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ヨウジョ

ここは池球。

池をはじめとした自然豊かな青と緑の惑星。


人類が刻んだ歴史は二千年の時を迎えた。

その年、世界の終末を伝える予言がまさか現実となる。


前触れなくどこかで幼女が泣いた、それは不思議にも周囲の幼女と共鳴した。

泣き声は光速を越えて、どんどんと広がり、間もなく池球を抱擁。

大気と人類の心を揺るがして、人類は窮地に追いやられた。


その原因は遺伝子の覚醒だった。

それによって幼女はビッグンバン級の魅力を発揮。

人類のほとんどがトキメキ、萌え尽きてキュン死にした。


こうして突然に幼女は世界の天敵となった。


萌によるキュン死にによって、人類のおよそ三分の二が冷蔵庫に保存された。

このまま滅びるかと思われたが、萌に耐性を持つ世界中の人々が立ち上がり秘密結社を組織した。


彼らは慈愛を使命と誓う。


名は紅白。

我らが瑞穂の国が中心である。


紅白は、幼女とその家族の隔離に成功。

幼女を温かく見守り、健全な成長を促すことで自然的に遺伝子を鎮静化させた。

そうして滅亡は食い止められ、少しずつ、人類はかつての繁栄を取り戻すのであった。


かの「ふぇぇぇん現象」より早二十年。

覚醒遺伝子を持つ幼女の出生は著しく下降していた。

人類にとっては大変に喜ばしいことだ。

しかし、幼女にとっては悲劇だった。


瑞穂の国、西の首都、梅宮、季節は春。

その東海に浮かぶ小島、淡慈島。

今は怪獣島という愛称で全国的に有名だ。


そこには、たった一人の幼女が隔離されていた。

友達もおらず、人が逃げる静かな町で、彼女は今日も孤独だった。


主人公「こちら主人公、肉屋に到着しました」


ケツ「二人の位置情報を把握。目標、間もなく商店街の東アーケードより来ます」


ミス「聞こえますか?」


主人公「ノイズはありません。無線良好」


ミス「我々の任務は幼女の迎撃です。頑なに子供と触れ合おうとする命知らずの肉屋の親父さんの救出を第一に優先」


相棒「アニメイツ」


ミス「第二に隠密行動。肉屋の店主に扮して、正体を知られることなく彼女に肉を売ってください」


主人公「アニメイツ」


ミス「第三に……これは言わなくても分かるでしょう」


相棒「生きて帰る」


ミス「いいえ。幼女のお使いの完遂です」


主人公「当然だな。彼女のお使いにミスは許されない」


相棒「どうして小さなミスも許してやれない」


ミス「精神的要因によって成長が妨げられる可能性が考えられるからです」


ケツ「幼女は現在、特殊で孤独な環境に精神的ストレスを感じています。これ以上にストレスが蓄積すると遺伝子の鎮静化は難しくなります」 


主人公「人口知能ケツ。過去に鎮静化出来なかった幼女はいるのか」


ケツ「三十三人います。彼女達に豊富なお野菜を食べさせることで四年遅れで鎮静化しました」


主人公「四年も無駄にするのは、さすがに可哀想だ」


ミス「そういうことです。我々は幼女が健やかに育ち、人としてしっかりと成長出来るよう最大限支援しなければなりません」


相棒「ミスリーダー。そのことはこちらも肝に銘じているつもりです」


ミス「なら、今回の任務に失敗は許されないことも承知でしょう」


主人公「初任務。必ずや成功致します」


ミス「期待します」


ケツ「目標、商店街アーケードに進攻」


相棒「さあ、おでましだ」


ミス「ただ今より全装備の使用を許可します」


相棒「クラッカーバズーカ。ドッキリ番組のようにうまくいってくれればいいが」チャキ


と、ここで書店に潜む相棒が目標を視認する。


相棒「書店より幼女をチラ見!」ときとき


ケツ「ファーストコンタクト。バイタル上昇、トキメキの訪れです」


ミス「しっかりしてください。まだ戦いは始まってもいません」


相棒「しかし相手は我が国、最強の幼女です」ときとき


主人公「だからこそ、最強の俺達が選ばれたんじゃないか相棒」


相棒「そうだな。まあ一応、あの日に戦うことを決めたのは確かだ」ときとき


あの日。

それは遠く、一週間も前に遡る。


相棒「今日集めたロリ画像の総数は百二枚か。まあまあだな」ふー


彼は萌えるパチスロで儲けた金でビルの六十二階をまるっと買い占めて、悠々自適な生活を送っていた。

今日もアルコールをグイッと飲み干して、無害なロリ画像の収集に熱心に努めていた。 


相棒「ん?誰だ、来客なんて珍しい」


無精髭をさすりながら、パソコンのモニターにドアカメラの映像を回す。


警察「警察だ。話がある」


相棒「何の用だ。俺は児童ポルノには興味がない、むしろ、それを趣味とする者を嫌悪さえしている」


警察「知っている。ハッカーによる義賊集団、リトルガールポルノレジスタンス。名をチャイルドシート。そのリーダーがお前だということもな」


彼が降参して玄関のオートロックを解除してやると、総勢三百六十八人の警官が部屋いっぱいに突撃した。


相棒「参った。ここは六十二階だ。逃げ場は元からない」


警察「初めに言っておこう。我々警察は、お前を逮捕しにきた訳ではない」


相棒「じゃあ、これは一体何の騒ぎだ」


代表警察官がパソコン画面に目をやると、デスクトップには女児向けアニメ、桜坂の福山ちゃん、それの主人公、福山にこちゃんのクラスメイトである、現在八十二話まで放送中の作中に二度しか登場していない天色あゆちゃんの笑顔が壁紙として飾られていた。


