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13.こんな罠にひっかかんのかよ


 早朝から王宮関係者が集まった御前会議をやる。

 まあ反省会みたいなもん。

 みんな徹夜明けで眠そうだね。メイドさんたちが朝食を運んでくれます。


「おはようございます。みなさん、昨夜はご苦労様でした」

 王様が切り出す。腰が低い王様ですね。

「勇者様と執事殿の御活躍で私の命は守られました。ありがたいことです。しかし魔王は取り逃がしてしまいました。また襲ってくるでしょう。これ以上の犠牲は避けたい。次も私がおとりになりましょう」

「……」

「では朝の祈りを。この世界のどこかにある世界樹様、日々の糧をありがとうございます。われらの罪にお許しを。世界樹様の慈悲に感謝を。いただきます」

「いただきまーす」


 ……俺は飯が食えないんだよな……。

 そっと席を立ち、ベランダに出て左耳にタッチする。



「おはようラステル。昨日魔王が襲ってきたよ」

(早かったですね……。勇者召喚されてまだ一週間経ってないのに)

「そうだ、勇者のレベルが上がって、こちらの戦力が整った状態で襲ってくるはずなのにってとこだ」 

(それって、勇者のレベル上げのスピードが早いから?)

「そうだ。俺があいちゃんにガンガンレベル上げしてやってるから、世界樹の脚本が追いついていないってとこさ。だからあわてて魔王をよこしたのかもしれん。あんまり簡単に魔王が倒されたんじゃ、世界樹様のありがたみも減るってもんだからな」 

(魔王、どう見ました?)

「実体じゃないな。なんかこう……。実在していないような、そんな印象」 

(やっぱりですか。あれは多分思念体なんじゃないかと思います)

「なんだそのオカルト」 

(亡霊というか怨念というか……)

「だから聖剣、聖属性の武器で斬れると」 

(はい)

 ふーむ……。


「俺の仮説を聞いてくれるか」 

(どうぞ)

「奴は、王を殺そうとした理由を『傲慢を満足させるため』と言っていた」 

(はい)

「そして、それを防がれて激怒し、『余の憤怒をも』と言っていた」 

(『傲慢』と『憤怒』ですか……)

「そして、『満足した、人間の罪はまだまだ重い』と言って逃げた」 

(はい)

「つまり、奴は人間の罪を具現化した存在だということだ」 

(罪ですか?)

「そう、世界樹信仰の前にあったファルテス教の教義、七つの罪。『傲慢』『憤怒』『嫉妬』『怠惰』『強欲』『暴食』『色欲』」 

(ありましたね!)

「奴はそれを実行しようとする。実行できれば満足する。前の魔王は村々を襲い、王を殺害し、それをやりつくして勇者に倒されたんだ」 

(なるほどっ!!)

「そしてそれは防ぐことができる。それを妨害して、聖剣で切り捨てた。それだけでも奴は満足した」 

(つまり……魔王を本当に消し去るには……)

「残りの『嫉妬』『怠惰』『強欲』『暴食』『色欲』を餌におびきだして、切り捨てればいいということになる」

(……そんなのでいいんですかね?)

「まあ試してみるさ」



「さてみなさん。次の作戦です」

 全員の視線が俺に集まる。


「ここに古い聖書があります。世界樹信仰が広まる前の、廃教にされた、女神ファルテス教の聖書です。教会からお借りして、司書さんが持ってきてくれました」

「そこに魔王を倒すヒントが?」

「はい」

 おおっ……。食卓がどよめく。


「魔王は昨夜、王様を殺害しにやってきました。勇者様に理由を聞かれると、『余の傲慢を満足させるためだ』と言ったのです。この国の最高権力の象徴である陛下を殺害することは、奴の傲慢な感情を満足させるために必要だったのです」

