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創世記  作者: 大賢者ユーリ
第一章
1/6

1:出立

 僕はここに彼らとの冒険を記そう。幾星霜の時を経ても彼らの伝説を後世に残すために。そして聖なる封印が破られ、再び世界が魔に堕ちる時、彼らの子孫が手を取り合い魔を振り払らい、聖なる光とならんことを切に願う。      大賢者ユーリ

 かつて世界に国などは存在せず、沢山の小規模な集落が魔獣に怯えて生活していた。そんな中ある集落の次期村長になるべく育てられた一人の少年がこのつまらない日常を変えるために旅に出ると言い出した。


「わしに何回同じことを言わせ気じゃ、次期村長のお前にそんなことさせるわけがなかろう!もう時間の無駄だから帰って寝なさい。」

「この頑固じじぃ、何で孫がここまで頼み込んでのに聞いてくれないの!たかがこの村の村長なんてレイ叔父さんがやれば良いじゃんか!爺ちゃんが何て言おうと俺は絶対に旅に出るから。」


そう言って少年は戸を乱暴に開け放ち、家に帰っていった。


「アレスのやつ、いったいあの頑固は誰に似たのだか。」

「あら、誰の孫だとお思いで?私には若い頃のお前さんとそっくりに見えましたけど。まぁ今でもその頑固は健在みたいですけどね。」

「言われんでも、わかっとるわ。」

「私はあの子が初めて自分の口から言い出した事なんだから尊重してあげても良いかと。お前さんも本心ではそう思っているんでしょう?」

「・・・・」


その暗く静まり返った部屋の中に老夫婦が二人窓から満天の星空を眺めていた。


 アレスが家に帰ると彼の母が寝床の準備を済ませていた。


「おかえりアレス。」

「ただいま母さん。やっぱり、爺ちゃんは俺の事嫌いなのかな?」

「何馬鹿なこと言ってるの?大好きに決まってるじゃない。」

「だったら何で!」

「大好きだからよ。大好きな孫を危険な目に遭わせたくないのよ。あのお父さんだってその時の傷で死んじゃったんだから。」


そう彼の父親は商売に行っていた他の集落からの帰りに魔獣の群れに襲われ、部下を守るために自らがしんがりになってやっとの事で魔獣を倒して命からがら集落に戻ることはできたのだが、そのときに受けた傷が元に亡くなっていた。


「だからって何もしないでただ過ぎていく日を怯えなから暮らすのはもう御免だよ。」

「そうね。隠れて過ごしていれば安全かも知れないけど、新しいことは見つからないのよね。母さんからもお爺ちゃんに伝えておくから今日はもう寝なさい。」


そうして、一人夢の中へ旅立つアレスであった。


 明くる日、いつもと同じように起きるとそこには普段は別々に暮らしている彼の祖父の姿があった。彼の祖父つまり、この村の村長である。


「おはようアレス。まぁそこに座りなさい。」

「おはようじいちゃん。」


アレスが囲炉裏を挟んで祖父の向かい合わせに座ろうとしたとき、土間の方から母と祖母が朝食を運んできた。どうやらこの日の朝食は四人で食べるみたいだ。


「いただきます。一番は母さんのだけど、久々に食べる婆ちゃんの料理もやっぱ旨いや。」

「ありがとねぇ。」


そうして彼らは朝の一家団欒の楽しい時間を過ごしていた。何故ならそうでもしないと頑固な二人が自分の気持ちに素直になれないからである。そしてまだ何も切り出せていない祖父に痺れを切らした祖母がそこにいた。


「お前さん、ここまでお膳立てしたのにいつになったら言い出す気ですか?お前さんが言わないのなら私が言ってもいいのですよ。」

「いや、これはわしが直接言わないかん。」

「だったら早くしなさいな。」

「・・アレスよ。わしはお前を村長にすることを諦める。」


アレスがその言葉を理解するまではそれほど時間はかからなかった。


「本当に?俺が旅に出ることを許してくれるの。」

「えぇ本当よ。お爺ちゃん自分に素直になれてないだけだから。それに猛獣の子落としってよく言うでしょ。」

「ありがとう。爺ちゃん、婆ちゃん。」

「但し、生きて必ず戻って報告に来ること。私達より先に死んだら許さないんですよ。」

「うん。絶対に生きて帰ってくる。約束するよ母さん。」

「アレス、小屋のあれはお前が持っていけ。」


こうしてアレスは晴れて旅に出ることを許されたのであった。そうと決まれば後は時間との勝負。旅装束に着替えて予備の下着をカバンに詰め込み、小屋であれを取ってくるだけであった。アレスが小屋にあれを取りに行くと、中には村長が待っていた。


「アレス、この剣が父の形見なのは知っておろう。この剣があればあの馬鹿が助けてくれるだろう。」

「ありがとう、じいちゃん。」

「わかったならさっさと行け。時間の無駄だ。」

「はい。行って参ります。母さんを頼みます。」


そうしてアレスは父の形見の剣と共に新たな地を目指して歩き出したのであった。


 とはいえまずは山を降りなければどうすることもできない。日が沈む前に何とか平地に出ないと夜の山は月の光が木々に遮られ、視界が奪われると魔獣や夜行性の猛獣に襲われる危険性が高くなる。そのために夜も明けて間もない時間に別れを惜しむ間もなくアレスは村を出たのである。それに平地に出ればかつて荷馬車が通った道が見つかるかも知れない。

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