやる!」


クレソン「ふふ、上等です。それくらいの気持ちでいてください。娘に対するその愛情を冷まさないよう、こちらからはそれをくれぐれもお願い申し上げます」


主人公「はい。当然のことです」


ウメ「お父さん……」ぎゅ


主人公「さ、公園があるらしいからそこで暗くなるまで遊ぼう。今日は休みなんだ」


ウメ「うん!遊ぶ!」


そうして一日遊んで、名残惜しくも二人は別れた。

それからの毎日、主人公は朝早くから仕事に出かけて、午後は娘と過ごすようにした。

家にいる時とあまり変わりないよう努めた。

それでも夜には別れることになるのだが、初日以来、娘が泣くことはなかった。

娘は、ことほちゃんやケモナちゃんのように我慢していたのだろう。

心配や迷惑をかけて困らせまいと、父親以上に配慮していたに違いない。

寂しさを紛らわせるために笑顔を作っていたこともあったろう。

当時は見えていなかった、いや目を反らした娘の気持ちが、幼女達と過ごした経験から向き直り見えてきた。

娘だけでない、幼女共通の絶望とも対面した。


クレソン「主人公!大発見です!」


主人公「主人公?大発見?」


ある日のことである。

クレソンが目を輝かせて話しかけてきた。

主人公に対して、冗談のように、今まで以上に恭しい態度で話しかけてきた。


クレソン「あなたの娘さんはどうも特別な幼女のようです!」


主人公「何か体調不良でも?」


クレソン「いえ、至って健康です。そうではなくて、人類を救う希望かも知れないのですよ。御宅の娘さんがです」


主人公「世界を救う希望……本当に!」


クレソン「ええ。詳しい検査の為にここで協力してもらいましたが、その甲斐ありましたよ」


主人公「じゃあ、もうすぐここを出られますか?」


クレソン「いえ、残念ながらその目処はまだ……」


主人公「そうですか……」


クレソン「しかし主人公。どうか気を落とさないでください。救済への道標が見つかったのです。後は目指して進み続けるだけです」


主人公「なら急ぎ足でお願いします」


クレソン「もちろんです。我々としても早期解決が望まれますし、それ以上に幼女解放が第一の目的ですから」


主人公「頼りにしますよ」


クレソン「ええ。こちらこそ、これからもご協力よろしくお願いいたします」深々


主人公「それは娘に言ってやって……いえ。何か適当な言い訳をつけてケーキでも食べさせてあげてください。そちらにお任せします」


クレソン「分かりました。はて、あなたからはお祝いはなさらないのですか?」


主人公「まだ……」


クレソン「そうですか。娘さんは日々お利口さんにしています。そのことは、いつも通りに褒めてやってくださいね」


主人公「はい」


それからしばらくしてのこと。

ぼんやりと、長い別れの時が来た。


ウメ「お父さん。遠くに行っちゃうの」


主人公「ごめん。僕は僕に出来ることがしたいんだ」


その言葉は本当だった。

嘘偽りなく、決して現実から逃げるためではなく、とにかく出来ることを何かしたかった。

紅白に任せっきりは歯痒かった。

それと、お世話になっている恩を返す目的もあった。


クレソン「主人公。無理をお願いしてすみません」


ウメ「クレソンさんがお願いしたの。どうしてそんなことするの」


