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4.この歳で女子高生の相手はきついんだよ


 そりゃあみんなぎくっとしますわな。白いテルテルボーズが店に入ってきたら。

 てなわけでやってきました『冒険者の酒場』。

 なんのひねりも無いわ。通称「冒険者の酒場」なのかと思ったら【マップ】開いてみたらホントにそう書いてあった。


 ここに来るまで見られた見られた……、そりゃあそうだわな。

 白いテルテルボーズが歩いてるんだから。

 でも警備兵とか衛兵とかこの街にはいないんだな。誰も俺に職務質問とかしないんだもん。悪人とかいないのかよこの世界。犯罪なんて無いんだろうな。

 

 案内を待たずに一番奥のテーブルに座って待つ。

「あの……ご注文は……」

 恐る恐るウェイトレスのお姉さんが聞いてきます。

「水。人と待ち合わせてるだけだから。釣りはいらない」

 金貨を一枚出して、シーツの下でテーブルに置き、手を引っ込める。

「は、はい……」


 さあ水一杯で昼まで粘るぞ。

 飲み食いはできるのかって?

 できるわけないだろ!!

 ガイコツになってから俺、腹も減らないしのども乾かない。

 なんなんだろうな俺……。

 ちなみに筋肉が無いので疲れることもありません。俺本当にアンデッドじゃないの? そこんとこどうなのラステル様……。


 昼過ぎてあいちゃん来た!!!

 なんかゾロゾロついてきてるし……。

 ずかずかと快活に店に入ってくる。

「おまたせ――!」

 荷物多いわ!

 なにそのパンパンのリュックサック!

 カッコはですな、赤い軽鎧と白いインナースーツ。皮のブーツ、女の子らしくミニスカート。でも鉄板付。背中にはばかでかい例の剣。


「勇者だ……」

「勇者様よ……!!」

 店がざわざわする。

「またせてごめーん。もう『勇者様が決断された!』とかなんとか大騒ぎになっちゃってさ! 王様とか王妃様とか大臣とか王子様とか総出で見送ってくれちゃってさ!」

「王子様イケメンだった?」

「ガキ、クソガキ。『勇者のくせになんで戦わないの――!!』とか言ってずーっと私の事馬鹿にしてたし」

「……まあガキってそうだよね……」

「顔はかわいいんだけど言うことは殴りたくなるようなことばっかり。私こっち来てからすっかりイケメン不信だよ……。やっぱ日本人が一番いいわ」

「マンガと現実は違います」

「少女マンガでさータイムスリップとか異世界召喚マンガなんてけっこーあるんだけど、普通は超絶イケメンが私を取り合ってみんなで守ってくれるもんでしょー? なんだよって感じ」

