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創世記  作者: 大賢者ユーリ
第一章
4/6

4:天災 暴れ牛

 三人の行く手に立ちはだかる黒い巨体、見た目は牛だがその巨体は家畜の三倍を優に超している。その巨大な牛はアレスやアテナの村にも頻繁に出没しているらしく、目を合わせなければ襲われることはまず無いが、一度目を見たら最後、視界からその姿がなくなるまで目を逸らしてはならないらしい。また、我が物顔で田畑を荒らし、その太く湾曲した角で柵をなぎ倒す様子から暴君と名付けられ忌み嫌われているらしい。


「アレス達はあれの対処法は何か知らないの?」

「ある香木の煙を嗅がせれば、勝手に離れてってくれるんだけど、生憎今は持ってなくて。」

「じゃあ、倒すしか生き残る道はないんだ。」

「そう言うことだな。」

「あの生ける天災を本気で倒せると思ってんの?命を無駄に散らさないためにも、もと来た道を戻りましょう。」

「無理だよ。あの細い急坂を足元見ずにくだる自信アテナにはあるの?」


アレスもユーリもできることならばアテナの言うように戦わずにもと来た道を戻るべきだと言うのは理解しているが、三人が暴君と鉢合わせた場所が悪すぎたのだ。


「現時点で僕たちに示された道は四つ。その壱、後退りして坂で足を踏み外して転落。その弐、足を踏み外さないようにするためにあの牛から目を逸らして突進を食らい死亡。その参、牛に挑むも敢えなく敗北。」

「そして最後があの暴君を倒して前に進む。だったら俺は生き残る可能性が高い方にかける。それにいつもの負けん気はどこに行ったんだよ。」

「そうね、こんなところで弱気になるなんて私らしくないわ。だけど私とユーリはあてにしないでよ。あいつに魔法は効かないんだから。」

「それは俺の剣だって同じだよ。唯一刃が通るのは腹の白い部分だけ、あとはどこも岩を叩くのと一緒だよ。」


魔導師の集落を襲う魔法耐性の高い魔獣だから、効果的な攻撃手段を持っていないアテナが天災と呼ぶのもうなずける。


「アテナ、僕たちの魔法じゃ致命傷を与えられないのかも知れない。だけど僕たちが致命傷を与えなくても良いんだよ。僕たちは僕たちにしか出来ないことをやろうよ。」

「私にしか出来ないこと・・・」

「今はただ、俺の援護だけしてくれれば良い。」


そうして三人はアレスを先頭にして、その牛の魔獣へと挑んでいった。


 巨体の割には素早く、その為に助走がついた突進を生身で受ける事は無理だと判断したアレスはずっと牛の魔獣に張り付いて攻撃をしているが、それでも元からのパワーの差は歴然であり、ゼロ距離からの頭突きでさえもまともに食らうことは許されなかった。


「そう簡単には後ろは取らせてはくれないか。後ろからしか白い部分は斬れないんだけど。かと言って、後ろを取っても強烈な後ろ蹴りを食らうだけか。」


アレスがそう呟いたからといって状況が変化するわけでもなく、ただアレスは魔獣の注意を自分の方に集中させ、アテナ達の方に向かないようにするのであった。その時アテナはと言うと私はアレスと違って魔法が使える、だけどそれは一切効かない。攻撃魔法のなかにも氷塊や岩石など形があるものも存在するけど、それも今ユーリがやってるけど全く効いていない。それに早くしないとアレスの体力が持たない。『私にしか出来ないこと』って何なの?と自問自答を繰り返すのであった。戦闘が長引くにつれて足場は次第に悪くなっていき、少し横にそれると木の根が顔を出しているので、ずれることもできなかった。そしてついに踏ん張りが効かなくなったアレスはその場に盛大に倒れてしまった。受け身をとってなんとか怪我なく立ち上がることができたが、牛の魔獣との距離が開いてしまったのだ。


「ねぇアレス!足は大丈夫?」

「あぁ、何とかまだ動ける。」

「私にちょっと考えがあるの、聞いてくれる。」

「あいつを倒せるならな。」

「まず、アレスは奴の突進と同時にこっちに向かって全力疾走をして、そしたら合図をするから近くの木によじ登って上を見る。タイミングが合えば必ず倒せるから。」


するとアレスが返事をする間も与えずに牛の魔獣は走り出した。それと同時にアレスも走り出し、アテナの『今!』の合図で木に登って空を見上げると、強烈に眩しい閃光が背後で弾けたと思ったら、その直後あれ苦戦していた牛の魔獣が転倒していたのだった。