クレソン「大変なことがあってね。それを助けられる人間がお父さんなのよ」


ウメ「お父さんじゃなくていいじゃない」


クレソン「普通の人には難しいことなの。そう、お父さんはヒーローなの」


ウメ「そうなの?」


主人公「そうみたい」


ウメ「お父さんにしか出来ないの」


主人公「うん。だから僕としてもお手伝いしたいんだ。ウメのこと、いつも良くしてもらっているからね」


ウメ「うー……」


娘はしばらく唸りながら葛藤して、まだ幼い頭と心を懸命に働かせて、気を使って、それでも怒鳴るように分かったと答えた。


主人公「分かってくれてありがとう。お父さんは、いつだってお利口さんの君を誇りに思うよ」なでなで


ウメ「ん」


主人公「おじいちゃん、おばあちゃんがお父さんの代わりに会いに来てくれることになっているから」


ウメ「分かった」


主人公「毎日、欠かさず電話するから」


ウメ「約束ね」


主人公「約束」


小指を交わすと、娘はやっと笑ってくれた。

それは心からの本物の笑顔だった。


主人公「あれから電話で話す度に、ウメは何を頑張ったとか言うようになったっけ」


すずりちゃんと同じで、前向きに色んなことを学び吸収するようになった。

幼女はそれをエネルギーに変えて、絶望の中でも未来を考えて戦っている。

不安や恐怖という怪獣と戦っている。

一人じゃない、そうだ。

家族や友達がいるから頑張れる。


主人公「ウメにも家族がいる。でも、友人はいるだろうか」


友達と遊んだという話は一度も聞いたことがない。

本部に幼女は、娘、一人しかいなかった。

それだけ特別だった。


主人公「だから一人ぼっちだった。すずりちゃんは、幸いにも次から次へと友達がやって来てくれたからどんどん明るくなっていった。互いに切磋琢磨して成長している」


それはモモちゃんを見れば分かりやすい。

彼女は友達が出来てから、尖った性格は丸くなり、食べ物だけでなく、色々なことに興味を抱くようになった。

今はみんなと様々な経験や感情を共有している。

これだけは、娘は違う。

真に孤独な幼女だ。


主人公「孤独……か」


孤独な幼女と言えばお菊さんだ。

彼女は千年も孤独に過ごしている。

新しい家族や友達を作ろうと思っても、遠くから見ていることしか出来なかった。

けれど、小さなキッカケから幼女らしい無邪気さを取り戻して、新しい友達を手に入れた。

いずれ祭が復活すれば、新しい家族も出来るだろう。


このような恵まれた機会が娘にはなかった。

それがミスリーダーの招待によって出来た。

その時に感情が暴走してしまったのだろうか。

いや、娘は自己がしっかりしている子だから簡単には暴走しまい。

ふぇぇぇん現象は偶然だろう。

その折に、彼女を突き動かしたもの、あるいは背中を押したものがあるはず。

それは何か……それは……誰か。


主人公「ああそうか。そうだったのかそういうことか」


相棒「何のこと?」


主人公「おおおん!びっくりした!」びくっ


物思いに耽ってすっかり気が付かなかった。

相棒はいつの間にか部屋に戻って、炬燵に入ってくつろいでいた。

自然治癒力を高めて健康を増進する天然ラドン温泉にどっぷり浸かって療養し、お風呂上がりに極上マッサージまで受けて、ずいぶんと調子良くなったらしい彼の肌はつややかで表情はとろけていた。


