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1.死体を召喚してどうすんだよ

「理系のおっさんが物理と魔法で異世界チート」シリーズ第四弾にして最終章。

またまた世界が変わりますので、別作品としてお届けいたします。


 俺は泣いている。

 だが、涙が出ない。

 ……なんだこの物凄い違和感は。



 俺は三回目の異世界転生からまた帰ってきた。

 前の世界で、女神ルナテスと出会い、復活を繰り返す魔王を完全に封印して呪われた輪廻を終わらせるため、二人で闘った。

 女神ルナテス様自らが勇者となり、俺はそれを助け、ついに魔王を封印したのだ。


 ……ルナテス……。

 たったの一か月間だけだったが、夫婦になって、愛し合った俺の妻。

 妻が残した封印の世界樹。俺はそれに自分の命を重ねて、封印を完成した。

 もうどうなってもよかった。

 俺の物語は、あそこで終わるはずだった。


 なのに、今、俺はまた転生させられてここにいる。

 いったいどういうことなんだ……。この違和感はなんだ。


 涙を流せない。顔をおおった手を見る。

 ホネ……?

 骨だ。

 俺の手は骨になっていた。

 顔を触ってみる。

 鼻が無い。穴だけだ。

 唇が無い。歯が直接触れる。

 目が……目がない。落ちくぼんだ眼孔があるだけだ。

 腕……ボロボロの、朽ちた染みだらけのハンター服。

 最後の時に着ていた服。


「なんじゃこりゃあああ――――――――!!」

 俺は跪いて手をわなわなさせた。


「俺……俺、アンデッドになっちゃったの?」


「正確にはアンデッドじゃありません」


 なにもない白い空間。ただただ白い……。

 そこに女神様がいる。

 幼女だね。幼女? 十歳ぐらいかな?

 白い服着て、背中に白い羽生えて、金髪で色白で、なんというテンプレ天使。


「アンデッドは魂持たざるただの動く(しかばね)。佐藤雅之さん、あなたは体こそ朽ち果てましたが、生きていた時の佐藤さんそのままです」

「だからそれがアンデッドだよね。死んだのに生きている。もうアンデッドそのものだよね。っていうかホネだよね。ガイコツ男だよね」

 俺の初めての転生で放り出された最初の世界。そういえばあそこにもガイコツ男いたわ。魔王カーリンの側近。みんなガイコツガイコツって言ってたからガイコツでもういいやと思って名前聞いてなかったけど。あんな感じなのかね俺……。


「……死なせて。もういいかげん死なせて……。俺こんなふうになってまで生きていたくないし」

「そうしようと思っていたんです」

 幼女天使が申し訳なさそうに語る。


「佐藤さんとルナテス様のお話、女神だったらもう誰もが知っています。悲しくて、美しい、愛の物語でした。自らの身を捧げて世界を守った、ルナテス様と佐藤さんに、もうこれ以上重荷を背負わせるのはやめよう。あのままにしておいてあげようということになりまして、佐藤さんの体はあの木の下で朽ち果て、世界樹の養分となり、あれから一年。今もあの世界を守っています」

「だったらそうして……。もうほっといて……。ルナのもとに返して……」

「緊急事態なんです。佐藤さんにしか頼めない」

「もうどうでもいい。何もしたくない」

「そこをなんとか」


「……奴隷って、何で言うこと聞くか知ってる?」

 二つ目の異世界で、獣人の奴隷をたくさん見てきた。

「奴隷はね、鞭打たれるから言うこと聞くんじゃないの。痛いことされたくないから働くんじゃないの。死にたくないから言うこと聞くの。わかる? 死んだほうがマシだと思ってる人間は奴隷にできないの」

「……」

「奴隷にだって、生きる希望が必要なの。俺にはもうそんなもの何もない……。君の言うことなんか、聞きたくない」


「話だけでも聞いてください」

「……いいでしょう。聞きましょう」


「私の管理している世界は……管理なんか必要ないほど、平和です。争いも何もなくて、みんなが仲良く、善人ばかりで、悪人もいなくて、天国のような理想郷です」

「なにそれ自慢?」

「自慢じゃありません。私の前任者の女神が作り上げた世界です」

「だったら俺いらないよね。なんの用があるの?」

「そんな世界でも、定期的に魔王が現れて人々を苦しめます。でも、そうすると、その世界の世界樹が勇者を異世界から召喚して、魔王を倒します」

「だったら勇者に任せりゃいいよね。俺の出番いらんでしょ」


「……今回、召喚されたのは、日本の女子高生なんです」

「女子高生嫌い」

「え?」

「女子高生嫌い。どうでもいい」

「えっえっえっ?! あの、中年の男性ってみんな女子高生大好きなんじゃ?」

「女子高生ってさ、あいつらリーマンのこといっつも『キモーイ』とか馬鹿にした目で見てきやがって、いつも電車に乗ってくる俺の事イヤそうに見てさあ『ああいうのが痴漢すんだよね』とか俺に聞こえるように言ってきてさ俺もう自転車通勤に切り替えたもん。なんなのあいつら? 自分の事姫かヒロインとでも思ってんの? 女子高生ってそんなに偉いの? 大っ嫌いだよ女子高生なんて」


