8.昔話をさせんのかよ
慌てて出てきたので着替えが無い。宿屋に置きっぱなし。
あいちゃんが毛布にくるまって寝てる間に着てた服や装備を全部洗い、紐張って干して魔法でそよそよ乾かしておいた。
教会で調べたところでは、魔王の出現と共に魔族の侵攻があるはず。
人々に被害が出て、それから魔王を倒すからこそ、世界樹様に信仰が集まる。
それなら、勇者召喚は魔王出現の後のはず。
今あいちゃんが召喚されたということは、もう魔王は出現している……?
なぜまだ襲ってこない?
勇者がレベルアップするのを待ってくれているわけじゃあるまいに……。
待ってるとしたら?
魔王が勇者に倒されるのを待っている?
脚本?
魔王が書いた?
それとも世界樹が書いた?
どんな脚本を書いてやがる……?
脚本の先を読め。
被害が出る前に、手遅れになる前に。
先手を打て。
もうあんなバッドエンドは御免だ。
……。
魔王を倒すだけじゃ、この物語、終わらないかもしれないな。
いろいろ考えてたら、夜が明けた。
朝飯作ってると、「きゃあああああああ――――っ!」と悲鳴が響き渡る。
「ななな、なんで私まっぱで寝てんの!!」
「寝袋イヤだっていうから毛布かぶって寝てたじゃないですか。寝相が悪いですよ」
「私の服はー!!」
「洗濯しといてって言ったの勇者様ですよ?」
「おじさん……私になんかした……?」
「なにかできるとお思いで?」
……ガイコツですから。
「……ガン見したとか……」
「めっそうもございません。パンダなら上野動物園のほうがずっといいです」
「やっぱり見てるし――っ!!」
あわてて体に毛布を巻いて干してある服を取りに行こうとして、ドーム状に張った【ウォール】に頭ぶつけて悶絶しておりますな。
消し忘れておりました。申し訳ありません。
さ、シシ肉のローストサンドでも食べて機嫌を直してください。
「おじさんいつまでガイコツでいるの。いいかげん服着てよ怖いし」
「昨日骨の一本一本まで洗ってくれたじゃないですか。いまさらです」
「明るいところで見ると怖さ2倍」
「……普通は暗いところで見るほうが怖いと思います」
「昨日は特別です! もうやってあげませんっ!」
「この後食器と調理器具を洗います。服を着てると濡らしてしまいますのでそれまではこのカッコのほうがいいと思いまして」
「……なんで敬語なの?」
「相手が怒っていますので」
「違うね、おじさんがその口調で話すときは頭の中で余計なこと考えてる時だね。昔からそうだもん」
ルナテス様とおんなじことを言う……。
鋭いですな。
「今後のことを考えてた」
「レベルガンガン上げて魔王を倒す」
「それだけで終わるか?」
「どゆこと?」
「この話をファンタジー的にハッピーエンドで終わらせるには?」
「私が魔王倒して世界樹にご苦労様って言われて日本に帰してもらう」
「魔王ってどうやって倒すか聞いてる?」
「この聖剣を魔王に突き刺す!」
「それで死ぬの? そんなんで魔王死ぬの?」
「うん」
あっさり。簡単すぎないか魔王。
「……でもその後も魔王出現し続けるよね」
「そだね」
「それじゃあダメじゃないかな」
「……私に言われても困るよ」
「だよねー」
「でもおじさんはその後もこの世界に残るから、それじゃあイヤか」
いやガイコツの姿で残ってもね……。
「魔王が出現するたびに勇者が倒す。それだとあいちゃんは今までの他のたくさんいた勇者と同じだ。もう魔王が二度と現れない方法がわかれば、魔王出現を終わらせた最後の勇者になれるかも」
「なにそれかっこいい」
「そうそう、『ジェクト』じゃなくて『ティーダ』になれ、みたいな?」
「なにそれわかんない」
……古すぎたか。あいちゃんが生まれる前のゲームだもんな。
「おじさんさあ、今まで暇なくて全然話聞けなかったけど……」
「うん」
「今まで異世界でなにやってたの? 聞かせてよ!」
「ああ、そうだな……最初は、タンクローリーとぶつかって死んで、気が付いたら女神様の前にいた」
「女神様ってホントにいるんだ! きれいだった?」
「うーん金髪の外人さんであいちゃんと同じぐらいの齢だった。ほんとうは数百歳なんだろうけど」
「いーなーいーなー。私もどうせなら女神様に召喚されたかった」
「その世界は魔族と、人間がいて、人間側の教会が勇者を召喚して魔族を滅ぼそうとしてた。俺はその女神様に、その戦争を止めてくれって頼まれたんだ」
「へー……話いきなりすごい大きいね。そんなのおじさんにどうにかできるの?」
確かにな。俺だってどうすりゃいいのかわからんかったよ。
「俺は魔族の魔王様に会ってみることにした。話したら、すごいいい人で、気に入られてさあ、魔王様と二人で人間側の事情調べてみようって話になって、人間の国に忍び込んで、魔族領に攻め込もうとしてた勇者と教会にいろいろ妨害工作してやったんだよね」
