3.女子高生のやる気スイッチはどこにあんだよ
「あいちゃんはどうやってこの世界に来たの?」
「二週間ぐらい前から変な夢見るようになって、勇者となって闘うーみたいな? で、大きな木に、魔王と闘え、闘えーなんて言われて。そんな夢しばらく見てて、で、五日前に目が覚めたらいきなりこの国の教会の祭壇の前にいて、まわり全員外人さんでさー。勇者だー勇者だーって言われれて大騒ぎになって」
「その大きな木って、このーきなんのきー♪ って感じの木だった?」
「そうそう」
世界樹だな……。前の世界で最後に魔王を封印した世界樹がちょうどそんな感じだった。そんな前から刷り込んでたのか。ほんとクズいな世界樹。
「で、パジャマのまんま王様の前につれてこられて、勇者が召喚されたってことは魔王が新しく現れたってことだから倒してこいとか言われて、聖剣だかなんだかでっかい剣渡されて、服とか鎧とか重たくてイヤなやつ渡されて、私たちと一緒にレベル上げしましょうーとかいってなんかイケメンの外人さんと一緒に外連れていかれて」
うん、強引だな。
この際だから喋りたいだけ喋らせてやろう。
「イケメンのくせに弱くってすぐスライムに追いかけられて逃げてきちゃって、『ここは危険だ!』とか言ってすぐお城に戻っちゃって、で、今どーするこーするってお偉いさんたちがわーわーやっててその間ここで好きにしてろって言われてもう一昨日からこのまんまなの」
「毎日寝てたんかい」
「他にやることないんだもん」
「お気の毒です。お食事はおいしいですか?」
「ここの食事さいてー。みんな菜食主義? ベジタリアン? 野菜料理ばっかり」
肉ぐらい獲ってこいよハンターいねえのかよ……。
「おかしはおいしいけど」
「太りますよ」
「やかましいわ」
女子高生にやかましいわいただきました。
「とにかくこの国の連中はみんな弱すぎてまともに魔物とも戦えないと。だから勇者に魔王倒してこいと」
「勇者って特別だからレベル上げしたらいくらでも強くなるんだって。だからレベル上げさえすれば戦えるようになるんだって。でもそのレベル上げ一緒にしてくれる人いないからできないんだって。なんかグダグダ」
「グダグダだねえ……料理が野菜しかないってことは肉を取りに野生動物を狩りする程度のこともできる人がいないってことだしね」
「家畜殺すとかもしないんだよ。だから肉が超貴重なのこの国は」
よわっ。もうよわっ。どんだけ弱いのこの国の住人。
「でもね、みんないい人なんだよ。悪い人とか嫌いな人とか、会ったこと無いな……」
「そりゃあもう気味が悪いくらい?」
「そうそう、あんなにいい人ばっかりだとかえって気味悪い。みんな丁寧だし礼儀正しいしいつも私の事心配してくれてちやほやしてくれて、『嫌だったら無理しなくていい』とかホントか――って感じ」
「ファンタジーな世界だな……」
「ファンタジーな世界だもん」
「うん、そこは割り切ろう。俺も何度も『これはファンタジーなんだからしょうがない』って自分を納得させてきたから」
あいちゃんがまじまじと俺を見る。
「おじさんは魔法とか使えるの?」
「なんでもアリ」
「剣とか槍とか使えるの?」
「最強」
「おじさんただのリーマンだったよね?」
「リーマンいうな」
「ほんとかなー」
「女神様に加護をもらって魔王様に鍛えてもらいました」
「魔王様にってなに。魔王と仲いいのおじさんは!」
「前の世界の話です。おいおい話してあげます」
「レベルいくつ?」
「999」
「ウソだ――――!!」
「ホントだって、ほら、【ステータス】。見える?」
「……みえないしぃ」
この世界では見せられないのか……。
「あいちゃんの勇者の能力ってどんなの?」
「レベルを上げればいくらでも強くなる。魔法も使えるって言われた」
「他には」
「できてびっくりしたのは自分のステータスを見れること。人を自分のパーティーに入れること」
「パーティーに入れた人にはどんな効果があるの?」
「パーティーの人のステータスを見ること。経験値をパーティーで共有すること。パーティーメンバーもレベルが上がるんだよ。そうなる前に逃げてきちゃったけど……」
「ステータス見せられる?」
「いいよ。ホラ!」
北原 愛 17歳 職業:勇者
LV 1
HP(体力) 15
MP(魔力) 10
STR(筋力) 12
INT(知力) 11
AGI(敏捷) 12
ATK(攻撃) 18
DEF(防御) 4
MGR(抗魔) 11
魔法:ファイアボール。
「……けっこういいね」
魔力はともかく体力系は女神ルナテスの倍はある。若いってすげえ。
「いいの?!」
「レベル1にしてはね。部活とかなにかやってた?」
「ソフトボール部!」
「おおっ、じゃ、バットを振り回すことはできると」
「ピッチャーなの」
……終了。
……いや、全然未経験より断然いいわ。
