第十二話 刹那 と 瞬間
渚は「馬孫」と対峙していた。機体からでも分かる威厳、そして殺気。「紅月」は左腕を前に構え、身構える。相手は副提督、操縦桿を握る手に力が入ってしまう。
「トオル達が言ってた機体ってこいつか?蛍」
「多分」
後方には黄色い機体「電光」が静観している。渚はそっちにも警戒して、タイミングを伺う
「行くぞ!」
先手を取ったのは以外にも豪の狩る「馬孫」槍状の武器「雷鳴」の五段突き。
一突き目
「紅月」はプラズマソードで対応する。単純な押し合いなら「紅月」は「馬孫」には勝てない渚はその事は重々承知していた。だから受け止めるのではなく軌道を逸らさせる。
二突き目
目標は「紅月」の胸部、つまりコックピット部・渚は素直に攻撃を通す筈がない。渚は「紅月」の右腕で受け止める。損傷はしたものの大事には至らなかった。
三突き目
頭部を狙ったもの、渚は雷鳴が直撃する前に敵を一蹴する。だが「紅月」の蹴りを受けた「馬孫」は微動だにしなかったが軌道は逸れた。
四突き目
横に薙ぎ払う。「紅月」は跳躍、左腕を前に突き出す。五突き目に移行される前に渚はトリガーを引いた。
刹那
紅の光が一瞬だけ豪の「馬孫」を包んだ。雷鳴を構えたまま、時間が止まったように動かなくなる「馬孫」
「ちっ!これがトオル達が言ってた兵器か!」
豪は何回も操縦桿を動かすが反応がない、「紅月」の中に居る渚は汗を拭った。
「これでしばらくは動けない」
「紅月甲壱飛翔式」は「馬孫」を見下すように上昇、そのまま「電光」に襲いかかる。
「ファリナ隊長、敵の陣形が崩れて来ています」
「よし、このまま攻め込む、零番隊、四番隊は我が隊に続け!」
流れ込む黒い「セルク」そのなかに紅い機体と蒼い機体も入っている。
戦況は着々とナイトメアが進軍していった。
迂闊だった。
黄色い機体、「電光」は一見、武装をしてない様に見える。だがそれが最大の罠だった。
「指が伸びる?」
「電光」の指部が伸びるのだ。鞭の様にしなり、距離に関係なく伸びる。
渚は甘く見すぎていた。見た目は「紅月」と同じ位細い
バンッ!
両腕を鞭の様に操る「電光」、渚は近づけずにいた
「つまんない」
操縦桿を巧みに扱う蛍、「電光」に死角はない。「紅月」は森林を盾に隠れる。
「丸見え」
「電光」はバッサバッサと鞭を振るい、木々をなぎ倒す。だがそれこそが渚の狙い
「今だ!恋那!」
渚が叫ぶ。その刹那、朱色の機体が「電光」の左腕を切り捨てる。「バリス」朱色の機体の名前だ。
「大丈夫ですか?兄さん」
両腕で紅い刀身のサーベルを構える「バリス」その中から声が聞こえた。
「あぁ、助かったよ恋那」
形勢逆転、かと思った瞬間。衝撃が「紅月」を襲った。
握り拳の「馬孫」
左腕、頭部がない「馬孫」
「こいつ、自分で衝撃を機体に当てた?」
「まだだ!まだ終わらん!」
再び加速する「馬孫」、「紅月」が体勢を立て直す前に更なる追撃として頭部を地面に叩きつける。
「兄さん!」
「バリス」は「紅月」に接近しようとするが目の前には「電光」が立ちはだかる。
「貴方の相手は私」
「くっ!」
渚はコックピット内で流血した頭を抑え、トリガーを引く
ドォン!
紅の業火、超圧縮波動を遠距離用に改造した・超圧縮波動砲。「紅月甲壱飛翔式」の最大の改造点だ。
だが決して無駄ではなかった「馬孫」の両足を消滅させたのだ。
「豪、ここは撤退。私達の負け」
指の鞭が五本から三本に減っている「電光」が豪の乗る「馬孫」に告げる。
「仕方ないか・・・司令部、聞こえるか?」
「はいっ、副提督」
「全軍に撤退命令をだせ!」
「はっ!」
士官が敬礼すると豪は脱出シートを使い、姿を消す。それと同時に「電光」も姿を消した。
「兄さん、大丈夫ですか?」
恋那の声、だんだん薄れていく。渚の意識はそのまま途絶えた。
機体説明
BA−SN「馬孫」
全長 4、69m
日本軍副提督、七武衆の一人である草壁豪の専用機
耐久性は高く、馬力や加速力は紅月を遥かに超える
装備 対人型機動兵器用槍「雷鳴」
DN−KU「電光」
全長 4、2m
七武衆の一人、臣獄寺蛍専用機。機動性が極限まで高められ、武器も指部だけに絞られている。武器は十本の指を鞭の様に使う
装備 指部型鞭「ワイヤーウィップ」