名を知る人物
「確かにそうだ。この先何があってもだな」
亮介が言う。
その時だった。突然、栄一の携帯に着信音が鳴り響いた。彼がふと目をやるとそれは知らない番号からの着信だった。
亮介とユキは栄一の携帯に目を向ける。
「知らない番号だ」
栄一が不安そうな面持ちで呟いた。すると亮介は彼の方に手を置いて声をかける。
「出るのか?」
「出てみようと思う」
そうして、彼は着信を受けた。三人に聞こえるように、ハンズフリーボタンを押す。
「……もしもし」
「お忙しいところ失礼します。光の国振興団の山崎でございます。ただいま講演会主催の件でお電話いたしました」
どうやら間違い電話のようだ。栄一はいささか安堵を覚えた。
万が一、という可能性があったからだ。万が一あの例の悪魔本人からの着信だったらどうしようか、そういう不安が胸いっぱいに広がっていたからであった。
「あの……とちら様にお掛けでしょうか?」
栄一は答えた。
「えっ? 宗教法人 柵槻の柵槻健二様では…………」
「ごめんなさい、違います」
「あっ、これは大変失礼いたしました」
そういって電話口の相手が切ろうとした時だ。
「……ちっ! ただでさえ悪魔は怖いっていうのに、ビビらせんなよ」
愚痴をこぼしたのは亮介だった。
しかし、その愚痴を聞いた電話口の相手は、その言葉を聞き逃さなかった。
「……ちょっと待って!!」
彼の静止を聞いた栄一は思わず
「はいっ」
と返事をしてしまった。
「悪魔? 今悪魔と言ったのかい?」
相手は興奮の声色で尋ねる。
栄一は、またバカにされるのだろうと思った。
中二病だとあざ笑ってくるのではないかと、あまり期待をせずに次の言葉を待った。
「差支えなければ、その話……詳しく聞かせてくれないかな」
その場にいた誰もが、何故、という疑問を抱いた。
なぜ自分たちが、顔も知らない相手に、前回の事件について明白に語る必要があるのだろうかとも思った。
しかし、一旦、栄一は電話を保留にして亮介に告げる。
「…………亮介、俺思うんだ。さっきこの人…宗教団体と関係があるような言い回しだった。何かヒントになるような事を聞けるかもしれない」
「いや、栄一それは危険だ。電話口の相手が仮にヤツだったらどうする? 俺たちが何を見て、どうヤツと接したが、まんまと策に乗るか? お前は」
その可能性は大いにあった。
間違い電話になりすまし、こちらの様子をうかがってあの日のように攻撃を仕掛けてくる可能性はあった。
「……物事は、負の側面ばかり考えていても埒が明かない。もし、例の悪魔からの詮索だったらどうするか? じゃなくて、もし仮にこの人が本当に宗教団体と絡みのある人だったら、もしかしたら何かしらのヒントになるかもしれない」
その栄一の言葉を聞いてユキが口を挟んだ。
「それに、仮にこのまま電話を切っても、また私、いつ襲われるか分からないから……」
ユキの悲しい表情から藁にも縋る思いなんだなと感じ取る事ができる。
「……分かった。話すよ。この怪しげな宗教の人に助けを求めてみよう」