2.まずこの見た目をどうすりゃいいんだよ
街のど真ん中じゃねーか!
いきなり放り出されて、ここ街のど真ん中だよ!
街の中にいきなり白骨ゾンビ発生だよ!
大騒ぎになるじゃねーか!!
……。
あ、夜か。
夜でしたね。深夜ですね。
街灯に照らされて、ほんのり明るいけど、一応夜ですか……。
街には人影がない。無くてよかった。
でかい街だなー。首都かな?
とりあえず【ステータス】だけでも確認するか。
LV (レベル) 999
HP (体力) 999
MP (魔力) 999
STR(筋力) 999
INT(知力) 999
AGI(敏捷) 999
ATK(攻撃) 999
DEF(防御) 999
MGR(抗魔) 999
……相変わらず上下しねーな。
異世界をうろつくようになってから8年、まったく変わってないね。
ホネなのに筋力ってなんなんだろうな。
そういや素でレベル見てもらってたったの20だったことあるわ。
今俺は素の力はゼロ、マジでチートの補正力だけで動いてるってことか……。
腰には愛用し続けた十手、それに魔王ルシフィスがくれたハンティングナイフがある。
抜いてみる。
どちらもサビ一つない。
愛用の十手。
全長40cm、最初の世界で手に入れた一番付き合いの長い武器。
俺は人を殺したりするのがイヤだった。だからこれを武器屋で見つけて迷わず手に入れたのだ。対人戦闘で、敵から剣を奪ったり取り押さえたりするのに使う。
最初の妻、魔王カーリンが、俺が亡くなったときに棺に共にいれてくれた。
今でも俺の手にあるのはカーリンのおかげだ。
2回目の異世界転移で俺の親友になった魔王ルシフィス。
あいつが死んだ俺の棺に入れてくれた全長40cmのハンティングナイフ。一流の職人に作らせた三層のハガネを重ね合わせ、魔王ルシフィスが自らが思いつくだけの魔法属性を付加しまくったありえない超チート武器だ。
自慢していたのに、俺が死んだときに一緒に棺にいれてくれた友の贈り物だ。
本当なら、ナイフも十手も白骨化した俺と一緒に錆だらけになっているはずなんだけど、ルシフィスがかけてくれた絶対強化のおかげで、どっちの武器も何をやっても折れず、曲がらず、錆びないらしい。
……あれからどれぐらいたったのか……一年とか言ってたか。
ナイフが青白い光を纏っている。
三回目の世界で妻となった、女神ルナテスが与えてくれた聖域の付加だ。
どんなアンデッドも魔王でさえも、一撃で葬れる超強力な魔法付加。
最後、魔王城に突入する前にルナがかけてくれた……。今でもそのままって、どんだけ張り切ってかけてくれたんスかルナテス様……。
ちょっと怖いけど、ナイフの背で俺の足の小指の骨をコンコンと叩いてみる。
俺がアンデッドだったら、たちまち小指が砕け落ちてしまうはず……。
……なんともないってことは、俺ってやっぱりアンデッドじゃないのか。
白骨ゾンビなのに。どういうことですかねラステル様。
霊的な力もゼロ。俺のホネはタダのホネ。そういうことかね?