「……少女漫画ってそんなんですか」

「うん。で、すごい力とか権力とか持っててさー。で、結局主人公の好きなようにやらせてくれるの」

「イケメン王子がすべて許す、みたいな?」

「そうそう。現実の異世界きびしー」

 ……異世界少女漫画はもれなく保護者が付いてくるんですな……。


「今回はガイコツで我慢してもらいましょう。荷物が凄いですね」

「あーだっておじさんが持ってくれるでしょ?」

「……持ちますけど」

「おなかすいた。ここでなにか食べていい?」

「どうぞ」

「おじさんはなに注文する?」

「おじさんは飲んだり食べたりができません」

「……おなか減らないの?」

「……減らないですね」

「うらやましーっ。ダイエットとか最強!」

「骨と皮になりますよ」

「骨しかないじゃん」

「やかましいです」


 パスタですね。たくさん食べてくださいね。


「さておじさん(ちゅるん)」

「はい」

「まずはそのカッコだね(もぐもぐ)」

「それはそうなんですが、まずこれを」

 ころん。ころん。ころっ。

「なにこれ?」

「ダイヤモンドの原石です」

「え――――!」

「これを宝石店に売ってきてください。なにより必要なのはまず軍資金です」


「……どうしたのこれ」

「作りました」

「どうやって!」

「ダイヤモンドは炭素の単結晶です。炭とかを原料にして魔法で圧縮すると炭素の結晶が成長してダイヤモンドになります。おじさんの魔法で作るんですよ」

「……すごいね」

「では店を出ましょうか」

「あのおじさんさあ」

「はい」

「その敬語、キモいんだけど……」

「これからは全部こうです。人前で勇者様と話すのですから」

「……いいけどさ」


 そうして、『冒険者の酒場』を出て宝石店に向かう。

「荷物持って――!」

「このかっこうではまだ持てません」

 テルテルボーズだもんね。

「重いんですけど」

「仕方がありませんね」

 あいちゃんのリュックと剣に重力操作の【フライト】をかける。

「うわっいきなり軽くなった」

「【フライト】という重力操作の魔法です。空を飛ぶときにも使いますよ」

「うわーいいなーそれ! 私にも魔法教えてよ」

「おじさんの魔法はこの世界ではおじさんだけしか使えないんです。申し訳ありません」

「くっそー、絶対使えるようになってやる」

 女の子が『くっそー』とか言っちゃダメですよ。


「おじさん、この街知ってるの? すいすい歩くけど……」

「知りませんよ。【マップ】でナビゲートしてもらっています」

「なにその便利魔法」


「はい、宝石店はここです。私はお店の外で待ってます。ダイヤなんてタダでいくらでも作れますから買い叩かれても気にしないように。言い値で売ってください」

「イイね?」

「……相手の言った値段でそのまんま売ってこいって意味です」


 ……ぞろぞろなんか付いてくる。明らかに城の監視係ですな。

「……お、お……おじさん」

「いくらになりましたか?」

「金貨で二千七百二十枚……」

 ……ちょっとやりすぎましたか。

「『勇者様ですから、きっちり買い取らせていただきます!!』とか言われちゃって」

「はっはっは。その手は使えますな! 今後も役に立っていただきましょう。しかしこれで勇者様より私のほうが金持ちですな。では預かっていた金貨5枚をお返しします」

「別会計なの!」

「当然です」


 それから二人で服屋に入る。

「おじさんさあ」

「はい」

「どんな服がいい? 選んであげるよ」

「そうですね。これからずっと一緒にいるわけですから、勇者様のお好みでいいですよ。私はどんな格好でも気にしません」

「じゃあ、じゃあさ! 執事! 執事服!」

「かしこまりました」


 あれこれあいちゃんが持ってきますな。

 片っ端から試着室で試着します。

 上から下まで紳士な執事服。それにマント。山高帽。顔にはすっぽり被る本来は防寒用のマスクかな。手袋、靴下も忘れずに。あと革靴もね。

 服って骨だけだとスカスカなんですよね。

 しょうがないので【ウォール】で自分の体に空気の膜を作り、それに衣類を保持させます。鶏ガラみたいに痩せた男だったのが、やや細身の見た目に変わりましたよ。

 【ウォール】は空気分子固定の結界魔法です。

 どんな魔法も武器も貫通できない完全な結界魔法です。物理的な障壁なので魔法では解除できません。これは調整することで固くも柔らかくも大きさも形もすべて思いのままにコントロールできるようになりました。最初は本来の目的通り壁というか空気の壁一枚作るのがやっとでしたが、八年の経験の結果ですな。