相棒「ノックはしたぞ。声はかけてないけど」


主人公「考え事に夢中で気付かなかった」


相棒「脅かして悪い。これ、蟹とホルモンを貰ってきたから、このピリ辛出汁で食べよう。あ、お酒はダメだぞ」


いつの間にやらコンロと鍋が炬燵の上に用意されている。

鍋の具材は炬燵の上を埋め尽くすほどにたくさんある。

これも全く気が付かなかった。


主人公「かなりの量だ」


相棒「ここの女将からのサービスだ」


主人公「これは嬉しい。有り難く頂こう」


相棒「今夜の幼女達はご馳走を貪って上機嫌だ。俺達も頑張ったし、贅沢三昧して上機嫌になったって罰は当たらないよな」


主人公「幼女達はまだ起きているのか」


相棒「夕食の時のことだ。今はもう就寝態勢で布団へ潜っている」


主人公「それは良かった。子供の睡眠は大事だから」


ミス「お邪魔します」


相棒「きたきた。さ、夜鍋して作戦会議といきますか」


主人公「そう言えば、ミスリーダーは食事はまだでしたね」


ミス「それで、私が温泉に入っている間に彼が気を利かしてくれたようです」


相棒「違います。いちいち邪推しなくて結構」


主人公「メリーナイトイブに起きた奇跡だ」


相棒「あーもう茶化すな。白状する。これはいつものお礼、俺からのプレゼントだ」


ミス「ありがとうございます。素直に嬉しいです」にこっ


相棒「どういたしまして」てれ


ミス「でもごめんなさい。私は何もプレゼントを用意していません」


相棒「気にしなくていいです。主人公も構わないだろう」


主人公「もう大人だし。お気持ちだけ頂戴します」


ミス「分かりました。では、また来年。そういうことで」


主人公「そうだミスリーダー」


ミス「何でしょう」


主人公「電話、繋がりました」


ミス「どうでしたか」


主人公「YOUJO-X。その正体は娘に間違いありませんでしょう」


相棒「おう……マジか……」


ミス「済まなそうに悔やむことはありません。あなたにも家族にも責任はありません。誰もがそう思うでしょう。だから、顔を上げてください」


主人公「はい。お心遣い痛み入ります」


ミス「それより今は作戦会議です。美味しいものを食べて英気を養い、うん、どうせならとことん楽しんじゃいましょう」


相棒「お気楽になってしまえ。明日は今年の善に感謝する日だ。決して後悔して沈む日じゃない」


主人公「本当にありがとう。相棒、ミスリーダー」


一行は濃密な美味を堪能しながら綿密な作戦を練った。

その傍らで、月が人知れず雪を連れ去る。

そして天晴れ。見渡せば果てなき銀景色。

翌朝は九時過ぎと遅く幼女達に食事を与えた。

これも作戦のうちで、遅めに食事を取って腹に食物を蓄え、昼食前の時間に城へと攻める計画である。

昼食前ならば女児達はお腹を空かしており、大人達は炊き出しに追われ忙しいだろう。

と、実に巧妙な策となっている。


相棒「点呼確認」


メカヨウジョ「いち!」


ヨウジョ「に!」


ケモナ「わん!」


コスプレイヤ「よん!」


タマランテ「ご」


お菊さん「ろく!」


リムジンの中、コの字の座席に鎮座した幼女達が手を上げて元気よく答える。

これから待ち受ける遊戯を楽しみにして、皆、目をギラつかせている。

タマランテだけは目を閉じて冷静に答えてみせた。

それでも、息を潜めるワクワク感はウキウキ感となって足を微かに揺らしていた。

片や、コスプレイヤには同士討ちを避けてコスプレを控えてもらったので、彼女はちょっぴり不満そうに欠伸した。


相棒「幼女勢揃い。お菊さんも無事合流、幼女談合を開始」


ミス「了解しました。それではヒトヒトヒトヒト、現時刻より作戦を開始します。リムジン出発進行」


主人公「アニメイツ。出発進行します」


ミス「続けて、リムジン到着後のランデブーポイントを復唱してください」


相棒「はいはい俺が。正門広場を抜けて坂を登った第一広場前にあるやぐら、現在は物販店になります」


ミス「よろしい。では、こちらも動きます」


ミスリーダーは朝早くに動ける特務員達と合流。

作戦に合わせてチームを再結成した。

そして、紅白のたすき掛けで使命をのぞむ彼らを連れ、先行して萌黄城を訪れていた。

萌黄色の立派な城は、今日もその美しい姿を人々の心深くへ然り気無く残す。

その場にいる誰もが妙な高揚感を抱いた。

ミスリーダーは気を落ち着かせて、閉ざされた門前でドローンの映像を確認する。

女児達の姿は城外になく、大人達だけが最上の広場で炊き出しに動いていた。


ミス「クリア。チームフォックストロット突入」


鴨之助「いくぞ」にやり


平均年齢四十代で固められた人生経験も社交ダンスもそれなりのチームフォックストロット。

その隊長を勤める長葱鴨之助がチームに合図を送り、数人が城門を押し破る。

