Gとの対峙
「水道の水は出るし、砂糖もある。あと4日。よし、いける」
まったくの根拠のない自信だった。妙なところでポジティブシンキングを発揮する一人暮らしの私は、再び冷蔵庫を確認する。ついさっきほども見たばかりだが、なんど見ても冷蔵庫の中は空だ。食料に化けるはずだった先月分の給料は、そのほとんどがゲームへと変貌をとげてしまった。あと4日は持ちこたえないと給料は振り込まれない。こうなってしまっては仕方があるまい。
「動いても腹が減るだけ。寝るとしよう」
私はたぬき寝入りを決め込んだ。部屋の明かりを消し、そそくさと布団の中に入った
カサカサ、カサカサ。
深夜、寝ている最中にとても嫌な音がした。気のせいだろうと、ひとまず現実逃避する私。
カサカサ、カサカサカサ。
さすがに無視できなくなり、飛び起きて灯りを付けた。
あたりを見渡すと視線を感じた。ゆっくりと音がした方を向くと、やはりGがいた。ふてぶてしい顔で、私を見ていた。少しの間、私とGはにらみ合った。Gの目は凶悪そのものだった。気のせいか、私に向かって右前足で「かかってこいよ」という挑発したポーズをしているようにすら見える。
私はにらみ合ったまま、手をそっと近くのテーブルに置いてある新聞紙の方へにやる。そして、つかんでゆっくり丸めて……
バシッ!
「チッ」
叩きに行く私。それ寸前のところでかわすG。
バシッ!
叩く、右にかわす。
バシ、バシ!
叩く、左にかわす。
バシバシ、バシ!!
さらに叩く、後ろにかわす。こいつ、なかなかできる。
わずかに息を切らせながらGの姿を追う。とはいえ、次第に逃げるパターンが読めてきた。Gが廃車のようにペシャンコになるのも時間の問題だと思った。
「さあ、もう終わりだッ! ヒッ!?、ヒィィィィッ!!」
危険を察知したのか。Gは、恐ろしい行動に出た。なんと、顔に向かって飛んできたのだった。思わず、しゃがむ私。身の毛がよだつ思いで、よけた。こうしてまたしても、逃げられたのだった。
そこからが、長かった。隠れるGを探しては逃がし探しては逃がしを繰り返し、ついに逃げ場のない角まで追い込むことに成功した頃には、朝日が差していた。
追い詰められたGが、黒いつぶらな目でこっちを見ている。気のせいか、目が潤んでさえ見える。やめろよ。そんな目でこっちを見るな。それにしても、こいつは何を食べていたのだろう。部屋の主ですら飢えで困っているというのに……。そう思うと、今まで抱いていたGへの憎さが、哀れみと称賛に代わってくる。
「すげえな、お前。すげえよ」
心からそう思った。しばらくの間、私とGは見つめあった。まるで古くからの戦友を見るような分かり合えたような気持ちになった。そして、ゆっくりと……
『殺虫剤をかけた。』
動かなくなったGをホウキで掃き、チリトリに入れ、ゴミ箱へと捨てる。
いくら称賛に値しても、嫌いなものは嫌いなのだ。