「傲慢……」

「そして、勇者に挑発され、激怒しました。それを切り捨てられ、『憤怒をも』と言ったのです」

「いったいどのような挑発を……」

「それは勇者様の品位にかかわることですので……」


 クソ童貞野郎とか童貞童貞童貞とか……。そんな勇者伝説残ったら困ります。


「つまり奴はこのファルテス教にある七つの大罪、『傲慢』『憤怒』『嫉妬』『怠惰』『強欲』『暴食』『色欲』を実行しようとしています」

「なんとっ!」

「かつての魔王が、人間に戦争を仕掛けたのも、村々を襲い国王を殺害したのも、これをすべて実行しようとした結果と言えます。食料となる田畑を焼き払い、女を犯し、財産や宝を奪い、怒りにまかせて大罪をやりつくして、勇者に倒されたのです」

「では! それをやり終えるまで魔王は繰り返し襲ってくる?!」

 王宮に絶望が広がる。


「いいえ、これを事前に阻止し、聖剣で斬り捨てればいいのです。すでに『傲慢』と、『憤怒』は昨夜斬り捨てることができました。残りは『嫉妬』『怠惰』『強欲』『暴食』『色欲』の五つです」

「魔王はその罪を犯そうとしてやってくると」

「はい」

「しかし……それではどうしようも……」

 空気が沈む。


「簡単です。まず『暴食』からいきましょう」




 街中にお触れが行われる。



      『王国焼肉パーティー開催』


 勇者様が討伐成されたドラゴンを、勇者様のご厚意により

 全国民にふるまうため、今宵、焼肉パーティーを開催します。

 参加は無料。貴族から平民にいたるまで、こぞって王宮に

 お集まりください。

 貴重なドラゴンの肉を国民全員で味わいましょう!!

 

        主催 国王陛下



 街中に建てられた看板を見てあいちゃんがあきれます。

「……こんなんで来たら魔王バカだね」

「そのバカな作戦を考えた俺もバカだということに」

「ほんとに来るのかなぁ……」

「来る。国民全員の、『暴食』の感情がドラゴンに集まるんだ。奴は必ずそれを奪いに来る」

「来なかったら?」

「普通にみんなで焼肉食って、おいしかったねーさすがは勇者様、勇者様ご馳走様でしたで終わり」


 あいちゃんがゲラゲラ笑う。

「それならいいや。やろーやろー!」



 夕刻。

 王宮中庭のあちこちにバーベキューコンロが並べられ、紳士淑女、平民、老若男女、子供にいたるまで国民が押し寄せて大変な人だかりとなっております。

 器楽隊が楽し気に音楽を奏で、ダンスなども始まってお祭り騒ぎですな。

 中央には巨大なドラゴンの死体が置かれ、国民の皆さんの注目を浴びております。

 子供たちは大喜びですな。


 トランペットのファンファーレが鳴り響きます。

「みなさん、お忙しい中お集まりいただき、国王として感謝にたえません」

 国王陛下の挨拶です。

「このたびは、勇者様がはるか『ドラゴンの巣窟』まで出向き、ドラゴンを討伐なさってくれました。今宵は、勇者様の御寄贈により、これを国民皆様に味わっていただこうとこのような宴を催すことになりました」

 ひゅーひゅー、ぱちぱちぱち! 大拍手! 大歓声!

 あいちゃん手を振ってご満悦です。


「長話はそれぐらいにして、それでは、さっそくまず勇者様と、その執事殿によるドラゴンの解体ショーです!」

 うぉおおおおおおお――――。

 凄い盛り上がり。

 二人で聖剣と、ハンティングナイフをかかげ、では……。


「ふはははははははは!!」

 突然、不敵な笑い声が会場に響き渡る。


 ふわっとドラゴンの死体の前で実体化する魔王!!

「このドラゴン! 余がもらい受け……!」


 ずばあ!!

