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7.実戦経験も積まなきゃダメなんだよ


 朝、礼拝の鐘の音と共に目覚め、神父さんに礼を言う。

「教義を学ぼうというその志、信徒として歓迎いたします。いつでもまた来てください」

 ホントにこの世界の人は礼儀正しい。


 宿屋に戻るとちょっと騒がしいな。あいちゃんが男どもに取り囲まれている。

「あっ戻ってきた!」

「おはようございます。愛様付執事のサトウと申します」

 そう言って先に挨拶しお辞儀をする。

 こちらから先に礼儀正しくするだけでトラブルの類はおおかた回避できますね。

 ……どうしてこんな簡単なことが童貞主人公はできないんでしょうねぇ……。


「……この人が勇者様の?」

「はい。パーティーメンバーです」


 なんかぞろぞろ人来てるぞ。

「おじさん、魔物が出たんだって!」

「どこにですか?」

「アリソン村です! 首都から北、馬で二日の……今朝連絡が来ました。ワームです!」

 兵士らしい人があせっておりますな。



「では急いでまいりましょう、勇者様」

「いくのー!?」

 なぜ驚く。勇者の仕事ですよ?

「当然です」

「でっでは馬車を用意いたします!」

「必要ありません。朝食は済ませましたか?」

「まだなんだけど……」

「一刻を争います。このパンをくわえてください」

「えええええっ――」

「剣をどうぞ」

「うーうーうー……」

「ではまいりますよ」


 俺はマントをひるがえし、宿屋を出る。

「お手をどうぞ」

「はふ」もぐもぐもぐ……。

 ふわあ――――……。【フライト】で飛び上がる。


 時速300キロ。馬で二日ならおそらく200キロ以内。一時間かからずたどり着く。

「おじさんなに調べてたの――!!」

「歴史と聖書です」

「なんかわかった――?!」

「この世界のクソさ加減が」

「だよね――――っ!!」

 あいちゃんが俺にしがみついて叫ぶ。

「ワームってなーに!」

「ミミズです。巨大ミミズ」

「ぎゃ――っ!!」


 球状に展開した【ウォール】を開放。

 【フライト】を切って、自由落下。

「いやあああああああ――――落ちるぅううううううう――――!!」

 眼下にアリソン村。周囲の畑で巨大ミミズ……って。


 ……まあこの程度だよね。この程度で勇者様お願いかよ……。


 【フライト】を展開して着地。

 豆畑で巨大ミミズが出たり入ったり……。太さ30cm長さ5m。

「畑を荒らすいけないミミズです。さっさと退治しましょう」

「ぎゃあああああああ――っ!」

「……もう少しかわいい悲鳴は上げられませんかね……」

「だってキモイぃいいいいぃ――しい――――っ!」

「近くに現れたら剣で斬りつけて両断してください。遠くに出たやつはファイアボールで。モグラ叩きの要領でお願いします。向こうから攻撃はしてきません。頑張ってください」

「……はい。あの……おじさんは?」

「ピンチになったら助けます」

「ひどいーっ」


 あいちゃん、畑の中を走り回って退治をしておりますな。

「ぎゃ――――っ!!」

「きゃ――っ!!」

 うるさいです。


 剣が決まり出してきましたな。

 2~3匹、倒しました。

「魔法がお留守になってますよ! 遠くの敵も倒しましょう!」

 ひゅーん! 外れ!

 ひゅーん! 外れ!


「当たんない――!!」

「ソフトボールのピッチャーでしょう! がんばれ――!」

「違うし――! 全然違うし――――っ!!」


 下手投げじゃあねぇ……。


 だんだんマシになってきましたな。

 50匹ぐらいは退治できたんじゃないですかね?


「でなくなった」

「あと2時間監視します」

「はいはい……。どろどろー……」

「水をかけます」

「そこはお湯にして」

「かしこまりました……」


 あいちゃんの上に直径2mの【ウォーターボール】を作って、小さい【プラズマボール】をぶち込んでしばらく温めてからちょろちょろと水をかけます。


 ばしゃばしゃばしゃ。体を洗っておりますな。脱いではいないですよ。防具の上からです。

「ひゃーきもちいい――っ」

「乾かしますよ」

 【ダウンバースト】で下向きの風を吹きかけてドライヤー。

「サービス満点だねおじさん」

「タオルをどうぞ。お嬢様」

「ありがと。ホントに執事みたい」

「執事ですよ?」


 あいちゃんが髪をもしゃもしゃと拭いておりますと村人が集まってきました。

「勇者様!」

「勇者様ありがとうございます!」

「ありがとうございましたー!」

「さすがは勇者様です!」


「……あのさあ……」

「勇者様」

「……言ったらダメ?」

「ダメです」

 ……この程度自分で何とかできないの?