見回して、宿屋の屋上にふわりと重力操作の【フライト】で飛び上がる。
俺の使う魔法は、どの世界のファンタジーの精神力とか超能力とか謎のファンタジー力を使う魔法とも違う。物理法則を自由に操れるという『物理魔法』だ。
俺が魔法で起こす現象は全て、科学的に説明できる。それを科学では説明付かない方法でコントロールしていると思ってもらえばいい。
魔素だのマナだの自然の力だのを使った魔法では、世界が変わると使えなくなってしまうこともあるだろう。だが、物理法則はどの世界でも、宇宙のどこに行ってでも変わることがない不変の法則だ。だから、俺は異世界をいくら渡り歩いても今まで使えた魔法が全部使えるのだ。
ついでに身体のステータスも全部カンスト、カウンターストップだ。
これは最初の世界で女神エルテスが授けてくれた。
カンストすげえと思うかもしれない。
でもこれは呪いでもあるな……。俺は何をやっても何を倒しても経験値もレベルアップもしないので、俺はその世界で人々が普通に使う魔法だのスキルだのを全く身に付けることができない。
今あるチート能力だけで闘わなければならないんだ。贅沢な悩みかもしれないけどな。
宿屋の屋上で、洗濯物がはためいている。
……盗みはいけないことだけど、背に腹は代えられない。
これでいいか……。シーツを一枚拝借する。
それを頭からすっぽりかぶる。
不思議だ。シーツをかぶっても前が見える。
そういや、俺ガイコツだから目が無かったな。
俺、今眼で見ているわけじゃないのか。謎だね――。
余った布をナイフで切り裂いて、細身のオバQの出来上がり。
人目はこれでなんとか誤魔化せるな。
……誤魔化せるか?
……誤魔化せそうにないんですけど。やっぱり大騒ぎになりそうなんですけど。
布をびりびりと引き裂いて紐状にねじり、十手とナイフを骨盤に縛り付ける。
だってさあ俺今ウエストの肉が無いから、ベルトが骨にひっかかってるだけなんだもん。ガチャガチャしてわずらわしいったらない。
【マップ】を展開する。広いな。今まででいちばん広い大陸だね。
ここは首都か。首都アルアトス。王宮は……あっちか。
ぴっ。左耳にタッチして女神ラステルに通信開始。
「こちらスネーク、ラスカル、首都の潜入に成功した」
(ラスカルって誰ですラスカルって。私はツキノワグマじゃありませんよ!)
「ツキノワグマじゃねえよそこはアライグマだよ!」
(だいたいそこに送り込んだのは私ですよ!)
「ありがとう。感謝してるよ。昼間だったら大騒ぎになってるとこだ」
(だから夜にしてあげたんです)
「はいはい……。ところでさ、今あいちゃんてどこにいるの?」
(王宮の北側の塔のてっぺんです)
それってなんのカリ城だよ……。
「なにしてんのそんなとこで……」
(王宮が用意した兵士と一緒に一度は旅立ったんですけど、外にいた魔物にすぐにやられて帰ってきちゃって、もうヤダ出たくないって引きこもっているんです)
「兵士弱すぎ……」
(平和が続いていましたからねー。魔物とかも魔王が現れるまでは山奥にしかいませんでしたからねー)
「それでも備えるのが兵士ってもんだろうに」
(おっしゃる通りなんですけど、それがこの世界の欠点かと)
「わかった。とりあえず会いに行ってみるわ。通信終了」
ふわっ……。
俺は【フライト】をかけて、王宮めがけて飛び立った。
でかい城だな。北の塔は……あれか。
よく都合よくあんな塔の部屋があるもんだな。何のために作った部屋だよ。
クソーひでえところに引きこもりやがって。
重要人物を保護するなら、もっといい部屋があるだろうに……。
北の塔。明かりが消えてる。
寝てるかな?