「止めよアレス!」


その声を聞いたアレスは木の上からと言うと高さを生かした一撃をその白い腹に突き刺した。


「終わりだ~!」


このままでもこの魔獣が立ち上がることは無いのだが、暴れてもらっては危険なので念のために頸動脈を断ち切った。


 勝利の感動が押し寄せるなか、アレスに自分の策を褒められたアテナは堂々としかし自慢はせずにその経緯を二人に伝えた。


「ただね。あの時アレスが倒れたのを見て、魔獣をこけさせたら、動けなくなるかなって思っただけ。そのために魔法で閃光を放ったの。まぁ、それ転ぶか心配だったからユーリに落とし穴を作ってもらったの。だから、私一人じゃなくて、皆の力があったからだよ。」

「だけど、その策を思い付いたのはアテナなんだから、自慢してもいいんだよ。・・・ところで、アレスはナイフなんか取り出してどうしたの?」


アレスは剣とその取り出したナイフで、その牛の魔獣の死体を解体し出したのである。


「魔獣と言えど自分が殺した生き物はしっかり弔ってあげないと。そしてその血肉は食べて自らの糧とするのが俺の村の礼儀だ。」

「へぇ、アレスの村にはそんな風習があるんだ。」

「でもアレス、魔獣の肉なんて安全なの?」

「二人ともその心配は必要ない。こいつの肉は家畜とは比べ物にならない位旨いから。今日の夕食を楽しみにしてな。」

「それは楽しみだけど、僕たち三人でこの量は持ち運べないよ。」

「だから骨と肉にわけて、今日食べる部分の肉と丈夫な頭骨と足の骨だけを持っていく。仕方ないけど残りはここに埋めていくしかないない。」


そこにはちょっと悲しそうな顔をしながら牛の魔獣を解体するアレスの姿があった。


「アテナ、残りを燃やしてくれないか?俺は魔法を使えないから。」

「うん。わかったわ。」


牛の魔獣の死体がすべて灰になるまで、一体どれ程の時が流れていたのだろうか。すべてが灰になった頃太陽は西の空に沈みかけていた。


 森の中でも比較的開けた場所を見つけた三人は、今日の夜営地をそこに決めて、手早く夕食に取りかかっていた。


「何なのこれ、味付けも何もなしなんてこの肉旨すぎよ!」

「どれ僕も一口。肉厚なのに柔らかくて、火もしっかり通っているのにそれでいてとてもジューシー、こんな肉僕も初めて食べたよ。」

「そうでしょ。煮込むの美味しいけど、やっぱり俺は炙りが一番好きだよ。」


そして、久々にありつけた豪華な肉料理に思い思いの感想を述べる三人の姿がそこにあった。


「今さらだけど魔導師が仲間にいるって本当に助かるよな。だって、釜戸も造れて、着火も出来る。それってどれだけ便利なんだよ。」

「そうかしら?私の村は、魔導師ばっかりだから、何とも思わないんだけど。それよりも私にはユーリの召喚魔法の方が便利だと思うけど。だって夜目が利くからって猫まで出すんだよ。」

「それに魔獣の存在には敏感だから、召喚魔法を身に付けてからは、召喚獣のお陰で夜も安心して眠れるようになったんだ。」

「良いなぁ~、私も召喚してみたいなぁ~。」

「その前に自分の魔力(マナ)を感じるようにならないと、それに今日は遅いからまた今度。」

「もう、約束だからねユーリ。」

「お二人さん、盛り上がってるとこ悪いけど、どうやらお客さんみたいだぜ。」

「脅かさないでよアレス、僕の召喚獣は何も警戒してないよ。」

「相手がすべて魔獣とは限らないんじゃないか、こんな森の中なら、熊や猪が出てもおかしくはないと思うけど。それにこの音がその証拠だよ。」


段々と大きくはっきりと聞こえてくるその音は時には枝が折れる音も聞こえ、何かがこちらに向かって歩いて来ている音だと言うことは疑いようもなかった。それが熊なのか猪なのかはたまた別の物なのか不気味な音に恐怖を駆り立てられる三人であった。

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