警察「ふっ。どうもお前は本物らしい」


相棒「へえ、分かるやつがいて嬉しいな」にやり


警察「単刀直入に要件を言う。お前を本日付けで紅白の淡慈支部隊員とする」


相棒「おいおい冗談だろう、こんなおっさん捕まえて」


警察「この人数を見れば我々の本気が分かるはずだ」


相棒「断る!リアル幼女なんてごめんだ!俺はまだ死にたくない!桜坂の福山ちゃんを最終回まで見届けるまでは!」


逃げ出そうと下手な反復横跳びを繰り返して隙を伺う彼を警官百二名が一斉に飛びかかって取り押さえた。


相棒「くそ!離せ!」


警察「連行しろ!」


相棒「やめろお!!」


数時間後。

淡慈島沿岸、ニューホテル淡慈。

パトカーからエントランスの方を見ると、ひ弱な男性が七十四人の警官に厳重に囲まれて連れられて来た。


相棒「よお、お前は何したんだ」


主人公「あなたもまさか」


警察「いや彼は君とは違う。彼は三次を守り二次を愛するロリコンだ」


主人公「なるほど。とにかくよろしく。今日から僕達は仲間らしい」


相棒「おっと汚い握手はごめんだ。この手はいつか画面の向こうの幼女の手を掴むためにある」


主人公「かっこいいな」ぼそっ


相棒「は?」


主人公「そういうの、かっこいいと思う」にこっ


相棒「ふん、変わった奴だ」てれ


パトカーは美しい海沿いをドライブして、扇状地に作られた村に着いた。

やたらと道路と土地が広く、畑ばかりのあっけらかんのすっからかんに開けた景色。

そこに、ポツンと佇む二階建てのアパートがある。

二人はそこの一階にある一番手前の部屋へ押し込められた。


相棒「ちっ、これだから瑞穂の警察は嫌いだ。もっと丁寧に扱え」


主人公「ははは」


相棒「何が可笑しい」


主人公「はやくこっちへ来るんだ。これはすごい」


狭い廊下にかけられたハムスターの暖簾をくぐると、長いオペレーションルームがあった。


ミス「ようこそ紅白の淡慈支部へ。私のことはミスリーダーと呼んでください」


主人公「巨大な立体モニターなんて初めて見たなあ」


相棒「ふむ、中々の機材が揃えられているようだ」


ミス「ちょっといいですか、人の話をちゃんと聞いてください。今日からあなた達は私の部下なのです」


声のする方を探る。

オペレーションルームの奥、壇上からこちらを見下ろす髪の短い女性を見つけた。


相棒「はいリーダー」てけとー


ミス「返答はアニメイツ」


相棒「は?」


ミス「そういう決まりです」


主人公「アニメイツ!」ビシッ


相棒「年甲斐もなくノリノリだな」


ミス「お返事は?」


相棒「はいはいアニメイツ」


ミス「まあいいでしょう。さて、時間がありません。さっそく研修を行いますからこちらへどうぞ」


主人公「あの、一階は全部繋がっているんですか?」


ミス「ええ。二階が我々の居住区になります。後々、各自確認してください」


オペレーションルームの最奥、二つあるうち右側の扉へ入る。

中はどこにでもあるありふれた会議室になっていた。


ミス「壁の向こうが研究室。この部屋のさらに奥はトレーニングルームになります」


二人は適当に席に着いた。

部屋が薄暗くなり、仄かにピンクの明かりに照らされる。

壁に埋め込まれたモニターが起動して、一人の幼女が映し出された。

くりくりおめめ、黒髪さらさらセミロングがチャームポイントだ。


相棒「ぐあっ!」ときとき


主人公「これはトキメキ!このままでは彼はキュン死にします!」


ミス「私も初めはそうでした。けれど、彼も同じ、強い耐性を持っているはずです」


相棒「平気だ……くそ!胸がトキメキやがる!」ときとき