「あははははは! それじゃおじさん人類の敵じゃん!」
「で、勇者が信用されなくなっちゃったところで王様が武闘会開くっていうから、それに出場して、出てた勇者コテンパンにやっつけて、魔王様と俺で優勝と準優勝になったんだ」
「勇者より強いとかすごい――! その勇者ってもしかして日本人?」
「はははは! その通り! なんかパーティー全員巨乳美少女でハーレム作ってたね、生意気でズルくてイヤな奴だったね!」
「オタク――っ。キモイ――っ! もう男子ってそうだよねー」
……三郎、お前ここでも嫌われてるぞ。
「その人日本に帰れたのかな?」
「いや、勇者やめさせられてハーレム解散しちゃったからさ、またハーレム作ろうとしてあの世界で今でも頑張ってる」
「なにそれサイテー」
……三郎、お前の評価はもう取り返しのつかないところまで来ているぞ。
「で、優勝した魔王様に、王様が『ご褒美はなにがいい?』って言ったんで、魔王様と一緒に『我が家に遊びに来てください。ご馳走します』って言ったんだ」
「えー。そんなんでいいの? せっかくのご褒美なのに……」
「で、『その願い聞き入れよう』って言った王様をその場で誘拐して魔王城までつれてった」
「うわあ……それ卑怯……」
「でも、それで魔族領いろいろ見て回ってもらって、ご馳走攻めにして、魔族も人間もおんなじだってわかってもらって、魔王様と王様に仲良くなってもらってな、それでトップ会談で戦争やめよう、友好を結ぼうって約束して、帰ってもらった。その後は五年いたけど、本当に平和になったよ」
「へえー……その作戦、おじさんが考えたの?」
「うん。まあ魔王様がいい人だったから、できた作戦だね」
「そっか……。ここの魔王は人類に攻撃しようとしてるから……難しいね」
「で、俺五年でガンで死んじゃってさ、次に呼ばれた世界は戦争も争い事もなんにもなくて平和でいい世界だったんだ。でも、獣人がみんな奴隷にされてた」
「獣人いたんだ! どんなんだった!?」
「ネコミミとか犬耳とかもうほんっとうにファンタジーな世界」
「うわ――いいな――! 私もどうせならそんな世界に行きたかった! ね、ネコミミ少女とかいた!?」
「いたいた。でも一番かわいかったのはウサギだったね」
「いいな――……。でもみんな奴隷かあ……それじゃかわいそうだね」
「うん、それでね、その世界は教会がすごく権力強くて腐ってて、権力振るってやりたいほうだいしてるような世界でさ、こりゃ教会が悪いなって思って」
「で、おじさんはどうしたの?」
「その世界でただ一人、生き残って眠ってた魔族の魔王を復活させてさ、友達になって、で、魔王と一緒に腐った教会を全部叩き潰した」
「ひど――っ! おじさんどんだけ人類の敵になったら気が済むの!!」
「わはははは! まあそうだな! でも死傷者は出ないように細心の注意を払ったよ。その時魔王にゴーレム動かしてもらって、それで教会潰したんだけど、その暴れるゴーレムを街の奴隷の獣人全員でやっつけさせてさ」
「自演じゃんーっ! それって自演だよね!」
「わはは!! まあその通り!」
「で、どうなったの? 後で炎上したりしなかった?」
「奴隷の獣人がみんな街を守った英雄になったね。奴隷や差別をすぐに無くすのは難しかったけど、獣人は前よりずっと自由になったよ。腐った教会は叩き潰されて、新しい民主的な政府も出来て、あとはあのままうまく行けばいい世界になったんじゃないかな」
「ふーん……すごいねおじさん。世界を変えるほどの大仕事してるんだね」
「まあ、両方、魔王様がいいやつで、全面協力してくれたからだけだけどね。その魔王様にもらったのがこのナイフ」
そういってハンティングナイフを出す。
「そのナイフすごいよね……。どんな敵でも一撃だもんね」
「そうそう。あの世界での俺の親友だった……。魔王ルシフィスって奴でね、だからこれは『魔剣ルシフィス』」
「魔王様と友達かー……すごいなあおじさんは」
「信じるのこの話? 自分で言っててウソ臭いなーって思うんだけど」
「信じるよ。今だったら信じられるもん。おじさんマジ強いし」
ああよかった。絶対嘘だと思われるだろうと思ってたよ。
「だってそのお話だとおじさん全然カッコよくないんだもん。主人公のやることじゃないよね。作り話だったらもっとカッコいい話にするはずだもん」
……鋭すぎますあいちゃん。
さぞかしクラスの男子に煙たがられてることと思いますぞ。
「で、その世界でも二年しか生きられなくて、また死んじゃったんだけど、その後も女神様に召喚されてさ」
