ハッカイ・トバシ
公園に悪魔が現れてから、数週間が経過した。あのあと、三人が奴を目撃した事はなかったが常に彼らの頭の中には、常識を逸したあの事件が堂々巡りしていた。
栄一は病院に行ったとき、この手の甲の傷については「喧嘩をしてやられた」と言って、不思議な顔をされたのだった。
ある日、栄一、亮介、ユキの三人は再び公園に集まりこれからの事を話あう事にしたのだった。
日が沈み、夕日が彼らを照らす。ふと亮介が口を開いた。
「なあ、みんな……幽霊って信じるか?」
「何いってるんだよ。この間、見せられたじゃないか」
そういって栄一は手の甲の傷を亮介に見せる。
「ああ、いや。それはそうなんだけどさ。こう……なんていうか論理的に説明できるのかな?って」
「論理的?そういう理論が成立しないからこその霊的な現象じゃないのか?」
「いや、違うんだよ。こういう話を聞いたことがないか?どこかの国で実験がされて、ある人に熱した鉄を見せる。そのあと、目隠しをして今度は熱くない鉄をその人に当てると、まるで火傷をしたかのような傷が浮かび上がる」
「人の思い込みが、実際に身体に影響するっていう」
「ああ、そうだ」
「栄一くんのその手の傷も、同じような原理っていう事なのかな」
ユキが興味深そうに尋ねる。
「おそらくそうだろう。西洋の悪魔祓いにおいても、悪魔に取りつかれた人の体に傷が浮かび上がる現象とも似ている。強烈な疑似体験はもはや疑似体験ではないってことだ」
「それは、身体に影響するからって事?」
「ユキちゃん。単にそれだけじゃないと思うんだ。もっと本質的な、科学の例外。千載一遇のピュシス」
亮介はうつむいて、しばらく考え込んでいた。
「まあ、そういう、事もあるんじゃないか。
科学では解明できていないけど、それも時間の問題というか、俺たちの頭がまだその科学的合理性を理解できないっていうだけで、実はもう、すでに現実に起こり得ても不思議ではないというか……こう、なんていうかね、説明が難しいんだが」
栄一は頭を抱えながら必死に説明をしようと試みる。
「そう!つまる所そういうことだよ」
亮介が声を張り上げた。
「ねえねえ。でも肝心なのってどうしてアイツが私たちを襲ってくるのか、なんじゃない?科学がどうこうじゃなくてその理由のほうが肝心な気がするけど」
ユキがいうと、栄一と亮介はああ、そうだよなというふうに、顔を見合わせた。
「確かにそうだ」
と、亮介。
「理由か」
そんなのないよなあぁ、と内心思いながらもユキの顔をみる。
「まあ、この先何があっても、俺たちは逃げられそうもねえから、迎え撃つしかないな」
そういって栄一はニヤリと笑みを浮かべるのである。