そして、いざチーム二十三名が城門内へと一斉に突入した。

そこは高い石垣に囲まれ、雪が放置された第一広場である。

突入するやすぐ、やはり待ち伏せはあった。

やぐらの一部が開いて、頭上より無数の雪玉がチームを容赦なく襲う。

女児達による飽和攻撃が始まった。


鴨之助「総員散開」


雨合羽を着たチームフォックストロットが忙しなく広場を駆け回り相手を撹乱する。

雪玉を確実に減らしてやるつもりだ。

いくら雪が積もっているとはいえ深くはない。

それに、雪玉を建造物内部で保存するには数が限られる。

それが幾らかまでは判然としないが勝機はあろう。

おじさん達の社交ダンスで鍛えられた足が勝つか、雪玉の数が勝つか、緊迫の攻防が繰り広げられる。

全てをかわせなくとも、おじさん達は雪上でも見事なステップさえ刻む余裕をみせた。

ところが、ここで思わぬ事故が起きてしまう。


木林「しまったあ!」すてん


今年で五十になる森木林が転倒した。

そこへ逃すまいと雪玉が集中する。


木林「うあああ!」


鴨之助「きりんさん!」


チーム数名が木林の盾になり、鴨之助が彼のもとへ急ぎ駆けつけた。


鴨之助「木林さん、立てるか。撤退しよう」


木林「いや、このまま俺は捨て置け。的になってもいい」


鴨之助「何を言う。仲間が体を張って守ってくれている。それは出来ない」


木林「俺よ、実は風邪気味なんだわ」


鴨之助「な……」


木林「この体たらくはそのせいよ。みんなの足を引っ張るだけじゃなく、風邪をうつす危険もある。だから捨て置け」


その時、敵襲を報せる太鼓がドンドコ響いた。

心臓が跳ねるほど力強い。


鴨之助「増援が来るな」


木林「これ以上時間を無駄にするな。他のチームの支援に回ってくれ。頼む」


鴨之助「港で魅了された息子夫婦を……そして昨夜のうちに捕らわれた孫娘を助けるのだろう」


木林「それは……」


鴨之助「フォーメーション川の流れのように。他のチームを先に進ませることを優先する。木林さんは俺一人でカバーする」


木林「鴨之助……ありがとう」


チームフォックストロットが横一列に並び、雪玉をその身で受けて防ぐ。

やぐらの隙間からチラ見する女児達の魅力が目に滲みても、口に雪が入っても、彼らは決して微動だにしない。

その後ろを他のチームが腰を低くして駆け抜ける。


ミス「木林さん。マスクです」


木林「すまない。ミスリーダー」


ミス「あなたはチームゴルフに合流。物販店の制圧に回ってください」


木林「アニメイツ」


ミス「鴨之助さんは引き続きチームフォックストロットと共にここを死守してください。遅れて到着する幼女組のことをお願いします」


鴨之助「アニメイツ!みんなここからだぞ!まだまだ頑張っていこう!」


ミスリーダー達はなお盛り上がるチームフォックストロットを残して第一の坂までやって来た。

中央が除雪された坂の上、そこに魅了された大人達の姿を見る。


ミス「チームヤンキー。出撃態勢は整っていますね」


龍「押忍……アニメイツ」


チームヤンキー。

二十代で構成された三十八人の若きチームである。


龍「しゃ。お前ら気張れや」


青龍、あおいりゅう。

高校生の時に全国空手大会で十五位の実力を持つ坊主のヘッドだ。

背中にはカップラーメンを溢した時に受けた火傷の痕が昇り龍のように薄く刻まれていて、いつだってどこでだって半裸になってそれを見せびらかす。

逮捕歴はない。


雀「龍。あたしより先にくたばんじゃないよ」


雀朱、すずめあけみ。

歳が幾つになろうと派手なファッションで男達の度肝を抜く孔雀のような女だ。

何度振られても蘇ることから親戚にフェニックスと呼ばれる。

性格が良いのに振られる理由は誰にも分からない。


龍「アホ言え。男気見せたるからよう見とけや」


虎「なあ龍。先に武達を行かせた方がいいんじゃないだろうか」


白虎、びゃっこ。

中学生のとき、大華の国から親の都合で移住してきた武術の達人である。

彼が戦うのはいつだって低身長の己自身。

しかし、今日ばかりは愛を救うために武術を行使する。

師よ、許せ。


武「任せてくれて構わん。むしろ言われなくともヤル気だ」


玄武、くろうたけし。

社会人が集まるラグビークラブ、堅牢会の長を任された身長二㍍を越す大男だ。

その身体能力と頭脳力は平均の倍を越える。

なにより分厚い唇が勇ましい。


龍「しゃ、堅牢会が特攻。崩したところに残りが突撃。ガッーと大天守まで道開けるぞ。よし決まり」


茨城解放戦、開始。

名の通り、茨で城郭までの道を制圧して一帯を解放する戦いだ。

芳香の強い薔薇の造花を大人達の衣服にクリップで留めることで、一時的でも魅力から解放する。


武「くれぐれも怪我はさせないでください。まず、男達を優しい包容でタッチダウンしましょう」