ミス「この幼女の名前は、清里すずり」


彼に構うことなくレクチャーがスタート。


ミス「年齢は五才と一月。先月に誕生日を迎えたばかりです」


その一家団欒の楽しげな様子がモニターいっぱいに映る。

小さな口にはクリームがついていた。


相棒「かわいい……!」どきどき


ミス「これも研修です。耐えてください」ときとき


主人公「しっかりしろ!彼女の魅力を受け入れるんだ!」


相棒「お、お前はどうして平気なんだ」どきどき


主人公「実は、娘が覚醒した幼女なんだ」


相棒「娘!?そんな、ばか、まさか!」


主人公「落ち着いたようだな」


相棒「あ、ああ。驚いて」


主人公「いいか、直視するな!幼女は横目で見るんだ!」


相棒「アニメイツ」ちら


ミス「ふふ、これは面白い人材が届きましたね」


主人公「ミスリーダー。質問があります」


ミス「どうぞ」


主人公「誕生日プレゼントは何でしたか」


ミス「女児向けアニメ、桜坂の福山ちゃんの主人公が持っているのと同じ肩掛けカバンです」


相棒「すずりちゃんのことが好きになった。この仕事、うまくやれそうだ」


主人公「あなたも福山ちゃんを見ているのか」


相棒「ああ。お前も娘と見ているんだろう」


主人公「いや、娘とは別居している。たまにしか会わない」


相棒「奥さんに預けて単身赴任か?」


主人公「そんなところだ」


ミス「こほん。よろしいですか」


相棒「後で、福山ちゃんについて部屋で教えてやる」ひそ


主人公「助かる。情報は多い方がいい」ひそ


ミス「その通り。幼女と戦うためには幼女をよく知らねばなりません」


次に、モニターに彼女の身長から体重までが記されたプロフィールが映し出された。


ミス「弱点はピーマンとオバケ。これは緊急時の対策案として留意しておくようにお願いします」


主人公「ミスリーダー。幼女とは具体的にどう戦うのですか?」


ミス「いい質問です。基本的には戦闘を避け、隠密にお出掛けの監視を任務とします」


主人公「へえ。まさか、もう一人でお出掛けすると言うのですか」


ミス「ええ。のびのびと」


相棒「両親は?」


ミス「母親はリゾート温泉施設、ペコルスで働いています。そこは、有事の際は民間人の避難場所の一つとして指定されている場所です」


主人公「ふむ」めもめも


ミス「父親はタマネギ農家であり、線香生産工場の工場長でもあり、イルカのトレーナーでもあります。とても忙しく、家には遅く帰ります」


相棒「働き者だな」


主人公「とにかく、そういった理由で一人でお出掛けというわけか」


相棒「ミスリーダー。幼女が民間人や乗り物と接触する危険があるのでは?」


ミス「場所にもよりますが、お出掛け前には一定の区域に避難命令、職場や学校においては例外的に外出禁止令が下ります。そして在住紅白特務員が速やかに民間人を避難誘導します。また、地元警察による交通規制も同時に迅速に行われます」


相棒「待った。紅白特務員て奴等は何者だ。そいつらが戦えばいいんじゃないか」


ミス「彼らはあなた達ほど幼女に慣れてはいません。脆い耐性で挑めばキュン死にします」


主人公「過去にそういうことがあったんですね」


ミス「一年前の梅宮の乱を覚えているでしょうか」


主人公「ああ、そうか。あの西南地域における未曾有の大混乱は彼女が起こしたものか」


ミス「ええ。それが日本最強の幼女といわれる所以です。当日、偶然にテレビの中継に覚醒したばかりの彼女が映ってしまったことにより、都市機能が完全に沈黙しました。幸いなのは西南地域でのみ放送される地方テレビだったことです」