「うん、でも悪くない。俺三十五歳(自称)のおばさんをレベル1からレベル152までレベルアップさせて魔王封印させたことあるから。大丈夫」
「ホントに――!!」
希望が出てきましたな。
「おじさん、パーティー招待するから受けてみて」
「どうやってやんの?」
「送るから」
おう、俺の目の前に『北原 愛からのパーティー招待を受けますか Y/N』って表示出た。Yにする。
「……おじさん、ホントにレベル999なんだ……。『佐藤雅之』って書いてあるし、ホンモノだ――!」
よかった、ちゃんと表示されるか。
どっかのときには素でLV20って出ちゃったからな。今ホネだから素だったら全部ゼロだわ。
「でも職業は『無職』だってさ」
「……悪かったな」
だってこの世界来てまだ一時間経ってませんから。まだなんにもやってないですから。
「もらった聖剣ってある?」
「これ」
両刃の剣で1m30cmぐらいかね。重さ2キロ。日本刀の二倍ぐらい。
いろいろ紋が刻んであるけどね。光ってるけどね、使えないね。
「でかっおもっ!」
「そうなのー……」
「こんなの女の子に持たすとかなに考えてんのこの国の人」
「そのとーりだよー」
「魔法って使える?」
「火の玉だけ」
「出してみて」
「うん、ファイアボール!」
手のひらの上にぼわっと火の玉できた。
うん、タバコが吸いたくなったらやってもらうわってレベル。
「おじさんはどんなのできるの?」
「……ここで出したら魔王が攻めてくる前に国が亡んじゃうぐらい」
「ウソだぁ――」
「まあおいおい見せてあげるから」
「で、これからどうするの? っておじさんこんな塔までどうやって来たの? 忍び込んできたとか? ルパンみたいに?」
「そんな面倒なことはしません」
俺は立ち上がって、【フライト】ですっと浮いてみせる。
「うわーすごい――!!」
「けっこう速く飛べますよ」
「殺せんせーみたい」
「……なんですかそれ」
「……おじさんにはわからないか……」
ガッカリしないでくれよ。歳考えてくれ俺四十三歳なんだから。
「じゃ、どうするおじさん。ここ抜け出す?」
「いや、そんなことしたら大騒ぎになるからな。ちゃんと『決心しました! 魔王討伐に出発します! パーティーメンバーは自分で探します!』とか言って城を出て、合流しよう」
「わかった」
「できるだけたくさんお城からお金もらってね。俺もこの世界来たばかりでお金ないから」
「……かっこわる」
「金ならあとでいくらでも稼いでやるから心配すんな」
「お金はあるんだー。旅の支度金ってもらったやつが金貨で千枚」
どさっ。すげえ。金袋。
「……こんなにあっても重くてイヤなんだけどね」
「旅の間は持ってやるよ」
「……信用していいんだか」
「おじさんだよ?」
「ガイコツじゃない」
「きびしーっ」
二人で笑う。女子高生と白いオバQ。
「どこで合流しよう?」
「『冒険者酒場』ってのがあって、勇者はそこでパーティーメンバー探すんだって」
「わかった。じゃそこで」
「明日?」
「うん、そっちの都合が良ければ」
「じゃ、お昼頃。午前中バタバタすると思うから」
「わかった。あとさ」
「なに?」
「明日まで過ごせるだけのお金貸して」
「……普通にかっこわる」
……金貨5枚くれました。
意外とケチい……いや、しっかりしてますな。
「あとおじさんさあ」
「なに?」
「お風呂入って。臭いよ」
やっぱり女子高生嫌い。
本当に空飛んでいく俺見て、ビックリしてましたなあいちゃん。
(どうでした?)
「んー思ってたより素直でよいこ」
(それはよかったです)
一仕事済んでラステルと女神通信する。
「頼みがあるんだけどさ」
(はい)
「アイテムボックス! ルナも魔王ルシフィスも持ってたやつ。あれすごい便利なんだよ! 絶対欲しい! これから二人旅だしさ、荷物増えそうだしなんとかなんない?」
(うーん……でも佐藤さん魔法使えないから)
「ダメかよ……。がっかり」
(……わかりましたぁ!! じゃ、私が管理しますよ! もうっ、それでいいでしょ? 私に通信してくれれば預かりますよ。また通信してくれればそっちに送りますから)
「どこに預けとくの?」
(この空間に置いときます)
「それだと君の部屋が俺とあいちゃんの私物でいっぱいに」
(ヘンなもの送ってこないでくださいよ!)
「……まあいいもの送って君にプレゼントすることもできるだろうし」
(なにそれちょっとそれ期待しちゃう)
「お礼だよ。女神様にささやかな貢物」
(……楽しみにしちゃいますよ)
「了解。通信終わり」
それから俺は首都アルアトスを離れ、郊外で小川を見つけて、あいちゃんに『臭い』って言われた体をごしごし洗うのであった。
ホネにからみついていたボロ布、ミイラ化した肉片とかが水に溶けて、完全にピカピカな白骨標本になるころにはもう夜明けが近かったわ。