6.いい世界すぎるのも気持ち悪いよ
朝になった。
ビッグスライムとかキングスライムとか出てきたねー。
ハンティングナイフじゃちょときついけど、魔法で倒しちゃうとあいちゃんの魔法ばっかり上がっちゃうから、物理で倒してみた。
キングスライムはナイフで切り開いて体の中に飛び込み、核を斬って倒したよ。
ガイコツでないとちょっとやりたくない戦法だな。
あ、俺は肺がないのでスライムの体液の中でも窒息しません。
「ぎゃああああああああ――――――――っ!」
朝日が差して目がさめたあいちゃんに絶叫されてしまいました。
周りスライムの体液でどろどろでもはやどこに沼があったのかわからない状況です。もう一匹もいませんね。
って、まず俺がなにより怖いか。
スライムの体液でどろどろになった手にでかいナイフを握ったガイコツ。
これは怖いわ。
「ちょっと体洗ってくる」
まだ水がきれいな池を探して、そこで骨を洗ってさっぱりする。
【フライト】で飛んできてあいちゃんがいる【ウォール】のドームの上に直接着地して、ルシフィスのナイフでドーム天井を切り裂いて中に入る。
「よく眠れた?」
「……寝ちゃってたね。我ながらよくあの状況で眠れたと思うよ」
「若いからな――」
「そうかも。眠くて眠くてしょうがなかったの」
「……あの、ガイコツの着替えガン見して楽しい?」
「あははは。なんかB級映画のホラーシーンみたい」
「せめて『ターミネーター』みたいとか言ってほしい……」
「あれガイコツじゃないし」
「レベルいくつになった?」
「えーと、18。すっごー……」
「さすがにスライムだけじゃ、数稼いでもそんくらいか。じゃ、今日は実戦練習いこうね」
「ええええ――――っ!」
執事姿に戻って、寝袋とバッグを回収し、ドームの天上に開けた穴から【フライト】で脱出。
「おじさん眠くないの?」
「んーまだ大丈夫」
岩場で実践訓練です。
どかんどかんとファイアボール撃ってもらいます。
なかなか威力ありますな。タバコに火をつけるのがやっとな感じだったのに。
今なら人間ぐらいなら爆殺できます。
ファイアボールは今二段階あり、一段階は人間を火だるまにする程度。
二段階は 人間を四散させる程度かな。
やりだすと面白くなってきたみたいですがすぐにMP切れになりますな。
MP切れたら動けなくなる、なんてことはなく、魔法使えないだけだね。
MPが切れたら次はチャンバラ。
あいちゃんの聖剣に刃を傷めないよう【ウォール】をかぶせて、俺に好きなように打ち込んでもらう。
それを俺が十手で防いで防いで防ぎまくるって練習です。
賢い子だね。ちゃんと一撃一撃、間をおいて考えながら撃ち込んでくる。
太刀筋も昨日とは段違いに速く、パワーもある。
既にヒラの兵士レベル超えだね。
いやここの兵士はスライムも狩れないほど弱いんだったか……。
「十手ってなんか笑う!」
「なんでだよ」
「時代劇みたい」
「俺、これ八年も愛用してるんだけど。昔、日本人で召喚された人が持ってたものだよこれ。手に入れられてよかったよ」
「よくそんなので八年もやってきたよね」
「十手なめんな」
がきっ。鉤であいちゃんの剣を受け止め、ねじりあげてひねり取る。
「ほらな?」
右手に十手、左手にあいちゃんの聖剣を持ってぶらぶらさせる。
「すご――――。今どうやったの?」
「ひみちゅ」
「くっそ――! 絶対に今日中に一撃、打ち込んでやるっ!」
こらこら、女の子が『くっそー』なんて言っちゃいけませんよ。
MPが回復したところでまた魔法練習。
MPが無くなったらチャンバラ。
腹が減ったら昼飯。
昼寝したらお花摘み。
終わったら魔法練習。剣技練習。
夕方になったら……。
「お風呂入りたい――!」
「じゃ、帰るか」
魔法の空撃ちはレベルは上がらないけど、MPが空っぽになるたびにMPの最大値が少し上がる。積極的に使っていく必要があるな。
ひゅるるるるるるるぅ……。
宿屋街の路地裏に着地。
左耳にタッチしてラステルとの回線を開く。
「アイテムボックス」
(……私はアイテムボックスじゃありません!!)
