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創世記  作者: 大賢者ユーリ
第一章
2/6

2:再会

 日が暮れる前に何とか山を降り、平地で夜営をして無事に朝を迎えることができたアレスは、父達が魔獣に襲われるまでは交流が続いていた魔導師の集落を目指しかつての轍をたどっていた。その轍のみがその集落への手がかりであり、唯一道と呼べる存在であった。いくら一人で熊を狩れるアレスと言えど何年かかるか検討も付かない旅路を一人無言で行くのも寂しいため、当面の目標は旅仲間を増やすことである。そのためにも今、自信を持って人が住んでいると確信の持てるその集落に向けて歩を進めている。


「それにしても何にもないなぁ。以前は馬車で半日の距離だったから、徒歩でも何とか日が暮れる前に着くことは出来るだろう。」


そこは見渡す限りの大草原、人の手が入っていないのに、草食動物のお陰か高さが均一に揃っている。小川の水も澄んでおり飲み水には申し分ない。魔獣さえどうにか出来れば人が生活するには最適の世界が広がっていた。


 景色の変わらない平坦な草原の道もようやく終わりをむかえ、集落の入り口まで林道を登っていると、後ろから馬車の音が聞こえてきた。その馬車がアレスの目の前で止まると、御者台にいた男が声をかけてきた。


「おい。こんなところで何してる?」

「旅です。」

「どこから?」

「隣の村からです。」


アレスが御者にそう答えるやいなや、車中から同じ年ほどの少女と初老の男性が降りてきた。


「あなたの名は?」

「アレスですけど。」

「私のことを覚えていますか?」

「アテナ?」

「そうですアテナです。覚えていてくれましたかアレス。お久しぶりです。」

「はい。また会えて嬉しいです。」


彼女はアテナ。彼女もまた集落を継ぐべく、父親によって育てられ、そんなに嫌気が差したのである。


「じい。これで私も旅に出てもよろしいですね。」

「なりません。」

「無論お父様には話を通します。」

「それなら私に止めることもできません。」


そしてアレスは、じいに促され馬車に相席することとなった。そこでアレスはアテナからの質問攻めを食らったが、答えきる前に馬車は集落に到着していた。


「お話の続きはまたあとでと言うことで、まずは一緒に父の所に来てください。」

「いいよ。それが筋ってものでしょう。」


見たところアレスの集落と建築技術などに差は無いが、魔法が発達している分、暮らし向きは安定しているようだ。


「お父様。お話があります。」

「今は忙しいから後にしなさい。」


アレスとアテナこの村の村長でもありアテナの父親でもある人の部屋の前まで来ていた。


「わかりました。娘としての用件は後にしますが、この村の一人として村長に客人を連れてきました。」

「お通しなさい。」


そう言われアテナは茶を淹れに行き、アレスが一人で部屋に入った。隣村の少年がたった一人でやって来た事に村長は一瞬面食らったが、何事もなかったかのようにアレスを迎え入れた。


「久しぶりだねアレス君、お父さんが亡くなったとは聞いていたが、元気そうで何よりだよ。」

「おかげさまで何とかやっていけてます。アテナも昔と全然変わらないですね。」

「本当、あの娘の世話は手に終えんよ。」


するとそこへ、茶を淹れに行っていたアテナが戻ってきた。


「手に終えないのなら、いっそのこと村から追い出してくれれば良いのに。その方が私としてはありがたいのですけど。」

「またそんなことを言っているのか。」

「二人とも仲が良いんですね。」

「「どこが!」」

「ほら、全く同じタイミング。」


二人ともよっぽど恥ずかしかったのか、顔が真っ赤に染まっていた。


「そんなとより、君は何しにここへ来た?」

「俺は外の世界を知るために、絶対に生きて帰ることを条件に村から旅に出ました。するとそこには広大な草原と澄んだ空気に綺麗な川、人が生活するには最適の世界が広がっていました。そしてもしこの村に志を同じくする者がいるのなら共に行こうと思いここまで歩いて来ました。まぁ途中で馬車に拾われましたけど。」

「そして、そこでアテナに会ったと言うわけか。」

「はい。」


すると外から盛大な足音を立ててやんちゃそうな男の子がアレスのことはお構い無しに入ってきたのです。


「父さん、お姉ちゃんが戻ってきたって本当!」

「こら、エル部屋に入るときは声をかけなさいと何回言えばわかるんだ。」

「ごめんなさい。でもお姉ちゃんが!」

「息子さんですか?」

「あぁ、息子のエルだ、ご挨拶しなさい。」

「はじめまして、エルです。」

「こちらこそ、はじめまして。」

「エル、こっちに来なさい。」

「うん。」


どうやらよほど姉に会いたかったのだろう?目には涙が溢れていた。


「みっともない所を見せてしまってすまないな。」

「素直で元気ないい子じゃないですか。」

「そう言ってくれるとありがたい。それで本題に戻るが君は同志を募るためにここに来たのだな。」

「はい。そして、アテナに会いました。」

「それで、アテナを連れていくと。」

「アテナと俺の意志は同じと言うことです。」

「ならんぞ、私は絶対に認めん!」


と言っても食い下がらないのが自分の娘であるのも知ってはいるが、それでも父として認めることが出来ない村長であった。


「なぜですか、お父様。私はもう一人ではありません!お父様もアレスのことはご存じのはずです。」

「私が一人では行かせないと言ったのは確かだ。そして私もアレス君なら任せられるとも思っている。それでも私のあとこの村は誰が守るのだ!」

「それはっ!」


自分には弟がいる、村長なら男の方が適任だと思う自分もいる。だけど、ここで可愛い弟に押し付けるのはしのびない自分もいる。そんな姉の葛藤なんてお構い無しにエルは覚悟を決めていた。


「父さん、村長には僕がなる。」

「本気で言ってるのか、エル?」

「うん。だって父さんとお姉ちゃんが喧嘩別れなんて僕は嫌だよ。僕だって父さんの子供なんだから、頑張ってつらい修行もこなして、お姉ちゃんが安心して旅に出れるようにしたい。だからお姉ちゃんのお願い聞いてあげてよ。」

「百歩譲って村長にはエルがなるとして、魔獣だらけの危険な下界に村の一員を送り出す村長がいると思うのか?」


そして、いてもたってもいられなくなったアレスが口を挟むのであった。


「それはそうなのかもしれません。だったら何故この村と俺のいた村は交流があったのでしょうか。それは先人達がもしかすると自分達しか人間がいない恐怖の中、少ない可能性にかけて前に進んだからに違いありません。」

「そうやって挑み続けることで魔獣の問題を解決する手段が見つかるかも知れないじゃないですか。私とアレスはその可能性にかけたいのです。」

「可能性ね・・・。」


それは娘の説得の諦めを意味していた。


「もう手遅れみたいだ。今日は宴じゃ、皆で娘の門出を盛大に祝ってやる!」


笑い飛ばしながら言ったものの、父の目には抑えきれない涙が込み上げてきた。


 それはもう村をあげての盛大な宴だった。料理も酒も大量に振る舞われ、歌や舞でアテナの無事を神に願っていた。翌朝に出発するアレスとアテナの二人は早々に寝てしまっていたが宴自体は朝まで続いていた。翌朝二人が目を覚ましても、宴でやけ酒を浴びるように呑んだせいか村長はまだ起きていなかった。そしてアテナは母と弟に見送られ、アレスと共に旅立って行った。

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