14.もうちょっとマシな作戦はないのかよ
夜までかかって、やっとできました。およそ1キログラムのダイヤモンド原石。
うっすら青い。
世界最大ですな……歴史上地球で一番でかいダイヤは600グラムぐらいだったとか。ギネスが書き換えられますな。
ダンジョンを出て、あいちゃんに紙を渡します。
「よし、じゃ、あいちゃんはテレポで王宮に戻り、これを国中に布告して」
「はい。なんて書いてあるの?」
「『勇者様が国内最大のダンジョン「地獄の巣窟」を討伐成功! 握りこぶしより大きい巨大ダイヤモンドを発掘して王都に凱旋!』って」
「わかった――!」
「話が付いたら戻ってきてね。一番近いヒコリ村で合流しよう。王宮に帰る途中で魔王襲ってくると思うから」
「了解です!」
「着替えとか風呂とか食事とか済ませてね」
「はーい! 明日の朝でいい?」
「いいよ」
「わかった。じゃ、テレポ!」
いなくなっちゃいましたね。
さてしょうがない。俺は村まで歩いて行くとしますか……。
翌朝、ヒコリ村で待っていると、あいちゃんが到着。
……便利だなテレポ……。俺が世界を四つ渡って一度も見たことない魔法だよ。
「あいちゃんレベルいくつになった?」
「158」
「……もう無敵だね」
「まだまだおじさんにはかなわないけどね」
「さ、行くか」
王宮まで二日の距離。二人でてくてく歩いていく。
どこで襲ってくるかな――。
もう国に知らせが届いて、大きな騒ぎになってる頃と思うけどな――。
俺が持ってくるダイヤに、国中の『強欲』が集まってる頃だと……。
「キラムン、離婚しちゃったんだよ――、奥さんが覚せい剤で捕まってさ」
「え――――っ! キラムンの奥さんってミチリンだよね! 俺ファンだったのに」
「なにそれああいうのが趣味なのおじさん」
「ミチリン若いころは可愛かったんだって……」
日本の話、聞けば懐かしくて、もう帰れないのが辛くて死にたくなるんだけど、こういう芸能人のゴシップ程度なら笑って聞けますな。
あいちゃんも、気を使ってはくれてるんだよ。俺の家族の話とか、俺が無言になるとそれ以上しないし。嬉しいね。
「わはははははははっ!!!」
……来たよ……空気読めよ。
岩山の上に仁王立ちして笑ってやがる。魔王。
「欲しいのはコレか――――っ!?」
バッグからダイヤを取り出して見せてやる。
「そうだ! 余の『強欲』を満足させるにふさわしい!!」
「だったらかかってこい――!!」
「おうっ! 今度は負けん!!」
ジャンプして飛び降りてきたところを……。
空中に飛んで俺とあいちゃんでクロスアタック!!
「ぐはぁっ!」
……終了かい。
もくもくもく……一度煙になって、再び戻る魔王。
「く……くそっ……。余の『強欲』がこの程度で……」
「やるよ」
「なにっ!!」
「やるって。ほら」
ダイヤを渡す。
「それ持って帰れ。じゃあな」
ダイヤを受け取ってポカーンな魔王。
その顔が、にやり、そして哄笑に。
「わははははは!! ついに諦めたか勇者! 余の『強欲』は満足した!」
「そりゃよかったな」
「だが、人間の罪はまだまだ重いぞ! 次を待っておれ!!」
「また明日なー」
わはははははっ! ひゃははははははは!!……。
魔王は、笑いが止まらんという感じで、飛んで行った。
「……もったいない……。なんであげちゃったのおじさん」
「んー、なんていうか、このパターンも通用するかと思ってさ。実験」
「そっか、『満足』すりゃあいいんだもんね」
「そうそう。このパターンも有効か」
「でもダイヤもったいないー……」
「あんなキマイラから作ったダイヤ、欲しいか?」
「……いらない」
あんなでかいダイヤ、この世界に買える人がいねえよ。
まあやってもったいないものでもないしな。
「さ、帰るか。次の作戦、もう手配してるんだ」
「えーと、残りは、『色欲』、『嫉妬』、『怠惰』?」
「そうだね」
「『色欲』とかどーすんの? 『嫉妬』とかも」
「美女を集めて巨大ハーレム作っておびき寄せる?」
「なにそれサイテー!」
「あっはっは! まあ、もうちょっとまともな手段かな」
そうして俺たちは、テレポで王都に帰った。
『第一回ミス・王国コンテスト開催』
王国一の美女を決めるため、美人コンテストを行います。
15~30歳の独身女性。自薦、推薦も可。
王宮ベランダホールにて開催。
当日の参加者は王宮門にて受付。
御来客の皆様の投票により、優勝者を王様より表彰します。
貴族から平民にいたるまで、こぞって王宮にお集まりください。
国一番の美女は誰か! みなさんの厳正な投票を期待します!