龍「きたきた!きたで武!!」


武「応。任せろ」


雄叫びを上げて怒濤の勢いで下る大の男達を、白い吐息を噛み切り、武を先頭に堅牢会がガッシリと受け止めて組み伏せた。

一人で二人、三人と受け止める様は流石と言えよう。


龍「続くぞ野郎共!」


虎「反撃は緩く流して、拳は開いていこう」


残りのメンズが合流、大の男達に薔薇を送る。

そこへ、大の女性達の応酬がドドドと迫る。

だが、そうはさせまい。


雀「あたしらも出るよ!」


素早くレディースが合流、やや乱暴ながらも仲間達と力を合わせて見事に薔薇を送ってみせた。


龍「もっと道あけえ!っしゃ!ミスリーダー、第一広場クリア!」


ミス「確認しました。チームゴルフ先行、足元に気をつけて坂を登ってください」


チームゴルフ。

還暦を迎えた老人方十三名の集まる制圧部隊。

お年寄りという立場を利用して相手の攻撃性を弱め要衝を制圧する特殊部隊である。


幸太郎「若い者に負けない。まだまだ元気なところを見せましょう」


高砂幸太郎、たかさごこうたろう。

歳は七十二、髪は紫。

五十年毎日スクワットを続ける鉄の足を持つチームリーダー。


幸恵「足元だけじゃなく腰にも気をつけましょうね」


網干幸恵、あぼしゆきえ。

歳は七十、幸太郎の妻。

五十年毎日リンゴ酢を飲むサブリーダー。


幸恵「木林さん。大丈夫ですか」


木林「ええ。お世話になります」


幸太郎「一緒に頑張りましょう」


ご老人の皆様は長い人生経験から、どのチームよりも人を愛し思い遣ることが出来る。

それはチームの和を締めて士気を上げた。


ミス「荷物を背負ってもあの歩行速度!もう坂を上がりきる!」


と、晴天の霹靂。


龍「増援や!みんな武器持っとるぞ気いつけえ!」


第一広場より先のやぐらから何かを手に持つ大人達がぞろぞろと姿を現した。

彼らはあっという間に第一広場へと降りてきてチームヤンキーを包囲してしまう。


武「んぶふぅ……!」


雀「武さん!」


武の顔が意識より先に白で埋められた。

粘着質のそれを息で吹き飛ばし呼吸だけは確保する。


虎「パイ投げだ!みんな伏せて!」


新たに出現した大人達は脇に段ボールを抱えて手にはパイを持っていた。

ミスリーダーは慌てて指示を下す。


ミス「チームロミオ、チームジュリエット、共に緊急出動。ロミオは速やかに物販店を突破して第一広場で苦戦するチームフォックストロットの援護を急いでください。ジュリエットは至急パイ投げを阻止してください。チームヤンキーは大人達を味方に取り込み、パイに気を付けながら慎重に進行してください」


「チームロミオ」


「チームジュリエット」


チームロミオリーダー、正宗。

チームジュリエットリーダー、卑弥呼。

両者は去年、二十歳を迎えたばかりの新成人で幼馴染み。

今年には結婚することを予定している、おめでとう。


二人「アニメイツ!出ます!」


年齢を問わず、チームロミオは男性でチームジュリエットが女性で構成された各二十名ずつの支援部隊である。

チームの補佐を目的に万能に働ける人材でまとめられている。


ミス「パイは予定していなかった。一体どこから……はっ!」


ミスリーダーは気付いた。

わざわざ大型の船で襲来した意味に。

ミスリーダーは思い出した。

メリーナイトはこの国でも祝日だと。


ミス「本部も午後には休みにしてパーティーをするつもりだったのね。その用意でパーティーグッズがしこたまあり、それを武器としてここへ密輸した」


鴨之助「緊急連絡!こちら正門広場のチームフォックストロット!敵の増援が新たな武器で攻撃してきました!」


ミス「それは何ですか、パイですか」


鴨之助「ナンでもパイでもありません。クラッカーです」


ミス「お菓子……の方ではないですよね」


鴨之助「はい。紙テープや銀紙によって視界が遮られてうまく回避が出来ません。それだけでなく、ツリーの飾りつけまで飛んできます」


ミス「それは軽量のプラスティック製にしても危険すぎます!チームロミオがそちらのやぐらを制圧するまで退避してください!」


鴨之助「そうはいきません。このままでは広場がゴミだらけになってしまいます」


ミス「まさか清掃までなさるおつもりですか!体に堪えます!みなさんの体力が持ちません!」


鴨之助「簡単なものですが雪の防壁を形成しました。必ず持ちこたえて見せます」


ミス「……分かりました。くれぐれも無理はなさらないでください」


正宗「緊急連絡!」


ミス「どうしました!」


正宗「物販店に幼女に匹敵する魅力を備えた女児が襲来!」


ミス「まさか、管理人より事前に聞いた従業員用通路を知られていたなんて。あそこは近代に新設された従業員しか入ってはいけないところなのに。いえ、それよりも問題は鍵をどうしたのか……」