ふわりと飛び移る。
天窓は……無いか。
窓は……開いてるな。カギとか無いわ。
ぎぎ……こっそり開ける。
「……誰?」
ベッドに座ってる女の子から声をかけられる。
「ドロボーです」
「どろぼうさん? ……ってルパン三世??」
「こんばんは。北原愛さん」
「あなたは、日本の方ですね!!」
前に進む。月明りが部屋を照らす。
パジャマを着て、ベッドの上に女の子座りしてる。
セミロング。美少女っていうほどじゃないけど整った顔してるわ。
俺の一族からはそんなすごい美少女とか生まれねえよ。
妹の旦那さん、どうやって捕まえたんだって思うほどいい男だったから、そっちに似たかな。
「夜分すいません。このようなかっこで申し訳ありません。怪しいものではございません」
「……日本語だ――! ほんとに日本人だ――――!!」
「わかってくれたか」
「めっちゃ怪しいんですけど――――!!」
「そりゃそうか」
俺シーツを頭からかぶってお化け状態だもんな。
「な……なにしに来たの?」
「いえ、ちょっとお話をしたくて」
「何の話か知らないけど出てってください! 魔王倒すなんて話もうイヤですからね!」
「まあ落ち着けあいちゃん。久しぶりに会えたんだからさ。おっきくなったね」
「久しぶりって……こんな異世界で私を知ってるっての?」
「お父さんは北原重明、お母さんは北原雅美、通っていた小学校は東丘小学校。得意な科目は国語、社会、苦手な科目は算数、理科」
「……あってる」
「宝物は小学校一年生の時におじさんからもらった『カリオストロの城』のDVD。それから毎年誕生日に『となりのトトロ』とか『天空の城ラピュタ』とかもらってたけど本当はぬいぐるみが良かったと泣いていた……」
「なんで知ってるの……」
「それは、俺が雅之おじさんだからです」
「ええ――――――――!!」
「びっくりした?」
「するわ――! だっておじさん死んだじゃん――――!」
「小学校3年生の時、反対車線に飛び出してきたタンクローリーと衝突して」
「そうそう――! 私お葬式にもちゃんと出ましたから――! いっぱい泣きましたから――――!」
あいちゃんビックリだわ。
そりゃそうだよな。
「……なんでいるの。おじさん」
「実はあれから異世界召喚されちゃってさあ」
「そんなバカなことあるわけないじゃない!」
「そんなバカな目にあってるのはあいちゃんもおなじでしょう」
「……そうだった」
ボーゼンですね。
「それでさ、異世界で戦争止めろとか魔王封印しろとかいろいろ頼まれてさ」
「そんなことあるんだホントに」
「で、今回は俺の姪っ子のあいちゃんがこの世界に召喚されたって聞いて、助けに来ました」
「……た、助けにって、おじさんが? マサおじさんが私を?」
「そう」
「おじさん、ずーっとこの世界にいたの? しーごーろくしち……八年も」
「いや、いろんな世界を渡り歩いてた。この世界に来たのは今夜が初めて」
「助けるってどうやって? 日本に帰れるの?」
「まかせろ」
「だからどうやって?」
「俺と一緒に魔王を倒そう。そうしたら文句なく帰れる」
「イヤッ!」
「帰りたくないの?」
「帰りたいけど……。あんな気持ち悪い魔物と闘うとか絶対無理! 兵士さんだってすぐやられちゃったんだよ」
トラウマになっちゃってるか。
そうだよな……。
「そこは俺があいちゃんを守ります。パーティーメンバーになりますから」
「おじさんがあ?」
「うん」
「おじさん強いの?」
「異世界渡り歩いているうちに世界最強になりました」
「そんな都合のいい話……」
……あいちゃん、枕を抱きしめて俺をじろじろ見ます。
「なんでそんなの被ってんの。おじさんだったら顔見せてよ」
「あとで見せてあげるよ」
「そんなのヤダ」
「ニセモノじゃないよ本物だよ」
「それはわかった。でも顔見るまで信じないもん」
「うーん……驚かないでよ。いや、それは無理だから驚いてもいいわ。でも声は上げないでね」
「うん」
「あの、言っておくけどこれ取ると俺ガイコツだからね」
「ガイコツ?」
「うん、前の世界でまた死んじゃってさ、体が白骨化してるから」
「お骨だったらおじさんのお葬式の時に拾いました」
「そっちのホネじゃなくて、俺本当に今ガイコツだから」
「うん」
「心の準備はできましたか?」
「……うん」
「では」
ぴらっ。
一瞬だけ、顔まで全体見せて、元に戻る。
「……!!」
「わかった?」
「めっちゃきもい」
……やっぱり女子高生って嫌いだわ……。