相棒「でも、ネットに流れていたな。俺は関わりたくなかったから他の奴等に処理を任せたが」


ミス「お陰で東北地域における被害は最小限で食い止められました。あなたをお呼びしたのは、その一件の功績と、あなたのブログに書かれていた幼女との過去にあります」


主人公「幼女との過去?」


相棒「その話は止せ!」


主人公「だが気になる。知っておいた方が、万が一に助けることができるしな」


相棒「ふん、お前の助けはいらない」


主人公「馬鹿を言え!」


相棒「いてえ!!」


ミス「ここでは暴力はいっさい認めません。おやめなさい」


相棒「腕に洗濯バサミを挟みやがってこいつ」いてて


主人公「それは謝る。だが、よく聞くんだ。僕達は今日からチームだ。命賭けの任務を、互いに協力して幼女を支援しなければならない」


相棒「……ちっ」


主人公「あなたも幼女が好きなんだろう」


相棒「でも恐ろしいんだあの魅力が。だから俺は二次幼女で心を鍛えている」


主人公「……なるほど。やはり、あの日が原因か」


相棒「そうだ。ふぇぇぇん現象。俺はあの日に地獄を見たんだ。幼女大行進。そして大勢の人間が、俺の家族が目の前でキュン死にするのを見た」


主人公「しかし、あなただけは助かった。それからずっと恐怖に耐えながら、それでも幼女を守ってきたのか。なぜそれでも守ろうと考えた?」


相棒「区別され隔離される幼女たちを憐れんだだけだ。ただの自己満足に過ぎない」


主人公「あなたはいい人だよ」かたぽん


相棒「やめろ気色の悪い。ミスリーダー、続けてくださいどうぞ」


ミス「では、次に戦闘訓練へ移ります。奥の部屋へ」


主人公「アニメイツ!」ビシッ


相棒「呑気だなお前は」やれやれ


筋トレ、射撃訓練、筋トレ、ラジコン操作、筋トレ、演技指導、筋トレ……。

過酷な戦闘訓練は夜遅く、八時にまで及んだ。


ミス「はい。こちらは携帯端末機ミニフォンになります」


相棒「薄型か」


主人公「CMで見た最新のやつだ」


ミス「それは連絡用端末です。余計な機能は使えないようにしてありますのでご了承を」


相棒「ぐあはあ!!」がくっ


主人公「どうした相棒!疲れがピークに達したのか!歳のせいなのか!三十を過ぎたら色々と堪えてくるよな!」


相棒「違う。お前も待ち受けを見てみろ」


主人公「電源は、ここだな」ぽち


待ち受けは、すずりちゃんが熱心に積み木遊びをしている姿だった。


主人公「くっ……!」とくん


ミス「どうやらあなたも無敵とはいかないようですね」


主人公「きっとシチューエーションによる影響と思われます」ときとき


ミス「グッド推測。シチューエーションは幼女の魅力を爆発させる要因の一つです。これもしっかりと覚えておいてください」


相棒「アニメ……」ずしゃあ!


主人公「相棒ー!!」


相棒は救急搬送され、主人公はモヤモヤした気持ちのまま自室に帰った。


主人公「ここが今日から僕の部屋か。荷物は運び込まれているな」


明日は、朝起きてお昼ご飯の時間まで部屋の整理時間となっている。


主人公「相棒にメールするか」ぽち


そこには、すずりちゃんが熱心に積み木遊びをしている姿があった。


主人公「なに!待ち受けが変更出来ないだと!これも訓練だと言うのか!!」ときとき


もし、このままメールを送っていたら画面を見た相棒は間違いなくキュン死にしただろう。


主人公「仕方ない。疲れたし風呂入って寝よう」


ぴろん!