正宗「ミスリーダーどうしましょう!チームゴルフが孫を見るような目で女児に魅了されています!目下、壊滅状態にあります!」


ミス「携行していたサングラスは?」


正宗「我々は間に合いましたが、ご老人には奇襲に対応するスピードがなく……」


ミス「数名を中に入れて、薔薇を送ってサングラスをかけてあげてください。女児達には作戦通り、お菓子の詰め合わせを配ってあげてください」


正宗「アニメイツ!」


お菓子の詰め合わせは昼前にお腹を空かせた女児達の高まった狂暴性を落ち着かせ、可能ならば魅力から解放するためのものだ。

空腹には敵わず必ず食い付くはずだ。


ミス「こちらミスリーダー。チームジュリエット、卑弥呼さん、聞こえますか」


卑弥呼「ひみこ、聞こえます」


ミス「作戦変更。ロミオに代わりジュリエット総員で物販店へ突入、そのまま二階へと直進、チームフォックストロットの応援を優先してください」


卑弥呼「チームジュリエット、アニメイツ」


ミス「総員に告ぐ。この先、魅力的な女児の投入が予想されます。直ちにサングラスを着用してください」


木林「失礼、こちら木林。女児全員にお菓子の詰め合わせを配ることに成功しました」


ミス「木林さん!」


木林「チームロミオは現場に戻って進行ルートの制圧を支援するよう伝えてください」


ミス「しかし!」


木林「大丈夫です。うちの孫娘が説得してくれていますから、ここの女児達は間もなく味方になってくれるでしょう」


ミス「なんと……ありがとうございます。とても助かります」


木林「へ、これで失態はチャラよ」


ミス「聞こえましたか。チームロミオ」


正宗「チームロミオ、アニメイツ。これよりチームヤンキーとさらなる連携をとって、彼らの進行を支援します」


ミス「お願いします。では、そちらの複合チームの総指揮を今より武さんにお任せします」


武「応。適任だ任せてくれ」


ミスリーダーはホッとひと息ついて坂の上を見つめた。

太鼓の音と人々の喧騒が絶え間なく聞こえてくる。

辛い戦いはますます激しさを増すことだろう。

サングラスをかけて、仲間の武運を祈り、ミスリーダーは物販店へ向かう。

一方でその頃。幼女達はペチャクチャと談合を楽しんでいた。


タマランテ「私は猫派ですの。ターキッシュ・アンゴラ・バンのキルシュが家にいましてよ」


ヨウジョ「ねこさん家にいるの?」


タマランテ「一匹だけ」


ヨウジョ「いいなあ」


仲間たちから羨望の眼差しを受けたタマランテは満足そうに足を組んだ。


コスプレイヤ「でも私達には、わんわんのケモナがいるよ」


ケモナ「だからケモナは、わんわんじゃないわん」


ヨウジョが両拳を交互に招きながら猫なで声で聞く。


ヨウジョ「ねこさんなの?」


ケモナ「くぅーん……そうじゃないわん」


コスプレイヤ「ふふ、ケモナちゃんごめんなさい」


コスプレイヤが舌を出して謝ると、ケモナはそれに対してあっかんべーを返した。


メカヨウジョ「神様はどっち派ですか」


お菊さん「あたしゃあ、わんわん派だね」


ケモナ「えへへ、照れるわん」


お菊さん「ケモナは結局どっちじゃ」


ケモナ「ケモナは犬じゃないわん!」


お菊さん「ことほは、やっぱり人かね」


メカヨウジョ「いいえ。やっぱりロボットです」


お菊さん「ううむ、ややこいね」


ヨウジョ「私は怪獣だよ!がおー!」


コスプレイヤ「私は魔法少女よ!今は……違うけど」


お菊さん「ううむ、どちらもよく分からないね」


タマランテ「神様なのにお馬鹿さんですの」


タマランテには人を茶化す癖がある。

その原因は自尊心が高いことにもあり、好きの裏返しみたいなものでもあった。

まあ、印象は当たり前に良くない。


お菊さん「なんじゃと!」


タマランテ「怪獣も魔法少女もテレビにしかいませんの。それくらい私は知ってましてよ」


タマランテが鼻を鳴らして言ってのけると、お菊さんは指を振ってチッチッチッと舌を鳴らした。


お菊さん「あたしもそれくらい知っておる。しかしね、魂が普通とは違う」


メカヨウジョ「それは幼女だからじゃないですか」


ヨウジョ「なんのお話?」


メカヨウジョ「むずかしーーーお話です」


メカヨウジョが顔をしかめる。

ヨウジョは嫌な気配を感じて、さらっと話題を投げ捨てた。


ヨウジョ「難しいお話はおしまい。違うお話しよう」


コスプレイヤ「じゃあ、神様のお話を聞かせて」


お菊さん「んー。そだね、あたしも一人しか会ったことないからねえ」


ヨウジョ「えーなにそれ」


コスプレイヤ「神様なのに」


お菊さん「ごめんね……」


菊の花が散る風に頭を垂れて落ち込む。

タマランテはそれでも気遣うことなくさらに攻めた。


タマランテ「お菊は本当に神様ですの?」


ヨウジョ「本当さね!」


コスプレイヤ「ふわーてして」


お菊さん「ほれ」ふわー


タマランテ「まあ。オバケですの」


目をぱちくりさせてちょっかいを続ける。

お菊さんはもう我慢ならないと怒鳴る。

さっき馬鹿と言われたことを思い出してバカと言い返してやる。


