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創世記  作者: 大賢者ユーリ
第一章
6/6

6:源泉かけ流し温泉

 タンクの仕事小屋で昼食をとって一服したあと、敵に遭遇することもなく一行はなんとか日暮れ前にタンクの村に着くことができた。


「おい見ろよ、タンクの奴が戻ってきたぞ!」

「それに、旅人を連れて来てるぞ。」


その声を合図に村人たちが寄ってきた。見たところタンクは村の人からの人気が高いようだ。それに村人が僕たちの存在に驚いた様子はない。


「みなさん、ご無沙汰してます。」

「おうタンク、山の方はどうよ?」

「どの木も順調に育ってました。この調子なら冬越え用の燃料を切り出しても大丈夫そうですよ。」

「そりゃ良いや。」

「ところでこの騒ぎ様は何ですか?」


アテナのその問いかけには別の人が答えてくれた。


「あんた達は旅人のようだから知らないだろうけど、この辺で噂になってる宣教師の一団がようやくこの村にも訪ねてきてよ。あの方々の話を聴いていたら心が踊ってしまってよ。あんた達もあと一日速くこの村にやって来たらその話を聴けたのによ。」


それに宣教師たちはただ教えを説くだけでなく、薬とその調合法を教えていたりと、そのお陰で怪我の治りが良くなった人もいるみたいだった。そしてその教えを簡単に説明すると『自然を慈しめ』と言うことらしい。


 彼らは村人たちの挨拶も早々に切り上げてタンクやミリアが住んでいる長屋にやって来た。かつてはたくさんの人が住んでいたらしいが、今はミリアの家族とタンク一人が住んでいるだけで、アレスたちが空いている部屋を使っても良いと言うことである。


「ねぇ二人とも、明日はすぐに宣教師の一団を追いかけない?」

「俺もさっきの人たち話を聞くと、教会の人には会いたいと思ったけど、宣教師の一団がどこに行ったのかもわかんないのに、そんな無茶なこと言うなよなアテナ。」

「僕も宣教師を探すために明日一杯は情報収集に努めた方が得策だと思うけど。」

「そんな暢気に構えてたら、追い付けなくなるかも知れないじゃない。」

「村人たちの話だと宣教師たちは何日もこの村に留まっていたみたいだから一日情報収集に費やしても村さえ同じならば十分に間に合うよ。」


こうして明日の予定をかためた三人はタンクに呼ばれ夕食へと向かった。そこにはタンクとミリア以外にミリア母親がまっていた。


「君たちはどこから来たのかしら?」

「はっきりとは分からないですけど、朝陽が背後から出ていたのでずっと東の方に歩いて十日ほどの場所だと思います。」

「そんなに遠くからたった三人でこんなところまで来るなんてね。普通は村の外に出るときは十人以上の隊列を組んで行くものよ。それでも魔獣から逃げられるかどうか分からないのに。」


正しくはその距離はアレスとアテナの場合であって、ユーリはもっと長く一人旅をしている。


「まぁ何回か避けられそうにない戦闘はありましたけど、人数が少ないお陰で気づかれずにやり過ごすことの方が多かったです。」

「それは良かったわね。何もない家だけど、いる間はゆっくりして頂戴。」

「はい。お言葉に甘えさせて頂きます。」


今日の夕食は川魚の塩焼きだった。ここのところ肉続きだったので久々に食べる魚も結構良かった。案の定ユーリは豪快にかぶりついていた。


「「「ご馳走さまでした。」」」

「よしっ、アレスにユーリ風呂いくぞ風呂。」


食事のあと俺とユーリは村にある共同浴場に連れていかれた。そしてアテナはと言うと・・・


「あの、わたしも洗い物手伝います。」

「あら、お客さんがそんなことしなくても良いのに。先にお風呂へ行っていても良いのよ。」

「いえ、お風呂には片付けが終わってからミリアと一緒に行きます。」

「母さん、そう言うことだから、固いことは言わないの。」

「そう。ならお願いしようかしら。」


食器の片付けをてつだいにいった。


 これは湯船に浸かってから分かった話だけど、この浴場は源泉かけ流しの天然温泉らしい。


「いやぁ~いい湯だねぇ~。あんたもそう思うだろアレス?」

「あぁ、もと居た村にも風呂に入る習慣はあったけど毎回毎回湯を沸かしていたからな。温泉なんて人生で初めてだよ。」

「それなら連れてきた甲斐があったぜ。」


夜には輝く満天の星空、昼には季節によって移り変わる周囲の風景を堪能しながら、その日の疲れを癒すことが出来るなんてこの村は生活するには最適の環境だった。ユーリには少し熱かったのか近くの岩に腰掛け、膝下だけを湯の中にいれていた。


「そういや、あんたらはどこを目指して旅をしてるんだ?」

「さぁ?今はとりあえず人里の手がかりを探してそこへ向かう。当分はこの繰り返しになると思う。」

「僕たちの旅に終わりなんてないよ。もしも終わるとしたら年老いて歩けなくなるときかな。」

「じゃあ何でそんな、終わりのない旅に出ようと思ったんだよ。」


温泉に入って何を思ったのか、アレスとユーリにタンクは旅の理由を聞いてきた。


「俺は、魔獣に怯えなくても良い世界にしたい。」

「僕の場合は世界を知るためだよ。」

「そりゃその旅は当分終わりそうにないな。けどよ、そう思ってるのはお前たちだけじゃない。現に宣教師たちの話では魔獣に怯えなくても良い日が来るみたいだからな。」

「あぁ、だからこの村を出たら直ぐに宣教師の一団が去っていた方に進んでみようと思う。」

「へぇ~そうかい。」


そしてタンクはまた空を見上げるのであった。


「そろそろあがらない、僕はもう限界だよ。」

「そうだな。長風呂は体に悪いって言うからな。」

 

長屋に戻る途中三人は、アテナとミリアの二人が浴場に行くのとすれ違った。



 さっきアレスとすれ違って浴場に向かったアテナにとって旅で身を清めるには体を拭くしかなかったけど、体を拭こうにもいつ魔獣が襲ってくるか分からなかった上、アレス達がいる前で脱ぐわけにもいかったので、こうやってゆっくりと疲れと汚れをとることが出来るのはアテナにとって、かなり久しぶりなことである。


「ねぇアテナ、どうして女の身のあんたが男に混ざって旅に出ようなんて思ったの?」

「村の中で閉じ籠っているのは嫌だった、そんなときに私の村に幼なじみのアレスがやって来て私を外の世界に連れ出してくれたの。あの時にアレスが来なかったら私はここにいなかったと思う。」

「アテナには自分を見てくれる人がいるんだね。」

「何よそれ、どう言う意味よミリア。」

「何でもなわ。」


やはり女子の方でも風呂の中で他愛もない話が続いていく。そしてその時間もあっという間に過ぎていき、その浴場に残っているのはアテナとミリアの二人だけになってしまっていた。


「そろそろあがらないと、松明が消えてしまう。」

「もうそんな時間なんだ。」


そして二人は温まった体を冷やさないように急ぎ足で各自の寝所へと戻っていった。

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