主人公「このトキメキボイスはまさか、すずりちゃん!?こんな仕込みまであるとは恐るべし!」ときとき


メールはミスリーダーより送られたものだった。

シャワーを浴びたら私の部屋で夕御飯という命令だった。


主人公「文句を言ってやる。大人の喧嘩だ」ぴんぽーん


ミス「来ましたね。遠慮なく上がってください」がちゃ


風呂上がりの妙に色っぽいリーダー、対して質素な室内。

低い机には老人がひとり座っていた。


主人公「こんばんは」


ミス「こちらは博士、オパンティヌスさんです」


主人公「あ、装備開発とかの。これははじめまして、主人公です」


オパンティヌス「よろしく」


主人公「外国の方ですか」


オパンティヌス「その通り」


ミス「博士は寡黙な方です。料理はもうすぐ出来ますから、どうぞくつろいでお待ちください」


オパンティヌス「君は幼女の父親だね」


主人公「はい。一年前に離ればなれになって、今はたまにしか会えませんけど」


オパンティヌス「国家最重要機密幼女」


主人公「え?」


オパンティヌス「知らないか」


主人公「はい。何のことでしょう」


オパンティヌス「わしもよく知らない」


オパンティヌスは、それ以上は何も語らなかった。


ミス「天津飯とゴーヤーチャンプルーです」こと


主人公「うーん。ミスマッチング」


ミス「私はミスリーダーですよ」


主人公「頂きます」


とてもとても美味しかった。

それから文句のことも忘れて、特に話すことは何もなく、食事が終われば即解散となった。

部屋に戻ると、相棒からメールが届いていた。


相棒「たすけて」


相棒は電話にも出ず、メールの返事を返すこともなかった。

翌日、ミスリーダーより三日間の入院を伝えられた。

彼の心は想像以上にトキメキしてキュン死にかけていたらしい。

復帰してからはこの世とあの世をさ迷いながらも、だらしない体にムチ打って訓練に励んだ。

主人公が心配すると彼は強がった。

幼女にトキメキする情けない姿を見られたくないようだ。

主人公は応援する方向で共に頑張って訓練を乗り越えた。


ミス「今夜はハンバーグです」こと


相棒「やった!」ぴょん


オパンティヌス「大好物だ」にこにこ


ここでは必ず、朝から夜までみんなで一つの食卓を囲む。

まるで家族のようにだ。

主人公はそれを、懐かしくも楽しくも思っていた。


ミス「明日、いよいよ初任務になります」


主人公「早いですね」


ミス「はい、人も時間も惜しいのです。あなた達が来る前、そして訓練を終える今日まで、多くのメンバーが冷蔵庫行きになりました」


相棒「んん、食事の時にやめてください」


ミス「これだけは言わせてください。あなた達は、多くの人の命を背負って戦うのです」


主人公「アニメイツ」ビシッ


ミス「よろしい。さて、明日の作戦について改めて説明します。作戦名は、初めてのお使い」


相棒「テレビで見たこと」


ミス「あれとは一切関係ありません」


相棒「そうか」


ミス「幼女は住宅街の外れにある自宅を出て、通りを二百メートルほど歩きます。そこにある商店街のお肉屋さんで初めてのお使いをします」


主人公「それを見守るわけですね」


ミス「いえ、頑固な親父さんをまず確保。次にあなたが肉を売ってあげてください」


主人公「僕がですか!」


ミス「あなたは幼女の足止めをお願いします」


相棒「アニメイツ。で、リーダーは?」


ミス「本部より必要あれば指令を出します。サポートに人口知能ケツがいますから安心して任務に挑んでください」


相棒「あの人口知能、博士が作ったんだろう。俺にはさっぱりの高技術だ」


博士「今度色々教えてやる」


相棒「お!それはいい、是非お願いする!」


ミス「こほん」


相棒「続けて」


ミス「いい歳してタマネギ残さない」きっ!


相棒「そっちですか。いや、昔からなんか苦手でして」


ミス「幼女の声を寝るまで聞きたいですか」


相棒「うまい!」もぐもぐ


短い間に互いのこともよく分かってきた。

相棒は実はお調子者。

ミスリーダーは真面目。

博士は寡黙だけど優しい。

うん、やっぱりよく分からない。


ミス「さ、食べたら早く寝るように。明日は早いですよ」


主人公たちは揃ってアニメイツと叫んだ。


主人公「娘ではない幼女との対面……か」


眠れない夜を過ごしたその翌朝、八時に朝食を取ったら、二人は体育の授業セットみたいなポロシャツにジャージのズボンという戦闘服を着て、装備のせいでやたら重いリュックを背負って準備を終えた。