お菊さん「オバケではない!バカモモ!」


タマランテ「まあ、バカとは汚いお言葉ですこと!」


お菊さん「先に言ったのはそっちじゃ」


タマランテ「はあ?」


ヨウジョ「まーまー」


となだめつもも、ヨウジョは二人の喧嘩を怪獣と怪獣の戦いでも見るように楽しむ。

仲裁はいつもコスプレイヤの役割なのだが、彼女はいま、お菊さんを真似て浮いてみせるケモナの一芸に夢中だ。


ケモナ「ケモナもふわーて出来るわん。くるくるも出来るよ」


すかさず、タマランテが割って入って指図する。


タマランテ「危ないからおすわり」


ケモナ「わん!」ちょこん


プログラムのせいか素直に指示に従ってしまったケモナをメカヨウジョが細い目でじーっと見る。

負けじとケモナも見返した。

怒っているぞと毛を逆立てて。


ケモナ「なによその目」


メカヨウジョ「いえ、なにも」


メカヨウジョはすまして正面を向いた。

お菊さんがいい加減疲れたという態度で背伸びしたあと、場を掻き乱すタマランテに詫びをするよう求めた。


お菊さん「もうほどほどにせえモモ。それと、今度カスタードシュークリームを今のお詫びに寄越しね。いいね」


タマランテ「よろしくってよ。友達になら」


その言葉を強調して。

透き通る素直な気持ちで。


タマランテ「友達になら、いくらでも作ってあげますの」


お詫びすることを快諾した。

すると、他の幼女達が甘い餌を求めて次々に喚きだした。


メカヨウジョ「では、私はミルクレープをお願いします!」


ヨウジョ「プリン!いっぱい!」


コスプレイヤ「んーと、果物たくさんのケーキがいいな」


ヨウジョ「それも食べたい!」


タマランテ「よろしくてよ。ぜーんぶ、このモモルディカにお任せですの!」


幼女一同拍手。

ぱちぱちぱちぱち。


メカヨウジョ「さすがです」


タマランテ「ふふん、もっと誉めてよくってよ」


幼女達はこのようにキャッキャッとはしゃいでいる。

相棒は助手席からチラ見しては、にやついた。


相棒「どうやら作戦はスムーズにいきそうだな」


主人公「何を言う。無線から入る情報はどれも最悪だ」


相棒「まあまあ、幼女の魅力にみんなイチコロよ」


主人公「忘れるな。向こうには幼女級女児がこれでもかといる」


相棒「車を止めてくれ。おしっこしたい」


主人公「極端だな。我慢しなさい」


相棒「そう言や。今日の作戦には商店街の人がほとんど参加していないらしいな」


主人公「昨日の商店街へのタマランテ襲来による被害が大きいためだ。ヨウジョ襲来でニャオンにいた人達も、ダブさんもオリーブさんも魅力にノックアウトだ」


相棒「町の警護は警察と消防に任せているが平気だろうか。魅力が再発したりしないだろうか」


主人公「きっと大丈夫だ」


相棒「じゃあ、今日を終えた先の未来、人類はトキメキを乗り越えてゆけるだろうか……」


主人公は少し黙ってから、一度だけ確かに頷いた。

二人はそれ以上に一言も話すことなく、幼女の声に耳を傾けて車に揺られた。

長い峠道を上がりようやく、一行を乗せたベンツは、正門からやや下ったところにある駐車場に停まった。


相棒「ふう……さむ」


メカヨウジョ「緊張しますか」


メカヨウジョが、相棒の体に温もりを分け与えるように寄り添って言った。


相棒「緊張するけど大丈夫だ。お前達がいるからな」


メカヨウジョ「がんばります!」


主人公「よし。じゃあ、みんな離れないでね」


相棒を先頭に幼女行列。

主人公が殿を務め、姫達は朗らかに行進する。


相棒「すごい喧騒が聞こえてくる」びくびく


ヨウジョ「太鼓が鳴ってるね」


相棒「そそ、そうだね。楽しそうだ」びくびく


正門まではあっという間だった。


主人公「なんと見事な装飾だ」


相棒「おい!あれを見ろ!」


ところが、辿り着いたその向こう側は、決して楽しそうだなんて思える生易しい場所ではなかった。


主人公「大丈夫ですか!元気ですか!」


チームフォックストロットのメンバーが、それぞれゴミ袋の山の上で倒れ伏している。

雪との接触を避けるためでもあろうが、彼らのくたびれ具合からして、この合戦が尋常ならざるものであることが伺い知れた。


鴨之助「大丈夫だ。ここは死守した。戦いは第三広場まで進んでいる、さあ、急いで」


弱々しい絞り出すような声に追及は出来なかった。

今はとにかく前へ進むしかないようだ。


主人公「分かりました。みなさん、お疲れ様でした」


主人公達はチームフォックストロットに一礼を贈って労り、先を急ぐ。

太鼓の音が幼女達を興奮させるのか、幼女達の進行速度は増していく。


主人公「そんなに急がなくても大丈夫だよ」


その言葉に対して、最も正義感の強いコスプレイヤが声を上げた。


コスプレイヤ「はやく私達がみんなを助けなきゃ!あのお城がゴールなんでしょう」


主人公「そう。僕がそこにいる女の子と仲直りして、君たちが友達になれたら作戦成功。任務完了だ」


コスプレイヤ「こんな悲しい戦い……はやく終わらせなきゃね」