「またまた女神様ですかーっ。どんだけ女神様に好かれてるの! っていうかなんでおじさん女神様にそんなにモテてるの? ちょっと信じられないんだけど!」
うーん……これは、説明すると、俺がネットに上げてたあのテンプレで恥ずかしいファンタジー小説が、女神の間で大人気だったせいなんだけど……。それ言うと、あいちゃん絶対『読みたいからペンネーム教えて!』ってなっちゃうよね。
そしたら日本で、俺のさらなる黒歴史の掘り起こしが行われるよね。それは避けたいよね……。
「ま、最初に世界をうまく平和にしてやったから、その手腕を認められてかな?」
「あのさ……」
「うん?」
「おじさん、ひょっとして、女神様に殺されてない?」
「考えないようにしてることなので言わないでください」
「だよね――……」
怖いことを言うなあ……。まあ俺もそれは、真っ先に考えたわ。
「その三番目の女神様きれいだった?」
「ん――、見た目おばさんだった。でも綺麗だったよ」
「いいなー……。私もどうせなら女神様に召喚してほしかった」
「お勧めしませんよ。女神様に召喚されるのは死んだ人だけだからね」
「それはヤだな。で、なに頼まれたの?」
「この世界と似てる。定期的に魔王が復活しては人類を攻めてくるような世界だった。魔王が復活するたびに勇者を召喚して、魔王を倒して、なんとか平和を保っていたんだ」
「じゃ、おじさん今度は勇者になったの!?」
「違う。女神様はもうそんなことはやめたい。こんなことはもう終わらせたいって言ってた……。自分が勇者になって、魔王の封印をするから、パーティーメンバーになって自分を助けてくれって」
「女神様が自分で!? 凄い女神様だね……。反則じゃないの?」
「なー、びっくりだよな」
「ガチムチ武闘派の女神様だったんだね」
そんなことないですよ。最初見た時は放射能除去装置でもくれるのかというぐらい儚げな人でした。ベッドの上では武闘派でしたけど。
「いや全然。普通のオバサマだった。なんでこんな人が、そりゃ無理だろーって思うような」
「……あ、そういえばそんなこと言ってたねおじさん。『おばさんをレベル100以上に上げたことある』って。女神様のことだったんだね」
「そうそう。で、レベル上げ手伝って、魔王を予定より早くムリヤリ復活させて叩きのめして、で、女神様に封印してもらったの」
「はー……、おじさん実際に魔王と闘ったんだ! 魔王強かった?」
「二、三発ぶん殴ってこのナイフで刺したら滅んだね」
「……おじさん強すぎ。魔王ってどうやって封印したの?」
「……」
「……おじさん?」
「……世界樹の種を植えて、魔王城に生やしたんだ」
「世界樹……。おっきい木?」
「うん、たちまち大木になって驚いた」
「で、女神様は帰っちゃったと。がっかりだねーおじさん!」
「……帰らなかった。女神様は自分が世界樹になって、ここで封印の力になるって言って消えちゃったよ……」
「……」
「……俺はそこで、世界樹の木を守ろうとして、その世界樹に命を吸われて死んでしまった。ガイコツになっちゃったのは、それが理由」
「……」
「ほら、このナイフ、青白く光ってるでしょ?」
「うん」
「これ、女神様がくれた聖なる魔法。どんなアンデッドも悪魔も、一撃で浄化できるんだよ。凄いでしょ。今でもまだ消えないんだよ。俺にしてみれば、女神様の形見……みたいなもの」
「……」
「優しくて、あの世界の全てを愛していて、守ろうとしていて……。可憐で、美しくて、けなげで、可愛くて……。みんなに春の暖かさを届ける、タンポポのような人だった……」
「……おじさん?」
「ん?」
「……おじさん、その女神様の事、好きだったでしょ」
「……うん。愛してた。たった一か月一緒にいただけだったけど」
「そっか……」
「……」
「元気出しておじさん! かっこいいよおじさん! その女神様だってきっとおじさんの事好きだったと思うよ! だからがっかりしないで!」
「そうだな」
うん、しんみりしちゃった……。
「しかしおじさん。モテないなあ……。三十五歳まで独身で、最初の異世界も次の異世界も友達は魔王様しかいないし、やっとヒロイン来たーと思ったら用が済んだらはいさよならーだもんね。かわいそうになってきちゃった」
「やかましいわ」
モテてましたから――っ! やってましたから――――っ! 暴れん坊な魔王様とも、すんごい気持ちいいウサギちゃんとも、ホントはエロい女神様とも、毎晩最低三発はやってましたから――――っ!!
……とか、女子高生相手に言えないよね。信じてもらえそうも無いしね。
「はいはい、今回は私がいるからねー。私の裸さんざんガン見できてよかったねー。それで我慢してねーっ!!」
やっぱり女子高生嫌い……。