「かっこい――!」

「ありがとうございます」

「私ねー執事とかあこがれてたんだー! お城で本物の執事さんとか見てやっぱり本物はかっこいいなーって思って」

「では今後私は愛様付執事ということにいたしましょう」

「うん、それでいこー! うわーいいなーそれ」


 ……おう、いいものがありますね。

 仮面舞踏会用ですかな? 例の、『歌劇座の怪人』風のマスクがありますね。白い陶器の。これも買いましょう。

「どうです?」

「……かっこいい……」


 好評なようですな。

「パンツとか、下着は?」

「いりません」

「……そだね……」

 ガイコツですから。


「荷物軽いのはいいんだけど、かさばる――!」

「小さい鞄を別に買って、必要最小限なものだけにして下さい」

「はーい」

 ウエストバッグですな。こまごまとしたものを移し替えておりますな。

「ではこの大荷物は異空間に収納します」

「そんなんできんの!」

「アイテムボックスです」


 左耳にタッチして、女神ラステルを呼び出します。

「アイテムボックス」

(誰がアイテムボックスですか……。さっそくですか。さっそくなんですか佐藤さん。そんな呪文みたいに言われても)

「(早くしてください)」(小声)

(……じゃ、荷物に右手、当ててください)


 荷物に触れると、ぱっと消えました。

 便利ですね。

「うわーすごい!」

 あいちゃんもこれにはびっくりですな。

(もうっ、一日一回にして下さいね!)

 左耳にタッチして通信を切ります。

「この魔法は一日一回しか使えませんのでお気を付けください」

「えーそうなの! 失敗した! 今夜の着替えとかどうしよう!」

「ここでお買い求めください」

「わかったー!」


 ……失敗しましたね。下着だのブラだのシャツだの買いまくり。

 このお店での支払いは私の分も含めて総額金貨四十枚にもなりましたよ……。もちろん私が全額出しました。金貨一枚一万円といったところですかな。

 どこの世界でもそうですが、紡織機とかミシンとかありませんしすべて手縫いですので、服は高いんですよ。シャツ一枚でも日本の十倍はいたしますな。

 平民は布だけ買ってきて自分でお裁縫するのが普通です。


「あのゾロゾロついてくるやつらはなんなんですかな?」

「お城のひと。私の警護なんだって」

 コッソリついてくることはできないんでしょうかね……無能すぎます。


「勇者様のお顔は市民の皆様にもよく知られている?」

「お城のベランダから国王と並んで手振らされたからね……」

「……そりゃあ大変でしたな……」

 先が思いやられます。

 あいちゃんの黒髪はこの国では目立ちます。すぐ勇者様、勇者様と声が聞こえますな。


 公園までやってまいりました。

「ちょっと剣を振ってみましょうか」

「展開速い――」

「一応見ておかねばなりますまい」

「はいはい……」

 背中の剣を下して、抜き、前に構える。


「それはソフトボールのバットの持ち方です。剣はこう持ちます」

 そうして握りこぶしを離して持ってみせる。

「こう?」

「そうそう」

「剣道部にしとけばよかった……」


 【フライト】で軽くしてありますからな。ひゅんひゅん振ります。

「軽いからやりやすいよ。でもちょっと長すぎかな」

「では少し短くしましょうか」

「そんなんできるの!」

「はい。【コントラクション】」

 全長が70cmぐらいに短くなった。小太刀サイズだね。

 【コントラクション】は素粒子レベルで原子の隙間を小さくして物質の大きさの収縮をする魔法だ。荷物を持ち運ぶのに便利な、俺のアイテムボックス代わりだね。小さくしても重さは変わらないんだけどね。まあそこは重力魔法の【フライト】で補ってるかな。

 これなら女の子でも降りやすいだろ。

「ちょっと軽すぎ。発泡スチロール振ってるみたい」

「それでは実戦に使えませんね。では少しずつ重くしましょう。そのまま振り続けて、ちょうどよくなったらストップって言ってください」

 【フライト】を調整して、少しずつ重くする。

「ストップ!」

 うん、700~800グラムぐらいですかね。ちょうどいいです。


「よかったーっ、これなら使いやすいかも」

「あの大剣では持ち運ぶだけで一苦労でしょうからね」

「まったくだよー」

「あとは鍛錬あるのみですな。レベルが上がったら少しずつ元の大きさに戻していきましょう」

「……うんざり」


 公園を出ようとしたところで、呼び止められました。


「勇者様!」

 ぞろぞろぞろぞろ。六人ですか……。



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