相棒「見ろ。この戦闘服は目立つし、何より俺には似合わない」


主人公「目立つのには幼女の注意をひくのと、幼女に味方と印象付ける二つの目的がある」


相棒「まさに諸刃の剣だな。これは服だが」


主人公「そろそろ行こう」


相棒「アニメイツ」


オペレーションルーム。

中央の立体映像には作戦区域に指定された町内が立体的に映し出されている。


ミス「この立体地図は支給した腕時計によっても確認出来ますが、もう覚えてはいますね」


相棒「大体な」


主人公「あの、もし幼女がコースを外れて進攻する可能性はあるのでしょうか」


ミス「もちろんです。臨機応変な対処が出来るよう心掛けておいてください」


主人公「アニメイツ」


ミス「さて、コードネームはヨウジョ」


立体映像が形を変えて幼女になる。


主人公「そのままですね」


ミス「そこ私語厳禁」


主人公「すみません」


相棒「ははっ」


ミス「繰り返します。コードネームはヨウジョ。今朝も目覚めは好調で食事もきちんと取りました」


続けて幼女の服装が伝えられる。

彼女は基本的にお気に入りの服を着る習性が強い。

可愛らしい怪獣の描かれた半袖洋服の下にヒラヒラスカート、小さな運動靴に加えて、福山ちゃんの小さな肩掛けカバンだ。


主人公「服装による精神的影響は心配には及ばなそうだ」ほっ


相棒「かわいいのに違いはないがな」ときとき


ここでケツが叫ぶ。


ケツ「民間人の避難、職場の制圧が完了致しました」


ミス「では……」


不安と興奮の混じる緊張の一瞬。


ミス「総員出撃!」


二人「アニメイツ!」ビシッ


基地から飛び出して支給された電動ママチャリへ二人は乗り込む。

作戦ポイントまでは、およそ二十四分。


主人公「おお!町だ!」


あぜ道を走り続けると突然に住宅街が現れた。

とても静かで、二人の自転車をこぐ音と風の嘲笑しか聞こえない。


相棒「向こうに大型デパート、ニャオンが見えるな」


主人公「まだ彼女を連れたことはないそうだが、いずれ、あそこも戦場になるだろう」


相棒「避難区域には入ってなかったな」


主人公「幸いにも平日だ。避難勧告は耳にしているし、わざわざ出かける民間人はいないだろう」


二人は目的地へ到着した。

商店街の入り口へママチャリを停める。


相棒「俺は書店に待機。お前は肉屋の親父に負けるな」


主人公「まったく骨が折れる」


相棒「本当に折らないよう気を付けろ。肉屋の親父は元プロレスラーらしい」


主人公「なに!それは初耳だ!」


相棒「ケツに聞け。情報収集はいかなる時も決して怠るな」


彼は死にたくないがために、昔からそこに関しては抜かりがなかった。

ハッカー集団のヘッド、そしてギャンブルのプロらしい生き方だ。

見習わねばと主人公は頷いて感謝の言葉を伝えた。


相棒「何かあったら助ける。必ずだ」


主人公「初日とはずいぶん変わったな」


相棒「この一週間でお前を認めた。戦いに勝って無事帰れたなら、福山ちゃんのBDをお前に買い渡すと約束しよう」


主人公「ありがとう相棒。我が友、勇敢な冒険者よ」


彼は一度笑って、何も言わずに駆け出した。

それから冒頭の展開となる。


主人公「相棒、死ぬな」


相棒「お前もな」


主人公は肉屋の裏口の扉をそっと開けて室内を確認する。

それを終えると静かに潜入した。

棚が入り組んだ倉庫、電気は点いておらずやや薄暗い。

そこに人の気配はなかった。


主人公「どこだ……どこにいる。二階の居住スペースか」


その時、背後から主人公の首へ太い腕が回される。

肉屋の親父による待ち伏せだ。


主人公「うぐっ!」


親父「いらっしゃいませ。名物は新鮮なミンチを使ったメンチカツになります」ぬっ


このままでは絞め落とされてミンチにされメンチカツに揚がってしまう。

主人公は体を後ろに押して親父を棚に叩き付けた。

棚が倒れ、親父も倒れた。


主人公「こほっかはっ!」


親父「これは弁償になりますね」やれやれ


散乱する事務用品やファイルを片しながら親父が言う。

主人公は拳を握って臨戦体制を整えた。


主人公「今は互いに敵対している場合ではありません。幼女はすぐそこまで迫って来ています」


親父「ほう、もうすぐここへ来るか」


主人公「どうして避難なさらない」


親父「すずりちゃんにお肉を売るために決まっているだろう」


主人公「そんなことをすれば、あなたはトキメキしてしまう」


親父「それがどうした」


主人公「なに?」


親父「わしは肉屋の親父だぞ」


主人公「だからと言って」


親父「いつも独りで寂しい思いをしているあの子に、一度くらい肉を売ってやりたい!まごころを込めた揚げたてのメンチカツを食わせてやりたいんだ!」


言い終わるが早いか素早く飛び掛かる親父。

とっさにかわして机を挟んで距離を取る。


主人公「気持ちは分かります!しかしキュン死にすれば二度と!二度と彼女においしいメンチカツを売ってやれない!お使いもさせてあげられないんですよ!」


親父「わしは死なん、心配するな」


相棒「おい、どんな状況だ」