「……佐藤さんがそんなに女子高生にトラウマがあるとは思いませんでした……。絶対話に乗ってくると思ってたのに」

「ああ、俺はロリコンじゃないからな」

「そういえば年上大好きですよね佐藤さん。43歳にもなって」

「やかましいわ。それと俺42」

「最後に死んでから1年たってますよ」

「悪かったな」

 そりゃ最初の妻の魔王カーリンは百歳超えてたし、三番目の妻の女神ルナテスは千歳超えてたけどさ。あれって年上のカテゴリー? 二人ともめちゃめちゃいい女だったわ。


「風俗嬢も異種族も大好きなんですよね」

 悪いかよ俺の唯一の癒しだよ。そりゃ二番目の妻のらぶちゃんは娼婦で獣人だったけどさ。

「俺の天使に何か?」

「生前全くモテなかった人が異世界来ると、異種族美少女にハマりやすいとは聞いてますが、ハマるのが年上とか獣人とか、佐藤さんの前世ってどんなんだったんでしょうねぇ……」


 お前みたいな幼女がそれ言うか。腹立つわ――――っ!


「……まあ、ハーレム作らなかったことだけは評価できます。それやると女神たちにめっちゃ嫌われるので覚えといてくださいね」

「今になってそんなこと言われても遅いわ。ガイコツだし」

「異世界に奴隷制度があるとみんな大喜びで奴隷ハーレム作るんですよね……。奴隷制度と闘って奴隷解放してしまった異世界人なんて佐藤さんが初めてじゃないでしょうかね」

「褒めてもなんにもでないし、やらないからね。あんなことはもうウンザリだからね」


「佐藤さんはその点で今回、安心して任せられる適任者なんです。他の見境ないハーレムマニアにはとても依頼できない内容なんです」

「……まあ女子高生相手じゃ、そうかもな」

 右も左もわからない異世界に放り出されて困り果ててる女子高生なんていいカモだわな。若い男だったら手出すに決まってる案件だわ。


「今回召喚されたのは、北原愛さん、十七歳です」

「あい……!?」

「あなたの姪御さんなんです」

「あいが? あいちゃんが!?」

「そう、あなたの妹さんの娘さんです」

「あいちゃんが、あの小学三年生だったあいちゃんが勇者……」

 俺は幼女天使に飛び掛かって首を絞めてぶんぶん揺さぶる。

「なっなんてことしてくれてんのこの幼女! 戻せっ! 戻してやれ!」

「く、くるし、手放して、放して、き、聞いて聞いて!!」

「聞けるかああああああああっ!!」

「わっわっ私じゃなくて! 私じゃなくて召喚したの世界樹ですから! 落ち着いて、落ち着いて! お願いですから!! ぜーぜーはーはー……」


 すらり、腰に差してあった魔王ルシフィスのハンティングナイフを抜く。

「……話によってはこの場で殺すぞ」

「……こ……怖いというか怖すぎますよ佐藤さん……」


 顔真っ青にしてガクガク震えながら幼女が見上げる。

 そりゃあ怖いよな、俺見た目白骨化したゾンビだろうからな。

 それがナイフ持って突き付けてりゃいくら女神様でも怖いよな。


「世界樹に意図があったとは思えません。本当に偶然なんです。魔王が現れ、世界で魔物の動きが活発化しようとしています。人々は平和すぎて闘う手段を持ちません。世界樹が召喚した勇者に頼りっきりなんです。でも、愛さんはまだ高校生。いきなり召喚されて、勇者になってくれだの魔王を倒してくれだの言われても無理な話です。助けてあげられる人もいない。頼りになるパーティーメンバーもいないんです。途方に暮れて泣いているんです」

「……あいちゃんが……」

「私もなんとかしてあげたくて……でも、世界樹の力が強すぎて手出しできません。私は名ばかりの管理者。この世界を管理しているのは世界樹なんです」

「……それで俺にどうしろと」

「愛さんを助けて、共に魔王を倒してほしいんです。そうすれば、世界樹が愛さんを元の世界に返してくれます」


「もし倒せなかったら?」

「愛さんはこの世界で死に、新たな勇者が召喚されるでしょう」

「クソだな世界樹」

「まったくひどい世界です。人々が平和、人々が善良でありさえすればいい。犠牲は全て勇者が生贄になればいい。そんな世界です……。私の前任の女神が作り上げた……クソな世界です」

 女神様が『クソ』とか言っていいのか? よっぽど腹に据えかねてるってことか。


「……わかった。その世界、壊してやるよ」

「お願いします。この世界では私はほとんどあなたの手助けができません」

「女神紋だけか?」

「……はい」

「十分だ」

「では左手を出してください」

「あのさ」

「はい?」

「前から思ってたんだけどさ、女神紋て面倒なんだよな」

「そうですか」

「ハンズフリーとかにできない?」

「そうですね、そうしましょうか。じゃ、ちょっとかがんでください」

 

 女神様が俺の左耳(があった場所)に手を当てる。

「これで私といつでも通信できます。使い方は左耳に一回タッチすると回線が開きます。もう一回タッチで通信終了。耳小骨を直接振動させる骨振動タイプです。他の人には聞こえません」

「どこのスネークだよ」

「だって佐藤さんホネしか無いんですもの」

「あははははっ!」

「ふふふふ……」

「なんなら大佐って呼ぼうか」

「申し遅れました。私はラステル、女神ラステルです」

「では作戦に入る」

「お願いします」


 こうして、俺は四回目の異世界に転生することになったのだ……。



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