主催 国王陛下
「……バカじゃないの?」
「……バカだと思います。はい、すいません」
「もうちょっと他にやりようがあると思うわけ」
「いいんだよ。国中の男どものいやらしい色欲、女たちの醜い嫉妬のエネルギーを一気に集めるにはこれが一番なの! 一番のエサになるの!」
「なんだかなー……。おじさんの作戦って、前の世界の話も聞いたけど、いつもなんていうか、すごい卑怯だよね」
「……卑怯とか言うな。正攻法っていうのはな、カッコいいんだけどそのかわりたくさん死人が出るんだよ。これでも『一人の犠牲者も出さず、誰も死なせず解決する』ってのを最優先にして考えてるんだ。どうしても騙し討ちとか罠をしかけるとかになるのはしょうがないさ」
「そういやそうか。そう言われてみればよく考えてるよね」
「さ、もうみんな集まってるから、あいちゃんも」
「なんで私も?」
「出ることになってるから」
「なんで――――っ!」
王宮で、もうメイドさんたちが総出で、あいちゃんの着せ替えを行います。
男性は立ち入り禁止ですね。はい、すいません。
せいぜい磨いてくださいね。
本番は明日です。
(残りはついに三つですね……)
「ああ、『色欲』、『嫉妬』、『怠惰』」
女神ラステルとベランダで通信する。
(それにしても美人コンテストとは……)
「だってさあ色欲をエサにって、どうすりゃいいの? いい女用意しておきゃいいってわけじゃないでしょ? 魔王にだって好みはあるし、こっちで誰か用意してもひっかからないって。その点コンテストで一位の美女なら、最高のエサになるじゃない」
(そりゃそうですけど……はあ……)
「うまくすりゃあ『嫉妬』も斬れるし、そうすりゃ残りは……」
(『怠惰』だけですね)
「そう、本来なら魔王は魔王城で勇者が育つまで、『怠惰』をむさぼることができた。だが、今回は勇者のレベル上げが早すぎて出てきてしまった。今度魔王の撃退に成功すれば、『怠惰』だけが残った魔王は魔王城に引きこもる。そこを討つ」
(ひどい作戦ですけど、確かにそれなら一人の犠牲者も生むことなく、魔王を倒すことができますね)
「そうそう、今まで人が殺され、女が犯され、財産は奪われ、田畑を焼き払われ、幸せに暮らしている人間への嫉妬をむき出しにして王の権力を傲慢にも奪おうとし、それを邪魔する勇者に怒りをぶつけてきた過去のどんな魔王より被害は抑えられるはず」
(……いい作戦だと認めましょう。で、その後はどうするんです?)
「世界樹を叩き潰す」
(……あの……、とんでもないこと考えていませんか?)
「世界樹を倒せば、ラステル様に管理権は戻ると」
(……そんな……)
「アンタがこのクソな世界を管理し直せばいいんじゃないのか?」
(人間が、また悪いことを考えて、悪人が増え、戦争がはじまるかも……)
「それが人間だ。こんな世界は人間の世界じゃない。平和も、善悪も、人間が自分たちで血を流して犠牲を払って学んでいかないといけないことだ」
(……)
「そんな感情を誰かに奪われ、吸収されて、強制的に善人として生かされる。そんなの人間じゃない。あんたたち女神がやらなきゃならないことはロボットのコントロールじゃない。人間を教え導く、本来の女神の仕事に戻るんだ」
(……はい)
「700年もなにもしないで指咥えて見てたんだろ?! それぐらいやれよ!」
(はい。私も決心します。それでお願いします!)
「よし、通信終了」
「どう? おじさん」
あいちゃんが着飾ってやってきました。
白を基調に、ピンクの花をあしらった清楚で綺麗なドレスです。
二の腕まである長い手袋、ロングなスカート、パンダ対策もバッチリです。
肩を出し、ふくらみかけの素敵なバストを包む乳袋。ふんわりとカールさせてボリュームアップさせた黒髪に銀のカチューシャ。
おしろいで色白を演出し、ばっちりメイクしてなかなかの美人さんです。
どこの貴族令嬢ですか。
「見違えたよ……」
「ふふん、見直した?」
「馬子にも衣裳」
「姪だよ?」
「その孫ではありません」
「????」
こりゃ優勝も狙えるかな?今なら勇者人気もあるし。
「聖剣ある?」
「持ってくる」
ドレスのまま、ごっつい聖剣持ってきました。もうすっかりなじんでますな。
【コントラクション】で小さくし、【フライト】で軽くする。全長30cm。
「明日はコレ隠し持ってて。抜いてからくるんと一回転させると元の大きさと重さに戻るから」
「ありがと! どうしようかって思ってたんだ!」
スカートをまくり上げて、鞘ごとガーターに挟みます。
「淑女がはしたないですよ」
「もっと盛りたい」
「我慢しなさい」
十七歳には十七歳の良さがあります。偽乳はいけませんよ。
『エントリーナンバー10番、アンナさん!』
ひゅーひゅー。うおおおお――――っ!
野太い男どもの大歓声の中、ボンキュッボンのパッキンだいなまいつお姉さんが、王宮のベランダより手を振ります。
ひらひらひら――――っ!
ぶるんぶるんぶるんっ!
うおう、だいなまいつ。
「……す、すっごいよみんな、私完全に浮いてるし……」
「大丈夫大丈夫、あいちゃんにはあいちゃんの良さがあるから!」
「なんで私最後なの――――っ!!」
「そりゃ勇者様ですし」
『エントリーナンバー11番、イベルタさん!』
どおおおおおお――――っ。
ふわふわのスカートでくるりと一回転、うおうっ! パンがチラしております!
スレンダーながら形の良いお尻が一瞬、男どもの眼を釘付けだ――っ!
『エントリーナンバー12番、ウルスラさん!!』
ぴっちぴちです。ぴっちぴちな衣装です。
これはきわどい! これはあざとい!
素晴らしい金髪、すばらしい胸のライン!
グラビアですか? グラビアポーズですか? 投げキッスも付けちゃうんですか?
「イヤだもう帰りたい……」
「さ、次ですよ!がんばって!! アピールをしっかりと!!」
あいちゃん、綺麗なドレスを身にまとって、ベランダへ。
がんばれ。