主人公「説得に時間がかかる。足止めを頼んだ」


相棒「くそっ!これはどっちが先に死ぬかな」


主人公「福山ちゃんのBDは必ず貰う。必ずだ」


相棒「分かった。最大限に努力する」


主人公「こちらも」


肉屋「遺言は言い終えたか」


主人公「あいつも僕も死にはしない。年金をきちんと貰うまではな」


主人公はテーブルの上に乗って、直後、親父の顎目掛け飛び膝蹴りを放った。

一方、その折。


相棒「ミスリーダー」


ミス「何でしょう」


相棒「もし幼女を泣かせてしまったら、我々はご両親に叱られますか」


ミス「場合によりますが、許可は得ています」


相棒「そうですか。なら安心して迎撃できます」


ミス「彼女は立ち直りが早いという情報があります」


相棒「貰った幼女のまとめで確認しました」


ミス「資料に目を通せたのですね」


相棒「ふん、気に入った仕事はしっかりこなすのが俺の流儀でな」


ミス「では、この先の判断は現場にいるあなたに一任致します」


相棒「本気ですか」


ミス「ただし困ったときには頼ってください」


相棒「アニメイツ」


とて……とて……。


相棒「ふんふんふーん。アーケードに響くよー幼女の足音が」とくん


幼女「がおー」とてとて


相棒「横目で横目で」ちらちら


相棒はクラッカーバズーカを書店前を通り過ぎようとする幼女に向けた。

しかし、チラ見では狙いが定まさし……。


相棒「ちっ、一度だ。一度だけの機会だ。うまくやれ俺」ときとき


覚悟直視、すかさず引き金を引いた。


幼女「!」びくっ


アーケードに響く炸裂音。どこかで鳩が羽ばたいた。

派手に飛行した色とりどりの銀紙や紙紐が幼女の全身を覆った。


相棒「訓練の甲斐あり。だが」どきどき


激しく脈打つ心臓。

生幼女を直視したことによって、こちらが受けたダメージは甚大だ。


幼女「がおー!」


相棒「!?」びっくん!


幼女「がおー!がおー!」とてとて


対して幼女はまったく動じていない。

それどころか、チラ見するに喜んですらいる。


相棒「急ぎ退避する」


ほふく前進で、物音を立てないよう慎重に退避する。

本棚に身を隠しながら奥を目指した。


相棒「誘導には成功した。そっちもしくじるな」


ここで、相棒は最悪なことに気付く。


相棒「あ、児童書コーナー」


ぶわっと鳥肌が立って、続けてぞわっと全身の毛が逆立った。

まずい、幼女がこの書店に覚えあれば遭遇する。

とっさに振り向いた。


幼女「が……お?」ひょこ


幼女との遭遇。


相棒「う……うあああ!!」どきどき!


ケツ「バイタル急上昇。キュン死にの危険あり」警告


ミス「逃げなさい!はやーく!」


相棒「う、動け俺の足!」ぺちん


彼の足が皮肉にも幼女との邂逅に歓喜する。

笑いが収まらない。


幼女「がおー!」とてて!


進撃の幼女。

速度を増して迫る。


相棒「う、うへえ!うへえ!」ひいひい


まともに呼吸が出来ない。

それでも足を引きずりながら彼は後退って必死に逃げる。


相棒「あへあへあへ……!!」がくがく


極限状態に陥った彼は錯乱したかのように、あろうことか、棚から商品をばらまきはじめた。


相棒「へ、へへ!くれくれてくれやる!好きなものをもももってけ!」


ズキュン……胸のトキメキが痛くなってきた。

命の限界が近いことを彼は本能的に理解した。

しかし、その非常識が彼を冷静にして、また、幼女が絵本を手に取ったことによって彼は生かされた。


幼女「ありがとう。でも、知らない人から……」


彼は魔法を使ったように姿を消した。

その奥、事務室にて眠るように気を失った彼のことを幼女は知るよしもない。


幼女「あれ?」くびかしげ


幼女は落ちた全ての絵本をちゃんと棚にないないして、また、進攻を再開した。


幼女「がおー」とてとて


ミス「アーケードに配備したカメラの映像をモニターに映して」


ケツ「危険です」


ミス「構いません。映しなさい」


ケツ「アニメイツ」


ミス「もうお肉屋さんまで間もないじゃない。主人公、そちらは今どういった状況ですか?」ときとき


ケツ「応答ありません。脈拍も不安定。肉屋の店主に返り討ちにあった可能性が松です」


ミス「作戦失敗ね……」がくっ


主人公「まだです!」


ミス「あなた、平気なのですか!」


主人公「ボコボコに打ちのめされました。なので第一の任務は放棄させて頂きます」


ミス「なりません。それは命令違反になります」


主人公「それでも僕は、彼女のお使いを成功させねばならないのです」


ケツ「幼女、肉屋へ到達」


ミス「モニターに回して!」


映像がスライドして映される。

肉屋の前で、めいいっぱい大きな声で親父を呼ぶ幼女の姿が映る。

ショーケースを通して、奥の様子をジッと伺っている。


親父「いらっしゃい」がくがく


そこへ呼ばれた親父が現れる。


幼女「こんにちは!」にこっ


幼女はしっかりと挨拶が出来た。

目には見えぬが確かな衝撃波がズキューンと広がる。


主人公「んぐっ……!」とくん!