 俺のナイフと、あいちゃんの聖剣が魔王の体で交差する。


「ぐああ!」


 悶絶して倒れる魔王。

「き……貴様! 余の『暴食』を……」

 煙となって消える魔王。


「では、始めま――――す!」

 何事もなかったかのように、ずぱずぱとドラゴンを切り分け出す俺たち。

 腹を裂いて、どばばばばっと内臓があふれるところなど一大スプラッタですな。

 会場から悲鳴が上がります。

 スタッフがモツを運び、煮込みの準備が始まりますな。

 俺たちは皮をはぎ、肉を切り分けてコックに渡してゆきます。

 バーベキューの炭火が焚かれ、あちこちから煙と歓声があがりだしました。

「おいし――っ!」

「肉だ肉だ!!」

「あっさりしててしつこくなくてそれでいてこの歯ごたえと……」

「噛むと肉汁がじゅわっと……」

「なんて柔らかい肉なのかしら」

「ふぉふぉふぉ、年寄りが食べても腹にもたれませぬな」

「いくらでも食べられるよーっ!」

「なんか力がついたような気がする……」


 大好評ですな。

 酒も野菜もふんだんに配られ、パーティーは日を越えて続き、満腹になった市民が帰っても、評判を聞きつけた別の市民、仕事が終わった人、家族連れも次々と会場を訪れ、朝になるころにはすっかりホネだけになったドラゴンが残りました。


 同じホネ同士、相哀れむものがございますな……。




「おじさん、子供がいるって言ってたよね」

「いたよ。最初に転移した世界で。五年いたから」

「そこで結婚したんだ……お嫁さんどんな人?」

「魔王」

「え?」

「魔王様」

「え――――っ!」

「……まあ驚くよな」

「……魔王様って女の人だったんだ……。男だとばっかり思ってた」

「そうだろうね」


 二人でこの国最大のダンジョン、『地獄の巣窟』に来ております。

 二人ともレベル高いんでズパンズパンと順調ですな。

 すべての敵を一撃で倒しております。


「綺麗な人?」

「フツー。まあ美人かな。なんていうか面白い人だったよ。一緒に旅してて楽しかった」

「へえー……。おじさんなんで死んじゃったの?」

「ガン」

「子供まだちっちゃかったでしょう? 私のいとこだよね!!」

「うん……。その話やめて」

「うん」

「もう帰れないから」

「うん……」

「もう、絶対に帰れないから……」

「わかった……」


 二人で無言でコンビネーションを組みながらあっさりとボス級モンスターを倒してゆき、ついに最下層。

 キマイラですな。いろんな魔物のいいとこどりをして融合している感じです。

 俺が魔法をぶつけて気を引き、あいちゃんが斬りかかって触手とかヘビとか斬り落とし、あいちゃんに気が向くと俺がナイフで突き刺し、というぐあいにタゲを取り合って弱らせていきます。

 勇者級のアタッカーが二人もいると楽ですなー。

 ぐさりっ。

 最後にあいちゃんが聖剣を心臓部に突き刺して終了。


「さあやりますよ!」

 【メガコンプレッション】でキマイラの死体を圧縮。

 ベキバキボキ、空間が圧縮され、死体が潰れてゆきます。

 【ギガコンプレッション】を重ね掛け。

 超高圧、高温下で死体が結晶化し、青白く光ってきました。

 これを保持、ひたすら保持。


「うぐぐ……昼飯でも食っててください……」

「はーい、ダイヤモンドって、そうやって作るんだね」

「炭素の単結晶ですから、材料は生物でもいいんです。時間をかければかけるほど、結晶がきれいに成長しますので、品質があがります……ぐぐぐ」

 

 魔王が実行しようとしている七つの大罪。残りは『嫉妬』、『怠惰』、『強欲』、『色欲』の四つ。そのためのエサが必要です。

 王宮に聞いてみたところ、宝物庫に案内してくれましたが、これといったものはありませんでした。

「ここにあるのは過去の王の遺物や文献など、国宝級の物ではありますが、歴史的に価値があるというたぐいのもので、いわゆる金銀財宝ではないのです。そのような贅沢品、王室が独占するなどということ、厳しく戒めておりますからな」

 つまりは地方の領主や貴族などのほうがよっぽど贅沢してるということですな。

 銀行とかに金を集めるとかも考えましたが、どうせならもっと派手で目立つやつをエサにしましょう。

 世界樹が考えてる脚本の、斜め上をいかねば。



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