 そう、言いたいんですな?

 まあ、それ言ったら、勇者様としてはダメ勇者でしょうな。


 二人で畑を監視しながら、あいちゃんに村人にもらったお昼を食べてもらう。

 野菜サンド……。まあゆで卵が入っているだけいいか。

 ほんとに肉もないんだな。


「畑めちゃめちゃ――」

「ワームが出る畑はですね、養分が足りないんです」

「そうなの?」

「ワームが出た畑は、翌年は豊作になるという言い伝えがあります。最初の世界ではそうでした。今年の収穫はダメでも、来年はきっとたくさん作物が実ります」

「じゃ、気にしないでいいか」

「はい、大丈夫ですよ」

「それにしても、この程度の敵も自分で退治するのも嫌なんだねこの国の人たちは」

「……そうですな。そこが欠点ですな」

「争いも無く平和でいい人しか住んでない世界かー……」

「剣を貸してください」


 手渡された聖剣を抜いて、拭く。

 濡れた鞘も、日干しにする。

「剣の手入れはかかさずに」

「はい」

「平和だからと言って、剣の手入れをしなくなってしまった……それがこの世界です」

「そうだね」

「剣を持っていても、戦争も争いも回避できます。それが本当の平和です。武器を取り上げられて、戦争ができなくなってしまったのは平和とは違います」

「なんか難しー」

「レベルはいくつになりました?」

「えーと」

 ステータスを広げる。

「21」

「まだまだですね」

「まだかー……」

「そろそろいいでしょう。せっかくここまで来たので次は近くのダンジョンに向かいます。ご準備を」

「ええ――――っまだやるの――――っ!!」

「夏休みが終わるまで休みはありませんよ」

「休みになってないし――っ! それって絶対矛盾してるし――――っ!」



 地下6層のミニダンジョンでしたな。

 俺が無双しまくって最終階まで一気に攻略しましたわ。

「ボスは一緒に戦いますよ」

「なんで!!」

「実戦経験を積んでもらうためです。魔王と闘うのですから」

「ううう……」

「ケガの心配はしなくていいです。防御を考えず全力で攻撃してください」

 あいちゃんに【ウォールコーティング】をかける。

「マジで……」

「ちょっと失礼」

 服を脱いで、荷物の上にたたんで載せて全裸になる。

 全裸っつっても、俺、ガイコツなんだけど。

「……なんで脱ぐの?」

「執事服がもったいないので」


 ファイアフラワーですな。

 でっかい食虫植物ぽい外観で、火の玉を絶えずドンドンとキリがなく撃ってきます。こんな日の当たらないダンジョンでよく生きていられますな。

 俺はガイコツの体でそれをドカドカと受ける。

 あいちゃんは俺の後ろに隠れて、時々飛んでくる触手を斬り落としておりますな。

「なにこれキリがないよー!」

「そんなことないですよ。ステータスを見てください」

「ここでー!?」

 あいちゃん、俺の後ろに隠れてステータスを広げます。

 その間飛んでくる触手は俺がハンティングナイフで斬る。

「うわっすごっ。魔法抵抗値ガンガン上がってるーっ」

「俺が魔法攻撃を受ければそれがあいちゃんの経験値になりますから」

「おじさん大丈夫なの?」

「ん? 全然平気これぐらい」

「はー……」

 

