第十五話 あと わずか
十月、空が夕闇に染まりつつある時刻。
「無頼」ブリッジに隊長格を集めた。最後の作戦会議。いろんな不安要素も計算に入れ勝利率を割り出した。
50,9%
これが数字で表した結果・・・
低いと見方をする者もいれば高いと言う者もいる。だが渚はこの勝率を40%下げる最大の不安要素があった訳で渚は言わずに自分の中に閉じ込めた。悪戯に兵の士気を下げるのも良くない
「炎龍」
それが渚にとって最大の不安要素だった。
翌日
渚は亜里亜に言われた通りに「無頼」のデッキに向かった。
「ごめんね、忙しい時に呼び出して」
「構わないよ、別に。今はみんなに最後って言うのは変かも知れないけど休んでおけって言っておいたから」
「そう・・・」
「で、何か用?」
「うん・・・、明日が最後の戦いだよね?」
「さぁ、どうかな。確実に終るって保障はないし、それに昨日の会議で出た勝率も見ただろ?だから分からない」
そう最大の不安要素があるのだから・・・
「渚自信は勝てると思う?」
「勝てる自信ある?って聞かれた無いって答えるしかないよ。俺だって人間、死ぬのは怖いしそれ以前に人が大勢死ぬのは嫌い・・・だからこの道を選んだ。それは亜里亜も分かってるだろう?」
すべての始まり・・・三年前の虐殺
「うん・・・」
「もし、戦いたく無かったら言ってもいいぞ?本来ならお前はパイロットじゃないから」
「さすが言わないよそれだけは・・・私だって人を殺してるんだから」
渚は苦笑した。まさか亜里亜が人を殺したなんて言うとは思わなかったから
「そうか、亜里亜は戦いが終ったらどうする?」
「それは私達が勝った事を前提で聞いてるの?」
「そう考えて貰っていいよ」
「その事で約束して欲しい事があるの」
「約束?」
「うん・・・この戦いが終ったら一緒に暮らして!」
亜里亜の言葉の最後方は語気が強まっていた。それほど本気なのだろう。渚は笑みを浮かべ「いいよ」と答えた。そして亜里亜は走り去って行く。渚はそれを見送りながら「ごめん」と内心で謝罪した。
その機体は白く神々しい姿をした人型機動兵器、名は「バリスタ」と言う。その前に呆然と立っているのは三年前まで渚の親友でもあった少年・夜見トオル
「トオル君、ちょっといいかしら?」
不意に女性の声がした。その女性はトオルの専属オペレーターで今はトオルの方が階級は上だが今でも階級に関係ない態度で接している。
「バリスタの新兵器・剛圧砲が完成したわ」
「そうですか、間に合ってよかったです。」
「これであの真紅の機体に対抗できるかもね」
「だといいですね」とトオルは笑みを浮かべ答えた。それから色々なマニュアルを渡され、トオルはしばらくそれに没頭する。
(渚、君には悪いけど死んでもらうよ。)
トオルは心の中で呟いた。
「どうしたんだ?こんな時間に」
自室で休んでいた渚の所に半ば強引に由井が入ってきた。
「いや最後の晩餐でもしようぜ」
「晩餐て・・・まぁいいか」
ため息を吐きながら渚は由井に座るよう促した。
「俺達、酒は飲めないからコーヒー持ってきた・・・ってなんだその以外って感じの顔は?」
「そのままの意味。普通お前なら酒でも持ってきそうだからな」
「馬鹿にするな!」とハリセンが飛んできたが難なく避ける。
「お前の行動パターンは予測済み、それに一年前にもこんな事があった気がする」
「まぁ、とりあえず乾杯と言うことで」
二人でコップを合わせる。本来ならワインなんだろうが中身はコーヒー
「で、本当の目的は?どうせ本当に晩餐しに来た訳じゃないだろ?」
「まぁな、言っておきたい事があってな」
「なんだ?」
「死ぬなって事」
「なんかそれ言われたの二回目だったかな・・・そんな死にそうに見えるか」
由井は無言で頷く、渚は一気にコーヒーを飲み干す。
「その事に関しては重々承知してるよ」
「あと途中に指揮を放棄するのも・・・」
「それも重々承知」
その後、二人は談笑しながら昔の事を思いでしていた。
「あの時、渚は転んだぐらいで泣いてたよな」
「それを言うならお前だって浅い川で溺れてたじゃないか」
こんな他愛のない会話も何時までも続くと思っていた三年前・・・
「さぁて、明日早いんだろ?ここらで上がらせてもらうぜ」
「あぁ、明日な」
「絶対・・・勝ってやろうぜ!」
「ああ」
そのまま夜は明けていく。全ての終わりを告げる為に、そして人々の想いを告げる為に・・・