主人公は腕を噛んで堪えた。

一方で。


親父「ぐおあ!!」ドガシャ!


あまりのトキメキに頭をショーケースに四度も叩き付ける肉屋の親父。

その常軌を逸脱した突発的な行動と頭から止めどなく流れる鮮血を見て幼女の目に涙が浮かぶ。


主人公「親父さん!」ひそ


親父「大丈夫だよ。泣かないで、ちょっと待っててね」にかっ


親父は何事もなかったかのようにメンチカツを揚げて誤魔化すつもりだ。

油にメンチ滑落してパチパチと気持ちのいい音がした。


幼女「頭お怪我してるよぅ……」うるうる


誤魔化せなかった。


親父「メンチカツで拭いたから平気だ。ほら」ふらふら


幼女「それハンカチだよ。私、知ってるよ」


親父「そう、よく知ってるね。これはハンカチだよ。教えてくれてありがとう」


幼女「うん!」にこっ


親父「んひゅん!」どきっ


興奮して血が噴き出した。これは平気ではない。

ハンカチに染みた血はまるで一匹の金魚が泳いでいるみたいだ。


主人公「一か八か、これを使って気を逸らしてみよう」ぽい


主人公はポケットに用意していた飴玉をショーケースの脇から幼女へと放り投げる。

それは袋から一度取り出せば、お口の中で爆発して爽快、低刺激でシュワシュワする仕組みになっている。


幼女「あ……なにこれ」ひょい


主人公「親父さん。拾い食いは教育に良くない。うまく誤魔化してくれ」


親父「それ、おじさんが落としたみたいだ」


幼女「はいどうぞ!」


親父「お利口さんんんんんん!!」ジュンジュワァ!


脱力した拍子に右手の指が四本半、油へ滑り込んだ。

親父は白目をギョロつかせながら唇を噛み締めて必死に耐えるが、全身が激しく痙攣する。


幼女「だ、大丈夫!?」うるうる


親父「水で冷やしたはあいでえ大丈夫だよお」


親父は目に見えて限界だった。

意識ここにあらずという状態で、愛のみで再起動していた。

それに気付いたのは、親父が、美味しそうなきつね色に揚がったメンチカツを、幼女が火傷しないように五枚の紙で丁寧に包むのを見たときだった。


親父「さあ……さあ……」


もう声も出なくてただの蠢く怪物となっている。

幼女は、涙も笑顔も引っ込んですっかり怯えてしまっていた。


幼女「あ……あの」ちら


上目遣いのチラ見が追い討ちをかける。

親父のデカイ体がふらっと後ろへ倒れる。

主人公はとっさに受け止めた。


主人公「せーふ」


幼女「ん?」ひょこ


目が合った。

真ん丸とした、茶を帯びた大きな黒目。

そこに虹を見た。


主人公「ああ……ああ……」どきどき!


このままでは親父と仲良く怪物兄弟になってしまう。

主人公は帽子を深く被って視界を遮り、無理してもスクッと立ち上がって深く息を吸った。


主人公「はい、どうぞ。これは親父さんからのサービスです」


幼女「ありがとう」


幼女がメンチカツを受け取ったとき、主人公の指と彼女の短い指が触れ合った。


主人公「そーらん!」パリーン!


衝動を風みたいに受け流す正拳突き。

ショーケースをぶち破ったら手を突っ込んで、事前に得た情報から鳥モモ肉をグワシと掴み取り引きずり出した。


主人公「えい!えい!」


ガラスの破片が付いていないかよくよく確認して、トキメキを振り払うように大袈裟な動きで鳥モモ肉を、四百五十㌘、紙で巻きに巻いてやった。


主人公「こっひはオマケでひゅ!」どん!


唇が痺れてうまく言葉がでない。

歳のせいか無性にオシッコに行きたかった。


幼女「もらっていいの?」


主人公「しょにょハムはあ、家族みんにゃで食べへね」


幼女「ねえ、さっきのおじさんはどうしたの?」


主人公「ねえてえりゅう」にかー


幼女「そ、そう……。はいお金」


主人公「おじゅりになりまふう」


お釣りを幼女の財布に直接落とすと、彼女は逃げるように走り出した。


幼女「ばいばい!」


気合いと気迫で幼女を撃退した。

より小さくなった幼女の背を見送りながら、主人公は安堵して眠るように気を失っていく。


ミス「しっかりしてください!救急班急ぎ足で駆ける!」


妻のコロッケを梅と一緒に食べたいな。

主人公は最後にそう望んだ。

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