 一時間ぐらいそんなことやってると、「上がんなくなってきたーっ」と後ろから声がする。

「じゃ、一発ぐらい受けてみてみますか? 治療はしますよ」

「……じゃ、一発だけ……」

「その前に防御を解除して水をかけます」

 【ブレイクウォール】であいちゃんの魔法防御を一旦外し、二人の上に【ウォーターボール】を作って破裂させ、水をかぶります。

 ずぶぬれになったあいちゃんが俺の後ろから体を出して火の玉を受ける。

「あちぃっ!」

 俺の後ろでバタバタする。

「熱いけど、ヤケドするほどじゃないでしょう?」

「うーん……うん。大丈夫だった」

「火の勢いもなくなってきましたし、そろそろ止め刺しますか」

「はいっ」

「触手も全部なくなったようですので、突っ込んで切り刻んでください」

「うぎゃ――っわ――っ! あちっ! この――――っ!! あつっ!!」

 ざくざくざく。

 相手はうねうねはしていますが地面に根を生やした植物ですからな。

 まあ剣の攻撃が当たらない、なんてことはありませんな。

 ぐしゃりっ!

 斬り倒されて、崩れました。

「はいっファイアボールで燃やしましょう!」

「ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール! ……」

 MPが切れるまでファイアボールぶち込んで完全に炭化。


「ふー……終わったー……」

 きゅるきゅるきゅるきゅる。ぴーん。

 あいちゃんのカードのレベルが上がりましたね。

「32になりましたー!」

 ダンジョン一個分丸々独り占めですからな。たいしたレベルアップです。

 二人とも煤で真黒ですなあ。


 ダンジョンの外にでるともう真っ暗ですな。

 きれいな小川があります。

「ここでキャンプしたいー」

「はいはい」

 枝を集め、枯れ木を斬り倒して丸太にして組みキャンプファイヤーを作ります。

 多少生木でも【プラズマボール】ですぐめらめらと火が起きますよ。

 イノシシを獲ってきて解体してロース肉だけ切り分けて、塩とハーブでよくもんでから枝に差して火にかざしローストします。

 あとはパスタですな。パスタは中華鍋とよく似たボウルで煮込みますぞ。

 この形状のボウルで煮込むと麺類は吹きこぼれませんからな。

 お湯を切り、オリーブオイルとニンニク、トウガラシでペペロンチーノを作ります。持ち込んだものは全部俺の荷物で小さく収縮していたやつですな。


 この間、あいちゃんは小川で水浴しております。

 ……なんか吹っ切れたのか、もう全裸でバシャバシャ暴れておりますな。

 思わず料理を作る手が止まります。

 若いっていいですな。手足と顔だけ日焼けしてパンダです。

 部活をいっしょうけんめいやってたんでしょうな……。

 健康的です。まったくムラムラ来ません。色気ゼロです。

「……おじさんガン見やめてよ――」

「見てないと護衛にならんし」

「そうだけどさ――っ」

「俺はガイコツだぞ。なんにもしないって」

「そういう問題じゃなくってさーっ」

「はいはい。メシできたよ」


 ローストしたシシ肉とペペロンチーノの付け合わせ。

「肉だー!!」

「ダンジョン初討伐のお祝いです」

 ……小川からあがってきて、タオルを体に巻いて丸太に座ってそのままガツガツ食べ始めました。

「……おいし――っ」

「野生化してますな……」

「おじさんだって服着てないし」

「……ガイコツですから」

「肉ひさしぶりーっ」

「まだまだあるし、全部食っていいよ」

「おじさんは?」

「食べる必要がないんで。じゃ、俺も洗ってくるわ」


 俺煤けた黒いガイコツのまんまなんで、まだ服着てないんだよな。

 川でごしごし洗うんだけど、取れないなー。

 体と違ってホネだから洗いにくい……一本一本洗うから手間かかるんだよな。

 

 じゃぶじゃぶ……じゃぶじゃぶ……。綺麗にならねーっ。

「いつまでやってんのおじさん」

 あいちゃんが見かねて小川に入ってきました。

「石鹸使わないと取れないでしょそんなの」

「だよなー」

「洗ってあげるからじっとしててよ」

「はいはい」

「女子高生に体を洗ってもらうってすごいサービスよこれ」

「……俺ガイコツだからまったくムラムラこないけどね」

「わかってますって。眼つぶっててよ」

 つぶる眼がありませんが。


 うん、助かった。やっぱり手届かないところいっぱいあるし。

 しかし慣れたねガイコツの俺に。泡ぶくぶくにして洗ってくれます。

 体に巻いてたタオルまで動員して全裸で骨を一本一本磨いてくれて。


 うん、いい子だわ。

 いい風俗嬢に……げふんげふん。



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