「昨日の荷物」
(……いきなりソレですか。あの大きなリュックですね)
「それ」
(では行きますよ。出したい場所に右手を上げてください)
ふっと地に伏せるようにした右手の先に昨日預けた荷物が現れる。
(あとでいろいろなにがあったか教えてくださいよ!)
「了解」
「……おじさん、なにやってんの?」
「ああ、アイテムボックスから荷物出してた。はいこれ」
「うあー、便利だなーそれー」
ふっふっふ。いいだろいいだろ。
ラステルが大変だけどな。あとでお菓子でも送ってやろう。
あと【コントラクション】で小さくして俺のバッグに入れておいた昨日のあいちゃんの買い物も全部出した。
「一人部屋。風呂付、夕食と朝食で」
「おじさんは?」
「俺はこれから調べ物」
「ふーん……」
「じゃ、明日の朝迎えに来るから」
「はーい」
あいちゃんを宿屋に押し込んで、ケーキ屋に行く。
適当にケーキをセットで包んでもらって、ラステルに通信。
「おいアイテムボックス、貢ぎモン送るから受け取ってよ」
(わ――――! 楽しみです!)
「転送どうぞ」
(うわ――――――――っ!!)
「気に入った?」
(はい!!)
「じゃ、また連絡するわ。昨日と今日は一日中勇者のレベル上げと実戦訓練。以上だね」
(はい! お疲れ様でした!)
……もうアイテムボックスでいいのかよラステル。
そこはもうちょっと抵抗しろよ。
教会に行く。
仮面の執事に驚かれたけど、神父様にハンターカードを見せて勇者のパーティーであることを伝えると、顔を隠していることについてはそれほど問われなかった。
「魔物に襲われて顔を怪我しているのです」というと気の毒がられたね。
教会に寄付をし、「書庫で聖書を読みたい、調べものもさせてもらいたい」と言うと快く案内してくれた。
一晩中使っていいという。
……妙だ。
ここの国の人はどの人もどの人もいい人過ぎる。
というか、人を疑うということを知らないようだ。
俺が本を盗んだり、傷めたりするようなことは思いもしないのか。
俺のような人間には、そのことはかえって不気味で、気味悪く思える。
人間が当然持っているはずの悪感情。疑い。嘘。そんなものがここの国の人にはまるで感じられない。
自分が善良なのだから相手も善良であたりまえ。そんな感じだ。
これが世界樹の管理の力なのか……。
まず聖書から読む。
……長いので以下要約。
七百年前、人間は戦争ばかりしていた。
だが、人々はそれに嫌気がさした。もう戦争をやめようと思った。
そして、地上に生きるすべての者に恵みをもたらす太陽を崇めるようになった。
太陽が神だ。
そして太陽の恵みを地上で一身に集める世界樹。
この世界のどこかにある世界樹信仰が広まった。
ある日、魔王が現れた。魔王は平和な世界を蝕んでゆく。
平和に溺れた人間は対抗する手段を持たなかった。
その時、勇者が現れた。
勇者は語る。「世界樹が我を呼んだ。世界樹が魔王を倒す力を我に与えたのだ。世界樹を称えよ、世界樹に恥ずかしい行いをするな。再び魔王が現れぬように」
勇者は、魔王を倒し、世界は再び平和に安堵した。
人々は世界樹に感謝し、これを崇め、悔い改めることをかかさなかった。
魔王は繰り返し現れた。
しかし、すべて勇者に倒される。
世界樹のおかげです。
世界樹が守ってくださっています。
世界樹があるかぎりなにも心配ありません。
私たちは世界樹に感謝し、清く正しく生きましょう。
「なんだこのクソな教義……」
最悪だ。
人間をなんだと思ってる。
これってあれじゃねーの? なんか人間全員が世界樹に洗脳されてないか?
世界樹の魔法でもかかってんじゃねーの?
バカバカしくて読む気がなくなるわ。
……それでもしょうがないから、勇者の記録とか、魔王がどんな奴かとかいろいろ調べてはみたんだけど、ロクなの無くてとにかく退屈でさすがに眠くなってきた。
……ガイコツでも眠くなるんだな。