コスプレイヤが儚げな表情を見せる。

ケモナが気持ちだけでも彼女の頬をペロリと舐めた。

男二人はその健気な姿に心を打たれトキメキする。


ケモナ「でも、しあやは人見知りだわん。この先たくさんの人がいるよ」


コスプレイヤ「そうね。でも、だからって立ち止まれない」


立ち止まりながら彼女は強く言う。

しかし、一歩とまた踏み出した。


コスプレイヤ「みんな行こう!私達は一人じゃない!」きりっ


それにしてもこの幼女、ノリノリである。


ヨウジョ「がおー」とてとて


仲間が除雪してくれたのだろう。

幼女達は雪のない砂利道を選び、坂道でも難なく行進してみせた。

第一広場にはミスリーダーが待ち構えていて、遠くないところから一際大きく言い争う声が聞こえてきた。


主人公「遅れながらただいま到着しました」


ミス「お疲れ様です。お察しの通り戦況は緊迫していて、とても芳しくありません」


主人公「この上にある第三広場はもっと激しいようですね」


ミス「今は第四広場まで進行しました。ですが、商店街のなかでも特に歴史ある老舗の一つ、釜飯で有名な地獄釜。そこの店主である渡辺さんが鍋奉行として現れ指揮を執り、てんやわんやの大立ち回りとなっております」


相棒「まさかここで奉行が出てくるとは」


ミス「味方にした大人達の情報によりますと、お昼の炊き出しのメニューは、干した鯛で作る鯛釜飯、ふくの柔らか竜田揚げ、そして具沢山の野菜汁と漬物二品だそうです。これを担当する総責任者が渡辺さんになります」


相棒「彼をいっそ力でねじ伏せては?その為に必要な人材でチームを組んだのでしょう」


ミス「渡辺さんは頑固で職人気質。両手に持った菜箸を巧みに振るいながら鍋の常識を絶叫しています。接近するにはあまりに危険な状態です」


主人公「お上の命令を受けて指揮する奉行が前線で戦うとは、それだけ向こうも追い詰められているということではないでしょうか」


ミス「ええ。少しずつでも大人や女児を解放していますから、当然に向こうの戦力は不足しているはずです。しかし、それは女児の魅力に痺れたこちらも同じ。そこで、ここからは幼女達の出番です」


主人公「ここからが本当の勝負だ」


相棒「ああ。絶対に負けられない戦いだ」


ミス「これより二チームに別れて作戦を遂行します。私とあなたで第四広場を中央突破。その先、最終第五広場にて戦力の続投を遮断。それから仲間と第四広場を挟撃して一気に事態を終息させます」


相棒「アニメイツ」


ミス「あなたは地下に続く職員用通路から大天守へと向かってください。そこで待つお姫様と決着をつけてください」


主人公「アニメイツ」


ミス「私達が引率する幼女は以下三名とします。コスプレイヤ、タマランテ、お菊さん」


相棒「個性派チームだ」


ミス「主人公が引率する幼女は残る三名。ヨウジョ、メカヨウジョ、ケモナ」


主人公「こっちは正統派、になるのか」


ミス「なんでもよろしい。とにかく、このチーム分けが適材適所と判断しました」


相棒「と言いますと」


ミス「万能に対応できる組と、魅力を活かす組とで分けてみました」


相棒「ふむふむ。それぞれに得意分野を持ち、それに特化した彼女達の特異な魅力なら万事万能に対応することが可能でしょう」


主人公「こちらも納得です。瑞穂最強の魅力を持つヨウジョ、その彼女に真に似て最大の理解者でもあるメカヨウジョ。そして分析力に優れたケモナが愛らしく二人をサポートすれば、三人ともに魅力を最大限に発揮して、どんな困難も突破できることでしょう」


ミス「グッド。理解が早くて助かります。それでは、ただ今より五分の小休憩の後に作戦を実行します」


二人「アニメイツ!」ビシッ


幼女達は与えられた休憩時間を、休むことなく女児達と群れて存分に雪遊びを楽しんで過ごした。

この緊迫した状況下でも、はじめましての相手と仲睦まじく交遊し、さらに普段と変わらぬテンションとポテンシャルを維持出来るのは、短期間で急成長した彼女達が誰よりも幼女らしい幼女だからであろう。

そうして御満悦で遊び終えた幼女達は、疲れも見せずワガママも言わずに集合した。

そして、チームに別れる前に円陣を組み手を重ね、万華鏡よろしく極彩色の魅力を約して覚悟上等と咆哮する。


ヨウジョ「がんばろー!」


青空高く掲げられた小さな拳はどれも雪のキラメキに負けないほど目映く輝いていた。

とうにその手に勝利が握られているようだ。


相棒「お前の魅力で家族の絆を取り戻せ」


相棒らしく肩を組んで言う。


主人公「必ずだ。約束する」


ミスリーダーらしく隊員を案じる。


ミス「どうかお気を付けて。久しぶりに会う娘さんはとても魅力的なはずです」


主人公「そうでしょう。しかし、それくらい受け止められなきゃ父親失格です」


ミス「立派ですね。では、出発しましょうか」


主人公「はい。行きましょう」


幼女総進撃。

この一歩は人類にとって偉大な一歩となろう。

クライマックスへ向けて軌跡が続く。

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